誰かが言いました。
「慣れし故郷を放たれて、夢に楽土求めたり」

平成最後のテキストサイト100人オフ顛末書

 レースのカーテンごしから注がれる暖かな午後の陽の光で目を覚ます。
 意識が覚醒し、自分がだれであるかが戻ってくるまでの、一秒にも満たない瞬間――
 その一瞬だけが、いまのわたしにとってのやすらぎだった。
 インストールされるみたいに自我がおりてきて、そして、あの日の光景がフラッシュバックする。
 やすらぎはたちまちに去り、わたしは寄る辺ない幼子のように両肩をかきいだくと、さめざめと泣いた。
 どうして、あんな場所に行こうと思ってしまったんだろう。
 あの日以来、まるで浜辺に寄せる波のように、後悔が尽きることはない。
 わたしはいけないとわかっていながら、舌でふれてしまう口内炎のように、もう幾度目だろう、あの日の記憶を反すうしはじめた……


 わたしの名まえは、琴理香(こと・りか)。どこにでもいるふつうの女の子。
 でも、わたしにはヒミツがある。小鳥猊下(ことり・げいか)ってハンドルネームで、「ねこをおこさないように」っていう名まえのちょっといけないホームページを運えいしているの。ともだちも知らない、お父さんとお母さんにも言ってない、わたしと、そしてあなただけのヒミツ。
 いま、わたしは東京にむかう新かん線にのっている。新じゅくでおこなわれる、テキストサイト100人オフ会に参かするためだ。
 ながいあいだ会っていない管り人、はじめて会う管り人、そしてなんてったってわたしのアイドル、ウガニクのホームページがやってくる!
 これからおこるだろうできごとを想ぞうするだけで、自ぜんと笑みがこぼれた。
 わたしがほほ笑むと、新かんせんの窓ガラスにうつった気もちわるいオッサンの顔も楽しそうに笑った。
 でも、ここまでくるのは本とうに大へんだった――
 わたしはかん西の中小きぎょうの営ぎょうたん当で、オフ会の当じつ、大きなプレゼンをまかされていた。でも、プレゼンが終わってすぐに出ぱつすれば、いち時かんくらいの遅こくでまにあうはず。
 鉄どう検さくで何ども「かくにん!よかった」して、一かげつまえから同りょうにおかしをくばったり、何ども何どもこの日は早たいするって、根まわしした。ブラックきぎょうのへい社では、半きゅうをとるだけでも大へんなのだ。
 でも、いちばん大へんだったのは――
 「ハア? このクソいそがしい時期に、こともあろうか私用で有給申請ってどういうこと?」
 こめかみにしっ布のカケラをはりつけたおんな上しの大ごえに、ビクッとなる。
 「あの、でも、有きゅうは理ゆうを書かなくてもいいって……労どう基じゅん法にかいて……」
 「なに、アンタ! まさか労基にでも駆けこむつもりなの!」
 おんな上しがヒステリックにさけぶ。
 「あの、そんなつもりは……」
 土よう日なのに……本とうは、休じつ出きんなのに……。しゅう職氷が期のせいで、こんなブラックきぎょうにしかじぶんのい場しょがないことに、なみだがジワッとでてきた。
 「私用とやらのせいでプレゼン失敗したら、アンタのクビくらいじゃすまないからね!」
 強れつなば倒に身がちぢんだけど、労どう基じゅん法という単ごがきいたのか、有きゅう届けはなんとか受りされた。
 当じつのプレゼンは、大せいこうだった。満じょうのはく手を受けながら、わたしははや足で会じょう出ぐちへむかう。おんな上しは出ぐちで腕ぐみして、こちらをにらみつけてきた。業むに感じょうをゆう先させるタイプで、きょうも会しゃのそん失よりも、わたしの失ぱいをねがっていたにちがいない。
 「失れいします」
 かるく会しゃくすると、小ばしりにかの女の前を通りすぎた。
 せ中にことばがとんでくる。
 「いいご身分ねえ! みんなはまだ働いてるっていうのにさあ!」
 なみだがジワッとでてきた。けれど、ふりかえらずに駅まではしった。
 電しゃを2つのりついで、新大さか駅にとう着する。駅のこう内をい動するとき、券ばい機できっぷをかうとき、何ども、何ども、うしろをふりかえった。バカげているかもしれないけど、おんな上しがわたしをつれもどすために、鬼のぎょうそうで追いかけてくるような気がして、しょうがなかった。
 発しゃのアナウンスがあって、新かん線のとびらがはい後でしまったとき、とうとう逃げきれたことに、本とうに心のそこからホッとした。このしゅん間まで、オフ会に参加できると自ぶんでもしんじていなかったみたい。
 自ゆう席の窓がわに腰をおろすと、ずいぶんかんじたことのなかった、うきうき、ワクワクする気もちが全しんをみたしているのに気づいた。ブラック労どうでよく圧されていた、心の自ゆうをとりもどせた気ぶんがした。
 どう中、ずっとそのしあわせな気ぶんはつづいた。とつ然シンナーしゅうがするとおもったら、となりの席のじょ性がネイルをはじめていたりとか、「シューマイ臭せェ」「あ、ホント……」「だれか温めるシューマイやったんじゃないのォ」「うおォン」とか、自ゆう席なので、じょう客の民どはさい悪だったけど、ぜんぶゆるせた。
 でも、新よこ浜をすぎたあたりで、ひさしぶりのオフ会だし、ちょっと身なりを気にしてみようかな……なんて思ったのがよくなかった。
 連けつ部の洗めん台で、髪の毛にディップをつけてアッパーな印しょうをつくろうとしたら、うまくいかない。何どもくりかえすうちに、顔しゃモノのアダルトビデオで大りょうにせい液をかけられたみたいな、絶ぼうてきなし上がりになった。
 ほどなく、乗りかえ駅の品がわにとう着し、顔しゃモノのアダルトビデオで大りょうにせい液をかけられたみたいな髪がたで、新かん線のかい札をでた。
 奈良の田なか者には広すぎる駅で、山手せんのホームがわからずウロウロとしばらく歩きまわるはめになった。顔しゃモノのアダルトビデオで大りょうにせい液をかけられたみたいな髪がたのこともあって、とおりすぎるみんながわたしを笑っているような気がして、なみだがジワッとでてきた。
 しょうがなく駅いんさんに、顔しゃモノのアダルトビデオで大りょうにせい液をかけられたみたいな髪がたのまま、「やまてせんはどこですか」とたずねた。そうしたら駅いんさんは、田なか者への軽べつがふくまれた表じょうで、「やまてせん? やまのてせんなら、50メートルほど行ったところですね」と答えた。
 電しゃにのったあとも、みんなが顔しゃモノのアダルトビデオで大りょうにせい液をかけられたみたいな髪がたを笑っている気がして、わたしはずっと下をむいていた。
 新じゅく駅のホームにおりると、突ぜん知らない人が、「これからどこに行くんですか?(髪の毛に精液がついていますよ)」と話しかけてきた。あれふ?みたいな、こわいしゅう教のかんゆうかもしれない。わたしは首をちぢめて、し線をあわさないようして、足ばやにその場をはなれた。
 東ぐちをでると、外はどしゃぶりの雨だった。おかげで髪の毛についたディップ(せい液)は流れおちたけど、気ぶんはもうさい悪だった。
 オフ会の会じょうダーツビー・バー? ダーツバー・ビー? バーツビー・ダー?は予そうもしてなかった、地下のお店だった。わたしは幼しょう期に段ボールで施せつのまえにおかれていたトラウマから、へい所恐ふしょうだった。
 わたしはごくりとつばをのみこむ。最しょの一だんに足をかけようとしても、黒ぐろとした四かくいやみが、段ボールの中から見あげたくもり空を思いださせて、ほんの一ぽをふみだすことができない。
 そうこうするうち、気もちが急そくにさめていくのがわかった。
 もう帰っちゃおうかな。わたしひとり来なくても、だれも気がつかないんじゃないかな。
 ううん、わたしがいたら、むしろみんな迷わくかも。
 子ども時だいの気もちがよみがえって、ジワッとなみだがでてくる。
 そのとき――
 わたしの内がわで大きなこ動がきこえた。実さいに、血のながれがはやくなって、視かいが大きくゆれた。
 だめ、パイソン、いま出てきちゃ。わたしは、琴理香としてみんなに会いたいの……!!
