猫を起こさないように
メダリスト
メダリスト

雑文「虚構ガッカリ日記」(近況報告2025.4.3)

 原神第5章・栄華のバトルアリーナを読了。このお話、屋上に屋を架した大蛇足へのさらなる追加蛇足から、非実在ヘビの足首にリボンまでかけだしたみたいなもので、おのれをいつわらざるホンネの感想といたしましては、「いつまでもナタをこすりつづけてんと、さっさと次の国へ行こうや!」でした。それもこれも、制作ディレクターがマップ導入順の進行管理に失敗して、豊穣の邦での冒険より先に戦争の完全終結を語るハメになってしまったことが、悪印象を与えている主な原因です(妄言)。ヴァレサなる新キャラも、「ピンク髪に恥じらい多めの、怪力で大食いなのに小心な牛娘」という萌え要素をギガ盛りにした、原神世界というよりは昨今のVtuber界隈を模したみたいなキャラになっていて、ホヨバから「オタク君、こういうの好きでしょ? 性癖でしょ?」とウワメづかいに詰めよられても、キリッとした表情で「いや、あの戦争をともに戦わなかった者は、仲間でもなんでもないんだが?」と冷静に返答できてしまうほどの無感動ぶりです。なんの感情もINKEIの傾斜も動かぬのに、豊穣の邦のマップへ干渉できる竜の配置が絶妙に不便なせいで、探索要員としてガチャを引かざるをえないという鬱陶しさは、原神らしからぬユーザー・フレンドリー・ファイア(なんじゃ、そりゃ)な調整になってしまっているのです。終戦後のナタにおいて、登場するたびに炎神の格がどんどん下がっていくのも個人的には大問題で、古い人間ゆえに古い映画で例えておくならば、バグダッド・カフェにおける「トゥー・マッチ・ハーモニー!」の絶叫のあと、さらに2時間ほど映像が続いたようなゲンナリ感だとでも表現できるでしょうか。おい、ヴァレサ! オマエはノット・コーリング・ユーや! 「大戦終了後に、満を持して完成した決戦兵器」みたいなキミの立ち位置は、いったいぜんたいどないなっとんねん! ポッと出ェでがんばらなアカンのに、「演技は苦手だから、後方支援にまわるよー」じゃないんや! それこそ、今回が最後の出番なんやから、ナタの諸先輩方を押しのけて、もっとガツガツ前にいったらんかい、ボケェ!

 あと、遅ればせにアニメ版メダリストの12話を見たんですけど、マイ・フェイバリットであるところの「見なよ…オレの司を…」のコマが、思わずもれでる内面の声や表情のうるささへのキャプションではなく、直球にセリフとして処理されていたのには、心底ガッカリしました。音声エフェクトをかけてホーミーみたいに二重処理するとか、漫画版そのままに背景へ書くーー事実、「絶対に認めさせるマン」はそうなっているーーとか、やり方はいくらでもあったでしょうに、元々の主人公のセリフをオミットする最悪の選択をしてしまっている。メダリストという作品が大好きなので、多少の不出来ならば「黙して語らず」と思っていたのですが、このアニメ版は声優の生声”以外”のいっさいを、漫画版へ足すことができていません。原作の描線や構図を生かさない、簡素な棒立ちのバストアップによる会話のやりとりもそうですが、なによりひどいのはCG丸出しのスケーティング・シーンです。無機質に引いたカメラから、淡々と3Ⅾモデルへ付けられたモーションを追うばかりで、漫画版の見開きや大ゴマが持つカメラと構図のキレ、擬音のデザインやデッサンの歪みから醸成される、あの圧倒的なまでの情感を致命的に欠いている。この12話においても、外野でほめまくるモブのセリフがひどく浮いて聞こえるぐらいの、あんなフニャフニャな暗黒舞踊モドキを見て、リオウ君がツカサ先生に心酔するようになるわけないじゃないですか!