 ねがいもむなしく、わたしは意しきを手ばなしてしまう。


*これより先は、弊社のスタッフであるロシアクォーターの米国人パイソン・ゲイのレポートを、シリア人スタッフがアラビア語を経由して日本語に再翻訳し、それをメガネのチ……もとい、視野および垂直方向にチャレンジされているボランティアスタッフが雨だれ式のタイピングでネット用に整形したものです。一部文意の通らない部分、政治的・倫理的に不適切な部分、タイプミスおよびミススペル等がありますが、当時の瞋恚状況を考慮してそのまま掲載させていただいております。あらかじめご理解賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。Sorry, this page is Japanese only!
(切り忘れたマイクから響く怒号)いいご身分よねえ! 日本語しか話せないくせに上級市民きどりなんだからさあ!


 ウォアアアアーーッ! しみったれたネット界隈のギークどもになんでオレサマが気を使う、ユーズ・キ・オーラせなアカンねん! ワンハンドレッドミーター先で御幸のようすを察知して、入り口まで全員でお迎えに上がるのがサブジェクツ・マナー、臣下の礼儀やろガ! リカのウィーク・イナフ、脆弱なセルフ・コンシャスネスからパーフェクトリィにメタモルフォーゼしたミーは、フェイスカラーをよく見せるスカーレットの勝負ネクタイを締め、アズール色をしたイタリアン生地の高級スーツに身を包み、メイド・イン・ブリテンの革靴でステアー、階段を音高くカツカツいわせながら、ビーツバー・ダーにエンター、入場したのデス! 後からこのパーリィにはミズショウバイ・ステイトのフィーメイルが何人か参加していたと知りマシタ! ハウエバー、ナン・オブ・ゼム、だれからも 声をかけられることはありませんデシタ!  ミーのフェイスとイデタチを見てビッグ・スペンダー、太い客だとわからぬようなクモリ・ステイトのマナコ・アイズではさぞかしメイク・リビングにディフィカリティを感じているだろうコト、ご推察申し上げマス!
 レセプション、受付にはトゥー・メイルズ・アンド・ワン・フィーメイルがスタンド・バイしていまシタ! ヘイ・ユー・ガイズ、ゲイカ・コトリがいじましいネット・スカムどものミーティングにアッド・グレイス、花を添えに来てやったヨー! ミーが勢いよくオドオド・ステイト(状態)でそう告げると、イイチコ・キングダムのエクス・マネジャーであるイワクラと、名も知らぬフィーメイルは、
 「本当に実在したんですね」
 「猊下はテキストサイト界のレジェンドだから」
 「何人か、猊下が来ているか受付で聞いていきましたよ」
 などどオール・アウト、全力でミーをフラッタリング、褒めまくりマシタ! 先ほどまでのデプレッションはどこへやら、すっかり気をよくしたミーは、ファイブ・サウザンド・イェンというトゥー・エクスペンシブなエントランス・フィーをイワクラのフェイスに「テイク・ザット・ユー・フィーンド!」とアターしながら叩きつけると、「よい大人のnWo(猫を起こさないように)小鳥猊下」と書かれたドッグタグ、犬の鑑札をぶらさげてイキヨウヨウ・ステイトでステップ・イン、会場に足を踏み入れたのデス!
 ハウエバー、イイチコ・キングダムの言葉をビトレイアル、裏切るようにノー・ワン・カムズ・ニアー、だれもミーのことにアウェアー、気がつきマセン! メイド・イン・スイスの高級クロックをグランスアットすると、オールレディ開会からワン・ナワー、一時間が経過していマシタ! ダンス・フロアーのスメリー・ギーク・ルッキング・ガイどもは、ノー・ソバー・オール・ドランクン、すっかり出来上がっていたのデス!
 段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。会場はすでにいくつかのグループに分かれ、互いに旧知の面々が談笑するという状況が出来上がっていた。無理もない。開始から、一時間も経過しているのだ。手もち無沙汰にツイッターでテキストサイト100人オフを検索すると、「テレホーダイ!」という乾杯の音頭でオフ会が始まった旨が楽しそうに書かれていた。私は、またもや自分が遅れてきたことを知ったのだ。私の人生はいつでも間に合わない。最適の瞬間を逃し続け、チャンスの後ろ姿を見送る後悔ばかりだ。もうだれとも話さずに会場を去ってしまおうかと考え始めたそのとき――
「小鳥猊下じゃないですか! お久しぶりです、テルです」
 ルックバック、声の主をふりかえると、グラッスィーズのスリムマン、優男がミーにシェイクハンズを求めてきていたのデス! ミーはモア・エクスペンシブなミーのグラッスィーズを誇示しながら言いマシタ! オーッ、テルさーん、ロング・タイム・ノー・シー、久しぶりなのネー!
 できる限りのチアフルネスでグリーティング、挨拶を交わしマシタガ、マイ・メモリーをいくらサーチしても、ミーにはこのスリムマンと会った記憶がありマセン! アンビギュアス、曖昧な気配を察知したのデショウ、「やだなー、前に大阪で会ってるじゃないですかー」とテルを名乗るキティ・ガイ、子猫ちゃんは言葉をかぶせてきマス! アルコールでブレイン・セルのロング・ターム・メモリー、長期記憶がデストロイされているボケ・ステイトのミーには、フロム・タイム・トゥ・タイム、ときどきこういうことがありマス!
 バット、テルを名乗るスリムマンにもミーのバッド・メモリーに対するレスポンシビリティ、責任はあるのデス! とかく古いテキストサイト界隈のハビタット、住人どものうち、特にスカしたテキストをディスクライブする連中は、テルとかニゴとかゴレとか、書いたテキストの方がリーディング・ロール、主役であると言わんばかりに、トゥー・シンプル、簡潔すぎるハンドル・ネームをつけるテンデンシー、傾向がありマス! イッツ・トゥー・ハード・トゥ・リメンバー、ジャパニーズ非ネイティブのラシアン・ハーフのミーには覚えにくいことこの上なしデス! イン・アディション、加えてネット・サーチにはアット・オール、まったく引っかかりマセン! ミーとリカのユニット名「小鳥猊下」はモア・ザン・エニシング、何よりもエゴ・サーチに特化したネーミングなのデス! アプルーバル・デザイアー、承認欲求をフルフィルするためのエゴサにつぐエゴサへ耐える強度を持ったハンドル・ネーム、それが小鳥猊下なのデス! イン・ザット・レスペクト、その点でウガニクというハンドル・ネームはオールモスト・パーフェクト、ほぼ完璧デス! この珍奇なイントネーションはワンス・ユー・ヒアー、一度聞いたらネバー・フォーゲット、忘れることがありマセン!
 オーッ、アイ・オールモスト・ファーゴット・アバウト・イット、あやうく忘れるところデシタ! このオフ会に参加したパーパス、目的はウガニクのホームページに会うことデス! ミーはテルにホエア・ウガニク・イズ、ウガニクがどこにいるか息まいてアスクしマシタ!
 「ああ、ウガニクさんならあちらの隅におられますよ」
 テルがポイント・アウト、指さした先にはワイアードなアトモスフィアーをかもすグループがいマシタ! サンクス、テル! ミーはテルに腰の引けた熱いハグをギブすると、ハート・ビート・ファスト、胸が高鳴るのを感じながら、トゥエニイ・イアーズ、二十年をかけてたどりついたラスト・フュー・ステップス・トゥ・ウガニク、ウガニクに向けた最後の数歩を歩いたのデス! ライク・エターニティ、それは周囲の光景がスロー・ダウンするような、長い長い一瞬デシタ!
 ヘイ、ウガニク・サン、ミーが小鳥猊下ヨー! ミーはできる限りのポライトネス、慇懃さでベンド・ダウン、腰をフォーティ・ファイブ・デグリーに曲げながらビジネスカード(ジョーク)を差し出しマシタ!
 「ああ、貴方が小鳥猊下ですか。ようやく会えましたね。ウガニクです」
 言いながら、そのジェントルマンはビジネスカード(リアル)をミーとエクスチェンジ、交換したのデス! そこにはマネージング・ディレクターの肩書と、ウガニクのリアル・ネームが書かれていマシタ!
 「実はね、猊下の質問箱にウガニクが来るって書きこんだの、私なんです」
 なんというソウシソウアイ・ステイトでショウカ! ミスチービアスリー、いたずらっぽく告げるその言葉に、ミーの目頭はゲットホット、熱くなりマシタ! そしてボウダ・ステイトの涙を流しながらマイ・ヒーローとシェイク・ハンズ、握手を交わしたのデス!
 「小鳥猊下のことは、スヰスの川井俊夫さんの周辺だと思っていたので、私のファンだというのには、正直びっくりしました」
 出た、出マシタ、トシオ・カワイ! ミーはス・ステイトにリターン、戻りマシタ! これを言われる・オア・言われているのを見るのはもう何度目かわかりマセン! なぜテキストサイト・ギョウカイのクロウラーどもは、ミーとトシオ・カワイをセイム・カテゴリに入れたがるのデショウ! トシオ・カワイは書くテキストとヒズ人生が不可分に融合した、深海魚のようなモノホンのモンスター、別格デス! トシオ・カワイに比べれば、ミーはニセアカギにすぎマセン! ナラ・プリフェクチャー在住のミーにとってライク・ディス、このようなトキオでのオフ会参加よりはるかに会うハードルは低いはずデスガ、フィルド・ウィズ・フィアー、怖くて偶然にも会いたいとはワン・ミリミーター、1ミリも思いマセン!
 レッツ・リターン・トゥ・メイン・サブジェクト、話題をウガニクに戻しマショウ! アンド・モア・サプライジングリー、さらに驚くことにウガニクはトゥー・ラスカルズ、二人の実ジャリをアカンパニイング、連れてきていたのデス! オーッ、キッズの相手は得意デース! ミーはサイトが示すように根っからの子ども好きなのネー! ノット・アンダーハート・バット・ピュアハートなミーは、ロウアー・エレメンタリー・ステューデントの方のジョージィ(女児の意か?)へチアフルに話しかけマシタ!
 ヘイ、ミーはユア・ファーザーのビッグ・ファンなのヨー! ユーはユア・ファーザーが本当はフーか知っていマスカ? ユーはユーのファーザーが書いたテキストをプロナウンス、音読したことがありマスカ? 我ながらひどい質問デス! バット、ジョージィはカバンから「教科書には載らないニッポンのインターネットの歴史教科書」を取り出し、「これ読んだ」と言うのデス! プリティーなその仕草を眺めるウガニクの表情は確かにファーザーのイットであり、モア・オーバー、さらに言えばドーターを持つプレイボーイのファーザーのメランコリー、憂悶をたたえていマシタ! フィーメイルに向けたかつてのマイ・バリューズ、価値観が他のメイルよりドーターにも向けられるポシビリティ、可能性をイマジンするときに訪れるペインフルネスはミーにも覚えがありマス! ミーはナラ・プリフェクチャーでドカチンをする身デスガ、ステイツにはトゥー・ドーターズ、二人の娘を残してきているファーザーでもあるのデスカラ! イン・アザー・ワーズ、すなわちウガニクのサファリングはミーのサファリングと同じイットなのデス! ゃだ……ぁたし……すごぃゎかる……ゎかりみ……すごぃょ……!!
 ミーの感慨をプリベント、さえぎるようにジョージィを不審なミドル・エイジ・パーソンが抱き上げマシタ! すわ、キッドナッピング・ユース、未成年略取誘拐の現行犯デショウカ! ミーはヒズ・フェイスへのボクサー仕込みのパンチングでウガニクズ・ドーターを救出せねばと身構えマシタガ、トーのウガニクは気に留めた様子もありマセン! 聞けばこの男、ワールド・ナイン・ワンのナガタという人物で、ウガニクのアクウェインタンス、知り合いのようデシタ! ミーはふりあげたフィストをダウンしマシタガ、ベリー・ハードなジョージィへのタッチングを見るにつけ、ナガタへのエル・ジー・ビー・ティー・ピー・ゼット・エヌ疑惑は深まりマス! ミーのフィアー、危惧をよそに酸による回転数増加?みたいな名前のサイト・マネジャーであるトモミチが、いつでも通報できる程度の距離感でウォームリィ、生暖かくそのクンズホグレツ・ステイトを見守っていマシタ! さすが、ヤンオデ周辺デス!
 オフ・レポート・ベガー、安全圏からゲンバのスィート・シズル感をデザイアー、渇望するオフレポ乞食どもはテキストサイト界のレジェンドであるウガニクのさらなるインフォメーション、情報を求めているのデショウ! オーケー、イットにアンサーするにはアッパー・エレメンタリー・ステューデントのウガニクズ・サンの容姿をディスクライブすればグッド・イナフ、よろしいデショウ! スツールに腰かけたこのボーイ、ユキオ・ミシマに見初められていた頃のアキヒロ・ミワをシリアスリー彷彿とさせるグッド・ルッキング・チャイルドなのデス! ゃだ……もぅ、みっめなぃで……ぁたし、ぬれちゃぅ……!
 「ほめられてるんだよ、わかる?」
 ホワット・ア・グッド・ファーザー・ヒー・イズ! なんというよい父親ぶりデショウ! ジェントルなその眼差しと横顔からは、ノー・アソシエイション・オブ・ギコハハ・アンド・ヒギィなのデス!
 サドンリー、ミーはウガニクのネイムカードにパブリッシャー、出版社の名前が書かれていることにノーティス、気づいたのデス! ミーのビジネス・バッグには7年前にリカと作った同人誌――SMD虎蛮へのひどいドゲザ歓待で数枚のイラストレーション、挿し絵を描いてもらいマシタ!――が忍ばせてありマス! ソウシソウアイ・ステイトをテイク・アドバンテージ、利用してエクスプロージョン・アンド・デス、大爆死をとげた同人小説をリアル・パブリッシングにつなげる布石をストライクするのデス! アザワイズ、でなければリカがノット・フロート、浮かばれマセン!