 イライラが止まらなくなってきたので、とばっちり的に単行本未収録のアフタヌーン本誌における展開へ言及しておきます。あのさあ、こんなことになるぐらいなら、北島マヤと姫川亜弓みたく最初からダブルヒロインを明言するか、いっそヒカルちゃんのほうを主人公にしておけばよかったじゃねえか! こっちは12巻をかけて、すっかりイノリちゃんの保護者か熱心なサポーターみたいな気持ちにさせられてんだよ! ヒカルがイノリを物心両面からボコボコにくらすシーンがしつこく何話も続きすぎて、作り手の「イノリの声優にアテレコさせるための悲鳴が書きたい!」というサドマゾ性癖を越えて、ヒカルの言動がほとんどサイコパスになってんだよ! メダリストが正しく終わるためには、「圧倒的な経験と才能の違いを、コーチによる差分でかろうじて上回る」展開しかねーんだよ! それが近年の艦これイベント海域の甲難度みてえに、どうひっくりかえしたって初心者スケーターの勝ち筋は、完全に消えてしまってんじゃねーかよ! 「12年選手の甲勲章32個持ちベテランに、4月からはじめたばかりの初年度ルーキーが、数年前に引退した提督からコーチングを受けながら、次回の夏イベント甲難度でRTAクリアに競り勝たねばならない」みたいな状況にしやがって! 練習ばかりで芽の出ない下積み期間が長くなりすぎて、イノリちゃんを見るまなざしに、かつて「自分がテレビで鑑賞したときには、なぜか必ず転倒する実在のスケーター」へ感じていたマイナスの気持ちが、否応に混入するようになっちまったじゃねーか! キャラクター全員の内面を等価に掘り下げたら、主人公が特別な理由なんてぜんぶ消えちまうに決まってんだろーがよ! こちとら、「実家が太くて、慶應幼稚舎から親戚のコネを使って、一部上場企業に就職」みたいな”血統書の物語”から逃避するために、フィクションを読んでんだよ! たのむから、庶民で雑種のイノリちゃんを、ひたむきな努力だけで勝たせてやってくれよ!

 すいません、ほんの少しだけ激昂しすぎてしまったかもしれませんが、いまは「おのれの寿命とのチキンレースを避けるため、完結した作品をしか読まない」という誓いをやぶってしまったことに、ひどく後悔を感じております。しばらくはメダリストから離れますので、イノリちゃんが「いまだかつて敗れたことのないヤンデレ系サブヒロイン」をブチころがして金メダルをとったら、そのときはそっと教えてください(グラップラー刃牙みたいな主人公補正マシマシの勝ち方だったり、「イマジナリー6回転アクセルの着氷の論評」みたいな話になったら、教えないでください)。

漫画「メダリスト(12巻まで)」感想

 メダリスト、既刊12巻までをイッキ読みする。スケート漫画としては、銀のロマンティック以来なので、じつに30年ぶりの体験の更新です。ここまでの経緯をまず説明しておくと、アイドルマスターに登場する9歳(!)の女児を演ずる声優に作者が入れあげたあげく、彼女の趣味であるフィギュアスケートを題材にした漫画を企画して持ちこんだばかりか、主人公の小学生スケーターを同声優にピンポイントで当て書きしたという逸話を聞きおよび、「ロリコン男性作家、相当に気持ち悪いな……」と長らく手にとるのを敬遠していたのでした。それが、今期のアニメを3話まで見て、思わぬ好印象に続きが気になってしまい、密林の無限焚書で無料公開分を読んでなお熱がおさまらず、既刊全巻を一括購入して読破するにいたったのです。まずまちがいなく、この書き手はフラジャイルの作画担当と同じ系統の女性作家だと断言しておきます。女性であることを確信する理由は2つありまして、ひとつ目は大量の女子小中学生をこれでもかと投入して大開脚までさせながら、その描き方に性的なニュアンスがいっさい混入していないことです。ふたつ目は、女子の精神的な成長がキチンとていねいに描写されているところで、男性作家にこのレベルの解像度を期待することは、ほとんど不可能だと言っていいでしょう。なぜなら、多くの男性にとって女性とは、「処女」「妻」「母」という3つの類型におさまってしまうものだからです。狂信的なファンを呼びよせないよう短く言及すると、メダリストの対極にある作品は「咲-saki-」でして、すべてのキャラに作者の性的な視点がねっとりとまとわりつき、内面の成長を描けない分を異能力や語尾や胸囲やタコスなどの外形的付加のみで、差別化しているのです。