 ヘイ、ウガニク・サン、ミーはトゥエニイ・イアーズ、二十年間ミーをイグノアし続けてきたリアル・パブリッシャーどもに恨みがあるのヨー! バイ・ザ・ウェイ、ところでここにミーがセブン・イアーズ・アゴーにメイクした同人誌が――
 言いかけて、静かな圧に息を呑む。柔和な父親の印象をそのままに、目だけが笑っていなかった。それは、生き馬の目を抜く厳しい業界で三十五年を生き延びてきた出版社の、常務取締役の目だった。私は言いかけた言葉を引っ込め、不自然にならぬよう別の話題へと移った。逆の立場を考えれば、当たり前のことだ。実力も素性もわからないだれかが突然、売り込みに社を訪れたとして、私は内心の軽蔑を抑え、表面上は飽くまで慇懃に追い返すだろう。岡田は、そんな私の内面を知らぬふうで会話を続ける。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。コミュニケーション能力がおありですね――少しも褒められている気がせず、背筋に冷たい汗が流れる。フェイスブック、やってらっしゃらないんですか――やっていない。そもそも関西の中小企業に務める一営業に、開帳に足る恥ずかしくない個人情報などあるわけがない。また、ネットでもからんできてくださいね?――私は二十年ほど前、カナダに短期留学したとき、ホストマザーが別れ際につぶやいた言葉を思い出していた。必ずまた帰ってくると言った私に、ホストマザーは寂しげにこう言ったのだ、”It never happens.”と。
 「すいません、ちょっと飲み物を取ってきます」
 私は逃げるようにバーカウンターへ向かうと手酌でビールをつぎ、二杯、三杯と飲み干した。サフランライスと鶏肉の煮込みをガツガツと嚥下し、四杯、五杯と手酌のビールを飲み干す。酩酊という救いが脳を満たし、例えようのない負の感情はやがて虚空へと消えた。
 ウォアアアアーーッ! なんでトーキョーまで来てワークプレイス、職場と同じ気持ちをテイスト、味わわなアカンねん! ミーはシチュエーションを仕切り直すべく、グラスを片手にパーティシパント、参加者どものドッグタグをゲイズしはじめマシタ! アンドゼン、フロアーにいるヒューマンどものトゥー・サーズ、下手をするとフォー・フィフスのサイト名をまったく知らないことに気づいたのデス! これはタクティクス、作戦を練らなければなりマセン!
 サドンリー、突如ミーの頭上にライトバルブ、電球がピコーンと光りマシタ! ジャパンはエンシェント・チャイナから儒教精神を道徳としてヘリテッジ、受け継いだカントリーなのデス! 儒教精神をリプレゼントするフェイマス・ワーズがありマス! チャイルド・キャント・ギブ・バース・トゥ・ペアレント、「子は親を産めない」デス! イット・ミーンズ・ザット、それはつまり、マザーズ・チツ、母親の膣から一秒でも早くアウトサイドへ這いずり出たほうがよりグレートであるという思想デス! ミーのエヌ・ダブユ・オーは1999年のジャニュアリーに開設されマシタ! かのノトーリアス、悪名高いツー・チャンネル(現在ではファイブ・チャンネル)よりも早くインターネットにイグジスト、存在したのデス! 1997年開設のウガニクのホームページをのぞけば、この会場にミーのエヌ・ダブユ・オーに勝てるテキストサイトはいないのデス! なんというマーベラスな気づきなのデショウ! ムーブ・ウィズ・ヘイスト、善は急げ、暑苦しいポジティブネス、積極性で就職アイス・エイジ・エラ以降をサバイブしてきたミーは、このスプレンディドなアイデアをすぐさま実行に移しマシタ!
 ヘーイ、ミーのサイトは1999年にオープンしマシタガ、ユーのサイトは何年に開設したのデスカ? 効果はテキメン、ミーに話しかけられたボーイズ・アンド・ガールズ、エスペシャリー、ガールズはミーからオウイツするアウラに気圧されたのデショウ、半笑いでミーから遠ざかっていきマス! 次々とジャクショウ・ステイトのザコ・マネジャーどもがキックト・アウト、蹴散らされていく中、ひとり悠然とグラスをチルト、傾けるシュッとした金髪がいマシタ! ウィズ・ノー・フィアー、恐れを知らぬヤング・ルッキング・マンのドッグタグをゲイズするとロジカル・パライソと書かれていマス! パライソ・サ・イクダ……!! ミーはインサイド・ブレインのテキストサイト名鑑を高速でサーチしマシタ! ロジカル・パライソの開設年月日は1999年1月20日、エヌ・ダブユ・オーは同年1月17日……!! 男子スリー・デイズ会わざれば汝刮目アイズ、きわどい勝負デシタガ、残念だったなカイバ! ミーの勝ちデス!
 ヘーイ、ワタナベ・サン! ミーよ、ミーがエヌ・ダブユ・オーのゲイカ・コトリなのヨー!
 「ああ、知ってますよ」
 オーッ、オールモスト・トゥー・ハンドレッド・ミリオン・ヒットのテキストサイトに、ゼロ・ポイント・セブン・ミリオン・ヒットのミーがリコジナイズド、認識されていマシタ! テキストサイトにとってモスト・インポータントなのがバース・イヤー、開設年なのはゆらぎませんが、セカンド・モスト? サード・モスト? ノンノン、フォース・モストぐらいにはアクセス数にも意味はありマス! ミーはうれしくなって、たたみかけマシタ! エヌ・ダブユ・オー、読んでマスカ? どの更新がモスト・フェイバリットなのデショウカ? ミーの問いかけにワタナベはリップを侮蔑的にディストート、歪めマシタ! 
 「アハハ、読んでません」
 一瞬のためらいもない即答だった。満面の笑顔の中で、目だけが笑っていなかった。本当に、心の底から目の前の人間をどうでもいいと考える人間にだけ可能な、殺人鬼の目だった。この男は、私が目の前で生きたまま解体されたとして、何の痛痒も感じずに私の臓物を肴にグラスを傾け続けることだろう。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。沈黙のうちに渡辺のファンを称する女性が現れ、彼の意識はそちらへ移った。そして、眼前のいじましい存在は、彼の人生の中から永久に葬り去られたのである。
 私はグラスを持ったまま、フラフラと壁際まで歩いていき、背中を預けた。すっかり気持ちが萎えて、立っていられないような状態だったからだ。
 そんな私のすぐ目の前をどこかで見覚えのある、白いTシャツにジーンズの大男が勢いよく通り過ぎていった。後ろ姿が会場の奥へ消えるのを見送って、思い出す。テキストサイトの商業化に成功した会社のメンバーだった。マリオのペットみたいなハンドル・ネームの男で、ネットで見かける柔和で剽軽な印象とかけ離れた、やぶにらみの恐ろしい凶相だった。かつてムラの住人だった土建屋社長の久しぶりの帰郷に、村人たちは寂れたムラへの投資を求める。彼は言い放つ。このムラ出身であることはどうしようもない事実だが、お前たちに俺のカネはいっさいやらない。やがて、おのれのアイデンティティに苦悩する彼は、ついに生家ごとムラをダムの底へと沈める決断を下す――そういった性質の凶相だったのに違いない。
 気づくと隣には、グラス片手の巨漢が私と同じく所在なげに、呆然と立ち尽くしていた(ように見えた)。犬の鑑札を提示しながら期待せずに弱々しく「知っていますか」と聞くと、勢いよく「知っています!」という。
 オーッ、エヌ・ダブユ・オーの威光はこんなバスエ・サイトのマネジャーにまで及んでいたのデスネ! ミーはすっかりうれしくなって喜びの歓声をスクリームしマシタ! 観測できないけれど宇宙の大半を占めるエレメント?みたいな名前のサイトを運営していたダク(またカタカナ2文字デス!)であるとのセルフ・イントロデュース、自己紹介デシタ! 確かザンテツケン?的なやつデスヨネ! ミーの言葉にダクは曖昧な表情を浮かべマシタ!
 リザレクション、復活した自意識をフルフィル、満たすために一方的なマシンガン・トークをダクに浴びせているとミーは突如サースティ、喉の渇きを覚えマシタ! ミーはダクとのカンバセーションをカット・アップ、切り上げると、アナザー・パイント・オブ・ビアーを求めてバー・カウンターへとリターンしマシタ! アゲイン・アンド・アゲイン、またまた手酌のビールを勢いよく飲み干してルックバック、振り返るとそこにはダクがいるのデス! ミーはマイセルフのアヌス、ツーケのナーアがきゅっとシュリンクするのを感じマシタ! クラスの冴えない男子にグリーティングしたらザ・ネクスト・デイ、翌日からストーキングが始まった美少女のディスガスティングな気持ちデス!
 イフ・マイ・フレンド・シー・ミー・ウィズ・ユー・イッツ・クワイト・ア・シェイム・フォー・ミー、ミーはダクにアヌスを、すぐ近くのブラック・ティー・シャート・マンにピーニスを向けマシタ! イフ・ボイン・ルック・アット・ウエスト・ヒップ・ウィル・ルック・アット・イースト作戦デス!
 ヘイ、ユー! ミーは1999年オープンのエヌ・ダブユ・オーというレジェンドなのデスガ、フー・アー・ユー? フードをテンコ・マウンテン、てんこ盛りにしたマン・イン・ブラックは、マンガみたいに食べカスを口元につけたまま、「ああ、小鳥猊下ですよね、知ってますよ」と朗らかにアンサーしマシタ! ワンサイズ小さいパツパツ・ステイトのティー・シャートに身を包んだこのメイルはブラザーズ・マンションズ・ブラザー、アニキの館のアニキとかいう回文みたいな名前のパーソン、人物デシタ! ストレンジリー、奇妙に親しみやすいアトモスフィアーのグッド・ガイなのデス!  ミーはその心の壁の低い有様にアマエ・ステイトで話かけマス! ネー、聞いてヨー、みんなドイヒーなのヨー! わざわざ関西ディストリクトからイキヨウヨウ・ステイトでトキオまでクンダリ来たのに、だれもミーに会いたいと思っていないのヨー!
 「いやあ、猊下なら会いたい人はたくさんいると思いますよ。それに比べてうちなんか、背景筋肉だったし、ホモゲームの紹介とかひどい企画ばっかりやってたし」
 ミーはこのセリフを聞いてアヌス、ツーケのナーアをきゅっとシュリンクさせマシタ! シリコダマ・ボールが大腸の奥へと後退していくのをフィール、感じながらミーはガタイのわりに異様にジェントリーなこの男のジェントルネスの正体にガテンがいった(ダブルミーニングデス!)のデス! ゲイ・ステイトのパーソンはたぎるセクシャル・デザイアー、性欲とそれに伴うデストラクション・インパルス、破壊衝動をノンケ・ステイトの好みのメイルに悟られぬよう、オン・ザ・サーフィス、表面上は異様に人当たりのよいホトケ・ステイトをキープすることがありマス! ミーゎ……すっかりこゎくなて……ぃしゅくしたちんぽぉ……りょぉまたにまきこんで……はんゎらぃでそのばぉはなれた……ゃだ、ぁのひとずっとこっちみてる……とぅきょぅ……こゎぃょ……!!
 アヌスをガードするためのザリガニ・ムーブメントで会場を後退していくとミーのピーチ、臀部がサムシング、何かと接触しマシタ! ひゃあん! 思わず漏れたミーの本来のシー・ブイであるところのクギミヤ・ボイスをごまかすために、ミーはことさらストロング、強くそのガイのドッグタグをねじりあげマシタ! オウオウ、貴様ナニしてバイト・マイ・アス、ケツカットンネン! ホワット・アイランド、どこのシマのもんジャイ! ンン、外見への影響があるハンディキャップを持って生まれた赤ン坊みたいな名前のサイトのサイト・マネジャーじゃネエカ? テメエ、エヌ・ダブユ・オーとイヤゴト・サンから影響を受けてエクストリーム・アンナチュラル、極めて不自然な日本語を書くヤツだろう、エエ! ミーが問い詰めると黒づくめのその男は、「えっ、ぼくのこと知ってるんですか!」と嬉しそうに言いマシタ! アドレッセンス、思春期がまだ継続中のようなイデタチのこのパーソンはどうやらエヌ・ダブユ・オー・フォロワーのようデス! オーッ、キケイジ・サン、カンボジア人が辞書を引きながらハシシきめて書いたみたいな不自然な日本語をディスクライブしていたカラ、てっきりジャパニーズじゃないと思ってたヨー! これだけワン・ウェイ、一方的なアビュース、罵倒を受けながらニヤニヤと妙に嬉しそうなのは根っからのエム・ステイトなのに違いありマセン! 「猊下、おひとつ!」なんて言いながら、同席のフィーメイルと争うようにして顔射モノのアダルトビデオで我先にペニスをグイグイ押し付ける男優もかくやという勢いで、ミーのグラスに2本のビール瓶の口を突っ込んできマシタ! ゃだ……ぁふれちゃぅ……ミーゎりぃさらなので……らべるゎぅぇにしてそそぃでほしかたょ……!!
 ミーとキケイジとワン・フィーメイルのクンズホグレツ・ステイトをエンヴィアスリー、フィンガーをシグルイみたいにチュパチュパいわせて見ている男がいマシタ! ドッグタグを見ると百から一を引いた髪みたいなサイト名のミヤモトと書かれていマシタ! ミーはインサイド・ブレインのテキストサイト開設年名鑑をわずかゼロ・コンマ・ゼロ・ファイブ・セカンドでサーチしマス! ミヤモトのサイトは2000年にオープンしており、エヌ・ダブユ・オーには遠く及ばぬシンザンモノ・ステイトであることが判明しマシタ! ミーはハマキをくゆらすプレジデント・ステイトでミヤモトに応対しマス! イヤー、ミヤモト・クン、最近調子はどうナノ? ミヤモトは「じつはまだサイト更新してるんですよねー」なんて言うのでミーはカッとなってイエロー乱杭歯をむき出しにして「ミーも2016年までは更新してマシタ!」とパツイチ、カウンターを食らわせてやりマシタ!
 「みなさん、ご無沙汰しています」
 オール・オブ・ア・サドン、突如アフロにサングラスをかけた男が一段高いところからマイクで会場に語りかけはじめたのデス! ディス・イズ・ザ・ファースト・タイム・アイ・メット・ヒム! 初対面なのにご無沙汰と話しかけてくるのはエクスペンシブ・ツボの販売か宗教勧誘しかありマセン! ミーは臀部に力をいれてアヌスをシュリンクさせマシタ! ウェイト、ウェイト! このガイ、ネットで見覚えがありマス! ブシドーソウルみたいな名前のサイトを2001年に開設した、アクセス数だのみの新参者デス! ミーやウガニクをさしおいて、エム・シーを行うとはいったいどういう了見デショウ!
 「えー、実家に先行者のフィギュアが余ってまして、今日はこれをかけてジャンケン大会をしたいと思います。先行者フィギュア欲しい人、手をあげて!」
 特に企画は行わないアナウンスメントのあったオフ・ミーティングにおいて、なんというロウゼキ・ステイトなのデショウ! ミーのアンガー、憤りをよそに会場のほとんど全員がプット・アップ・ゼア・ハンズ、手をあげているのデス! キコツ・ステイトのサイト・マネジャーたちのミーティングだったはずの会場は、もはや新興宗教がバックについた有機野菜販売にむらがるチホウ・ステイトのオールド・ガイズと同レベルの群れへとフォール、堕しマシタ! ミーはディスプリーズド、渋面のまま会場の隅に移動するとジャンケン・トーナメントを拒絶するためにフォールド・マイ・アームズ、腕組みをしマシタ! ウガニクの方を見るとグラサンアフロに背中を向けて、このケンソウ・ステイトとは何の関係もないといった風情でキッズをあやしていマス! この会場においてミーとウガニクの二人だけがアクセス数だのみの新参テキストサイト運営者によるセンオウ・ステイトを拒絶していたのデス! 俯瞰したカメラから見れば、それはまるでミーとウガニクにだけセレスティアル、天上のスポットライトがあたっているような光景だったことデショウ!