 あわてて話をもどしますと、本作を読んでいてなにより深く心に刺さったのは、司先生のキャラ造形でした。「だれにも見つけてもらえなかった」「だれにも導いてもらえなかった」過去の自分を、未来の原石に重ねあわせて手をさしのべようとする、「他者を通じた、自己の育てなおし」の様子が痛切に胸にせまって、気がつけばグシャグシャに泣いていました。それは、初代ロッキーでチャンスを手に入れた主人公へ老トレーナーが協力を持ちかけたところ、「オレは10年前にアンタに助けてほしかった! なんで、あのときオレを助けてくれなかったんだ!」と壁をなぐりながら号泣したのとたぶん同じ感情で、なんとなれば、現実では長い時間をかけて「見つけ、導き、助ける」側の見かけを手に入れていようとも、小鳥猊下サイドの心の奥底には「だれにも求めてもらえなかった」「だれにも愛してもらえなかった」という気持ちが、いつまでも消えずにくすぶっているからです。また、個人的に感心したのは、登場する小中学生の名前が持つリアリティで、クラスの女子の半数以上に”子”がついていた時代から、ゆうに30年は引きこもっている中高年男性にとっては「キラキラネーム(笑)」との認識なのでしょうが、こちらの名づけが本邦の主流になってひさしく、正しく令和の感覚にアップデートされた作品だなと思いました(名字までキラキラなのは、少々やりすぎですが……)。ただ、最新刊におけるストーリーの進め方はすこし気がかりで、年上スケーターのケガによる退場は、主人公に金メダルを取らせるための苦渋の選択だとしても、3月のライオンでいうところの「宗谷名人の人間部分の掘りさげ」に類する展開と、それにともなう「スケート人生で初めてのミス」は、はたして必要な挿話だったのでしょうか。ともあれ、今後は群像劇のサブシナリオで長期化させず、主人公のメインストーリーを強く太い軌跡で残しながら、正しい終わりに向かって滑走していってくれることを、切に”いのり”ます。

 あと、またぞろヨネヅのアホが出しゃばって本作のアニメに楽曲を提供してやがりますが、いよいよロード・オブ・ザ・リング3部作を経たあとの、ホビット3部作でのピーター・ジャクソンを彷彿とさせる、イヤな権威臭をはなつようになってきましたねえ。あのさあ、女子の成長譚であるメダリストの主題歌には、女性ボーカルのほうがはるかにフィットするだろうし、ぜったいに作者だって9歳女児役の声優に歌ってもらいたかったに決まってるじゃん! それを、国民的アニメ作家や国営放送との仕事を無敵の殴り棒としてふりまわして脅迫して、周囲の大人たちは作品のイメージにあうかどうかではなく、広報宣伝のみを重視したネームバリューへと膝を屈してしまった。グスグスと半泣きで抵抗をしめす作者を、編集部とか制作会社の人間が説得しにかかる様子がまざまざと脳裏に浮かび、暗澹たる気分になってきました。みなさんはぜひ、チョーシノリのヨネヅが描いたとふれこみのCDジャケット?の絵を、原作の表紙と比較してみてください。ロリコン男性から女児に向けられる性的ニュアンスに満ち満ちていて、背筋がうすら寒くなることうけあいですから!