 健によるジャンケン大会はほどなくして終わり、会場は元のようなグループに分かれての歓談の場へと戻った。しかし、先ほどの輪に入れなかったことで、テキストサイト系と呼ばれるこの集団を構成する要素に、おのれが含まれていないことを私は痛感していた。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。どうして臆面もなく現実の知り合いが一人もいないオフ会に顔を出そうなどと思ってしまったのか。終了までまだ少しあるが、こっそり抜けだしてもだれも気づくまい。出口へと足を向かわせようとしたそのとき――
 「まさか、小鳥猊下ですよね」
 「いやー、ほんとにいたんだ」
 ルックバック、振り返るとそこには背格好も異なり年齢も離れているハズなのにストレンジリー、奇妙に似通ったトゥー・ガイズがスタンドしていマス! ミーはたちまちキショクマンメン・ステイトになってスマイリー、笑顔で応対しマシタ! イエス、イエス! ミーがゲイカ・コトリなのヨー! ユーたちはエヌ・ダブユ・オーのこと知っているのデスカ?
 「猫を起こさないように、超有名じゃないっすか。読んでましたよ、レジェンドっすよ」
 「いやー、でもこんな人だったとはなー、てっきりデブか美少女だと思ってましたよ」
 サカイとカズヤと名乗った二人はコメディアンのようにチアフルで、ミーへのフラッタリングも息ピッタリデス!
 「それにしても、本とか出してないんですか」
 「そうそう、どっかで書いてないんですか」
 オフ会のたびにワン・ハンドレッド・タイムスほど聞かれるこのクエスチョンにアバウト・トゥ・クライ、ミーは泣きそうになりマシタ! オーッ、ショウギョウ・ステイトでは出してマセンガ、ドウジン・ステイトでは一冊出してマスヨー! セブン・イヤーズ・アゴー、7年前にコミケトーで販売もしマシタガ、テキストサイト・ムラで買いにきてくれたのはファースト・クラス・ホームページだけだったヨー!
 「ああ、ゴトウ来てますよ、一流ホームページ。呼んできますよ」
 アス・スーン・アズ・ヒー・セッド、言うやいなやサカイはゴトウをひっぱってきマシタ! ゴトウは7年前と同じく匂いたつようなオタク野郎デシタガ、この会場でただ一人ビー・アクウェインテッド、面識のある(テル? ソリー、アイ・ディドント・リメンバー・ヒム!)パーソンなのデス! ミーはマイ・テキストにこの会場で唯一カネを払ってくれたゴトウへのタイコモチ・ステイトから、オサム・ダザイばりの我が身をカット・アップする決死のサービスをエグゼキュート、実行しマシタ!
 ネー、サカイ、カズヤ、聞いてヨー! トゥエニイ・イアーズ・アゴー、ミーはクリラバに相互リンクを断られた腹いせに、ゴトウからの相互リンク依頼をイグノアー、無視したのヨー! そうしたら、ゴトウのホームページはどんどん一流になっていってエヌ・ダブユ・オーのアクセス数をあれよあれよと追い越していったのヨー! エヌ・ダブユ・オーは閉鎖したケド、ミーのサイト・マネジャー・ライフの大きな後悔はゴトウと相互リンクしなかったことデス!
 感心しながらミーのテキストサイトサイト・ヒストリーを聞くサカイとカズヤに対して、ミーと面識のあるゴトウは「またその話ですか」といったあからさまに迷惑そうなアトモスフィアーをかもしていマシタ! いまやゴトウがベジータならミーはサイバイマンみたいなものヨー! 得意のオドケ・ステイト、道化状態でゴトウをフラッタリングしていると、いつの間にかブシドーブレード?のケンが同じテーブルにいマシタ! ノー・アフロ・アンド・グラサン・ステイトだったのでドッグタグがなければ見逃すところデシタ!
 ウォアアアアーーッ! この新参者の先行者にテキストサイト界のビック・パイセンとしてパツイチ・モノ申しておかなければなりマセン! ヘイ、ケン! ユーのご職業は何か、もし差し支えなけれな教えていただけませんデショウカ? ビック・パイセンからの強烈なストライク、一撃にケンはドウドウ・ステイトで答えマス!
 「いまは実家の稼業を継いでまして。業種は勘弁して下さい」
 イット・ミーンズ・ザット、ユーはプレジデント、社長ということデスネ! ヨッ、シャチョー、にくいネ! ミーのタイコモチ・ステイトにもケンはゆらぐ様子がありマセン!
 「いやいや。社長っていっても中小企業ですし、何人かの徒競走で選ばれたみたいなもので――」
 穏やかに話すこのガイからは少しもダークネス、闇を感じマセン! なんらかのフグ・ステイトを抱えた人々の群れにパーフェクトリィ、完全に健やかな人物がやってくれば勝負はスタートラインにスタンドする前から決まっていマス! サムライスピリッツ?の正体は、係員に歯痛を申告したらなぜかパラリンピアンと競技をさせられたオリンピアンだったのデス! ひるがえってゴトウに目をやると、全身からオタク・ダークネスがオウイツしてイマス! ミーとケンのカンバセーション、会話を聞いていたゴトウが突然、スットンキョウ・ボイスをあげマシタ!
 「え、猊下、結婚してるんですか? 子どもまでいる? 今日いちばんのショックだー!」
 どういう意味やネン! 前回のオフレポに登場しながら、ステイツにトゥー・ドーターズを残してナラ・プリフェクチャーへドカチンに来た米国人というミーの設定が頭に入ってないゴトウに、ミーはシンイ・ステイトになりマシタ!
 「でも、ぼくもちゃんと婚活してるんですよ。ホラ」
 ゴトウが見せてくれたスマホ・ディスプレイにはスノウやらの画像加工ソフトでモリモリ・ステイトになったアヒル・マウスのヤング・フィーメイルが映っていマシタ! ミーはその写真を見てス・ステイト、真顔になりマシタ! ゃだ……ゴトウ……っっもたせ……きぉっけて……!!
 「猊下でも結婚できるのに、ショックだー!」
 言いながらテーブルにお道化て倒れこむというオサム・ダザイばりのサービスを演じるゴトウの両目は、インシデンタリー・トンチンカンのヌケサク・ティーチャーのようなシェイプと剽軽さをタタエながらバット、黒目は少しも笑っていないのデス! ベリード・アライブ・イン・ザ・モエゲーを書いたミーにはゴトウの気持ちがわかりマス! この男は二次元のグラビティにソウルを引かれた本物のオタク、自涜による単体生殖ですべてを完結できるモンスターであり、三次元のフィーメイルなどその深奥のダークネスをハイド、隠すためのアクセサリーに過ぎないのデス!
 ゴトウをイン、ケンをヤンとした陰陽ドー・ステイト状態のそのテーブルには、他にもスリー・フィーメイルズ、3人の女性がいマシタガ、オール・オブ・ゼム、全員が「もっとケンさんと話したいのに、一方的にしゃべってるこのデカイのは何? どっか行ってほしいけど、何か言ってからまれてもうっとおしいな」とでも言いたげなアイマイ・ステイトの微笑を浮かべ続けていマシタ! フォー・レター・ワーズ! 呪殺、貴様らあとで呪殺デス!
 ソウコウしているうちに、ドナルド・トランプとシージンピンを足して2で割ったようなルッキングの人物によるクロージング・ステートメントが始まりマシタ! フー・イズ・ヒー? だれか尋ねると今回のオフ会を企画した一人であるカンチョウ(浣腸? 間諜?)とのことデシタ! ミーは初めて見るそのフェイスに向けて、客席からゆっくりとサムズ・アップしたのデス! サンキュー・フォー・ディス・プレシャス・タイム、カンチョウ!
 ワンハンドレッド・サイト・マネジャーズはスリー・スリー・ファイブ・ファイブ、三々五々帰りはじめマシタ! ミーはミーをこのバスエ・バーにキャリー、運んだ原因であるところのウガニクにフェアウェル、別れのアイサツをするために近寄りマシタ! ワールド・ナイン・ワンのナガタがウガニクズ・ドーターにピーまがいのタッチングをリピートするカタワラで、アキヒロ・ミワのフェイスをしたヒズ・サンに見守られながら、ラスト・ワード、最後の言葉を交わしたのデス!
 「猊下のエヴァQ評を読んで、見なくちゃと思ってエヴァQ見ましたよ。私は楽しめましたけど」
 オーッ、ミーはウガニクにエヴァー・キューを視聴させたという一点においてヒストリー、歴史に名を残す可能性がありマス! テキストサイト・レジェンドのウガニクが認めたとしてもエヴァー・キューがタワーリング・シット、そびえたつクソであることに変わりはありマセン! シン・エヴァが破の続きから作られたら、ミーのシビア・クリティシズムを撤回しマスと伝えマシタ!
 「ほんと、またネットでもからんできてくださいね」
 オフコース、イエス! アフター・ディス・パーティ、ミーとユーはアナ・キョウダイヨー!
 アイ・ウィル・マリー・ハー・イフ・アイ・キャン・ゴー・ホーム・アライブと同じレベルのデス・フラグに目頭をゲット・ホットさせながらミーとウガニクはエターナル・フェアウェル、永久の別れを別れたのデシタ!
 ハウエバー、ウガニク、くれぐれもナガタには気をつけてクダサイ! シー・エス・エーのモア・ザン・ナインティ・パーセントはキッズに近づくことがナチュラルな身内によるものなのデスカラ……!!
 人であふれていた会場は次第に閑散とし始め、私は自分の過ちを知る。このオフ会は旧知の仲が、その旧交を温めるためのものであって、これまで一度も現実に姿を表さなかっただれかが新しい人間関係を作るような場では、決して無かったのだ。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。この場にいた全員は一国の主、王様だった。絶対君主が他の僭王の支配を認めるはずもない。つまり私の行為は、すべて逆逆だったのである。常に正しくない方を選択し続けてきた私は、小鳥猊下としての最後の舞台でもまた間違ってしまったのかーー
 ノオオオオオオーーーーッ! ドント・レット・ミー・ダウン! ミーにオウイツするダース・ベイダーもかくやというフォース・パワーはバーカウンターにならぶビール瓶をガタガタはさせませんデシタ! モア・オーバー、ビア・サーバーの蛇口をねじ切り、大量のビアーをブラッドのように噴出させたという事実も決して観測はされなかったのデス!
 ウガニクズ・ファミリーを見送ったミーはアフター・パーティ、二次会に向かういくつかのグループをイグザミン、吟味しはじめマシタ! ミーのブランド・バッグに忍ばせたリカの同人誌をリアル・パブリッシングにつなげるべく現世のオーソリティに押し付けねばなりマセン! サドンリー、スリー・フィーメイルズがミーをサラウンド、取り囲みマシタ!
 「猊下! あたしタカハシ! 同人誌送ってもらった!」
 ワン・オブ・ザ・フィーメイルズがブレイン・ランゲージ・センターへのダメージを疑わせるスモール・ボキャブラリーでミーに話しかけてきマシタ! あまりに距離感が近くミーはのけぞりぎみに「アア、ソウナノ?」とレスポンス、応答しマシタ! 
 「ほら、猊下の同人誌も持ってきてる!」
 言いながらミーに文庫本を提示してきマス! ブックカバーの下にあるSMD虎蛮のイラストレーションはシュアリー、ミーとリカの同人誌デシタ! アプルーバル・デザイアー、承認欲求を満たされることに弱いミーはたちまちソウゴウを崩しマシタ! オーッ、ユーがディー・エム経由で同人誌のフリー送付をウィッシュした、関西ゴリラガラスみたいなサイト・マネジャーのワイフであるタカハシなのデスネ! アンドゼン、ショウワ・エラのイデタチをしたアナザー・フィーメイルがミーにオズオズ・ステイトで話しかけてきマス!
 「あの、ずっとファンでした。DJフッドがすごい好きで」
 ホ、ホワッツ? アー・ユー・リアル・ファン・オブ・ミー? ミーはDJフードを書きマシタガ、DJフッドは書いた覚えがありマセン! そもそもFOODのスペリングはフードとしか読めマセン! フッドと読むならならHOODとスペリングするはずデショウ! ミーがオズオズ・ステイトで指摘するとトマホーク・ブーメランみたいなサイトのマネジャーであったフィーメイルはターン・レッド、赤面しマシタ!
 ウェイト・ア・ミニット! アー・ユー・ゴレ・サン? オーッ、いまインターネットでレイテスト、最も新しい小鳥猊下へのリファー、言及はユーのツイーティングによるものデス!
 「あの、それ違う人……」
 アリガトオッ、アリガトオッ! ミーはゴレの両手をにぎってブンまわしましたが、なぜかゴレはアンビギュス、曖昧な微笑で反応が悪いのデス! ジャパニーズのエモーションは読みとりにくいこと、この上ありマセン!
 「ええっと、こちらの方は漫画家なんですよ」
 サドンリー、ゴレはミーとはまったく関係のない、脚本に書かれていないことを即興でやる?みたいな名前のカートゥニストを紹介してきマシタ! パブリッシング・バージンのミーに対するマウンティングなのデショウカ! ミーはそのフィーメイル・カートゥニストに対してイエロー乱杭歯をむき出しにしてキャメルの如く唾液を撒き散らしながら、「ミーは1999年オープンのテキストサイト運営者デシタ! いまはただのリーサラデス! リーサラ・ウェポン!」とシャウト・アットしマシタ! そのカートゥニストはあからさまに怯えた表情になり、不思議なことにアフター・パーティではミーの前に姿を現しませんデシタ!
 「猊下、このあとどうするの? 二次会いく?」
 タカハシがウワメヅカイ・ステイトでミーをセデュース、ユウワクしてきマス! ここはゴー・トゥ・フォーティーン・オア・アライブ、重要な分岐点かもしれマセン! 聞いたこともない弱小サイトの運営者バット、ミーの同人誌を持参するほどのビッグ・ファンを選ぶべきデショウカ? オア、現世のオーソリティに近いアクセス数を持ったビッグ・サイトのアフター・パーティに参加すべきデショウカ? 聞けばこのフィーメイルたちが向かうイザカヤ・ストアにはゴトウをはじめとしたミリオン・アクセスのビッグ・サイト・マネジャーたちもギャザー、集結するとのことデス! これはキル・トゥ・バーズ・ウィズ・ワン・ストーン、一石二鳥デス! タカハシ、キミに決メタ! この決断をミーはレイター、後悔することになるのデスガ、それはまだア・リトル先の話デス! シラヌガホトケ・ステイトのミーはタカハシとショウワ・エラのゴレに挟まれるようにして、ダーバツー・ビー?をゲット・アウト、後にしたのデス!


 「いやあ、楽しいオフ会でしたねえ」
 店の外に出るとミーの隣にスタンドしたミーと視線がホライゾンタル、水平に合うほどのビッグ・ガイがシミジミ・ステイトで言いマシタ! ミーは本当にこの男と同じミーティングに参加していたのか疑わしい気持ちになりマシタ! ミーと同じく仕事帰りなのデショウ、ミーとはテン・タイムスほど値段が違うだろうノット・オーダーメイド・バット・ツルシ・ステイトのスーツに身を包んだこの男からは、テキストサイト・マネジャーが否応に抱えるイービルネス、邪気がありマセン!
 「ほんと、わざわざ福岡から来たかいがありましたよー」
 ワ、ワッツ? ディッド・ユー・セイ・フクオカ? パーハップス、おそらくミーの聞き間違い・オア・トキオにあるまったく同じ地名のシティから来たに違いありマセン! こんなバスエ・ステイトのいじましい会合にわざわざフクオカ・プリフェクチャーから参加するなんて、スロー・ユア・マネー・イントゥ・ザ・ドレイン、カネをドブに捨てるようなものデス! ユーはそのエア代を使ってもっといいスーツを買うべきデス!
 ミーとビッグ・ガイのビーエル・ステイトに嫉妬を感じたのデショウ、タカハシが割りこんできマシタ!
 「猊下、本当に本とか出してないの? 編集者の知り合いいるけど、猊下の同人誌送っていい?」
 オーッ、ラブリー・クレバー・タカハシ! ホワット・ア・テキカク・ワード・ユー・セッド! なんという的確なくすぐり文句デショウ! こんなア・グッド・フォー・ナッシング・フェローの人生を気にかけている場合ではありませんデシタ! ヘイ、タカハシ、センド・イット・アサップ、いますぐそこのレッド・ポストに放り込んでクダサイ!
 「ねえ、本当にどこにも書いてないの? 賞とか出さないの?」
 ホワット・ア・クルーエル・ワーズ・ユー・セッド! オフ会のたびに聞かれるワン・ハンドレッド・ワン・タイム目のこのクエスチョンにアバウト・トゥ・クライ・アゲイン、ミーはまたまた泣きそうになりマシタ!
 ショートリィ・アフター、ミーとトゥー・フィーメイルズのいるグループは、ゴトウのいるグループからはぐれてしまったのデス! ちょうどゴールデン街のサインが見えるあたりの、ディープ・イン・シンジュクで道に迷うという恐怖体験にミーのニーはガクガク・ステイトになりマシタ! サイドにアダルト・アドバタイズメントがデカデカ・ステイトで掲載されたトレーラーが道路を走っていきマス! ミーたちのアラウンドには明らかにカタギ・ステイトとは遠いイデタチの呼び込みが距離を詰めてきていマス! ミーはフランスでフォリナーをねらった窃盗団とおぼしきグループが背後から獲物を追い込むウルフ・パックのように迫ってきたときのことをマザマザ・ステイトでリメンバー、思い出していマシタ! ミーにとってトキオの知識はメインリー、主にメガミテンセイとリュウガゴトクでラーンしたものでしかありマセン! インセキュアー、高まるミーの不安をよそにアラウンドのトウの立ったボーイズ・アンド・ガールズはまったく動じた様子がありマセン! ユウゼン・ステイトでポキモン・ゴーをプレイしたり、ミーたちのグループにデジカメを向けたりしていマス! ワッツ! ミーはリップス、唇からシュッと息を吐くとカメラのフラッシュを危機一髪、ジョジョ・ステイトの上半身でアヴォイド、かわしマシタ!
 ヘイ、ユー! テイク・ピクチャーは相手の許可をとってカラというオフ会ルールを読んでいないのデスカ! ミーはリゼントメント、憤慨してカマキリ顔の男につめよりマシタ!
 「ネットに上げたりしませんよ……」
 ミーのケンマクに男はモゴモゴ・ステイトでエクスキューズ、言い訳をしマシタガ、テキストサイトを運営しているようなストレンジャーにパーソナル・インフォメーション、個人情報を渡せるはずがありマセン! イン・アディション、おまけにスマートフォン全盛のこの時代にわざわざデジカメを使うようなフシン・パーソンをどうして信用できマショウカ!
 ミーたちのグループはすでにア・フュー・ミニッツ、数分はセイム・プレイス、同じ場所にとどまり続けていマス! ヤクザ・ステイトの呼び込みがジリジリと近寄ってきマス! ヘルプを求めてタカハシを見ると、息子のクラム・スクール・ティーチャーと電話をしている最中デス! ヘルプを求めてショウワ・エラのフィーメイル(ゴレ?ニゴ?)を見ると、濡れ濡れとした子鹿の目でミーを見つめかえしてきマシタ! ゃだ……このこ……すごぃめきれぃ……!!
 「とりあえずツイッターでつぶやいてみますねー」
 アウチ! エス・エヌ・エスのこれほど間違えた使い方は聞いたことがありマセン! ほどなくしてアフター・パーティの会場はミーたちのプレイスからほんの数メートル先にあることがターン・アウト、判明したのデス! テイウカ、すぐ目の前に見えとるガナ!  ユー・ドント・ハブ・パワー・トゥ・リブ・アト・オール! 生きづらさにメイビー、ノーティスさえしていない頭ハピネスのセカンド・グループは、ファースト・グループから遅れることトゥエニィ・ミニッツ、セイリュウにアライブ・アット、到着したのデス!


 オフレポの舞台は新宿ゴールデン街の側、テキストサイト管理人行きつけであるところの清瀧に移った。突然だが、弟の話をしなければいけない気持ちになった。なぜ、突然そんな気持ちになったのかはわからない。弟は私とまったく似ていない。眉目秀麗、長身痩躯の私とちがって、弟は短躯で小太り、最近では前髪の後退によりゴツゴツと形の悪い額があらわになって、見苦しいことこの上ない。結婚はしているが、長く子宝に恵まれず、三十も半ばを過ぎてから第一子を授かった。子育ては体力勝負だ。四十を越え、衰えるばかりの体力で、はたして息子が成人するまでの十年以上を耐えることができるのか。インターネット黎明期を知る私にとって、十年は人々の考え方や生活の仕組みが根こそぎ変わるのに充分な時間だという実感がある。弟の幸せを望みながらも、彼の抱えていくだろう不確かさと苦しみについて思いをはせずにはおれない。弟の話を終える。
 後藤を含めた大手テキストサイト運営者たちは、すでに奥座敷に陣取って飲み始めているようだった。アクセス数に劣る出がらしのようなこの集団こそが、私に残された居場所なのだった。なぜ私を含めた彼らがアクセス数に劣るのか。その理由はここまでの道中で、痛いほど感じることができた。場をしきる者はだれもおらず、全員がなんとなく空いている席に腰を下ろす。
 私の目の前にはゴレを名乗る昭和の風情を漂わせた女性、ハンサミストを自称する松本なる男性、そしてナフ周辺を名乗るベネディクト・カンバーバッチと同じアゴの輪郭をした男性が座っていた。私たちには何の共通点もない。明日には街で出会っても、互いのことを認識することさえできないだろう。
 隣のテーブルに座ったグループには、しかし共通点があるようだ。カンバーバッチに言わせるとあの集団もナフの竹田周辺なのだという。ナフ? イナフのナフだろうか? ナーフのナフだろうか? カンバーバッチの説明に、私はすっかり混乱してしまった。しばらく隣のグループとカンバーバッチを交互に観察すると、外見に共通点を発見することができた。ディップ(精液?)で無造作に固めた髪型に、カマキリのような細面がそれだ。ナフ周辺の咬合力を天内悠だとするなら、私はジャック・ハンマーとさえ言えるだろう。聞こえてくる話し声に耳を傾けるが、私には彼らの話題どころか、文法からして全くわからない。
 理解をあきらめ、昭和の風情をした女性に声をかける。nWoのファンを自称するくらいだから、二十年の孤独を慰撫する言葉が聞けるかもしれない。
 「あの、カルメン伊藤さんにお会いしたことがあります」
 意外な共通の知り合い。FGOつながりですかと尋ねると、ニンジャスレイヤーつながりだという。なぜか、九十九式の宮本の顔が浮かんだ。しばらく会話をしてから、私はニンジャスレイヤーについての理解をあきらめた。そして、nWoについての質問をする。どの更新が一番好きですか。印象に残っている文章は何ですか。ファンなら当たり前に答られるだろう質問を投げかけるが、何ひとつとしてはっきりとした回答は無かった。
 「ねえ、二年も前に閉鎖したサイトなんでしょ? そんなの覚えてるわけないじゃないですか」
 助け舟をと考えたのか、ハンサミストの松本が会話に割り込んでくる。その通りだ。莫大な情報が日々流れ続ける近代のインターネットで二年という年月は、ほとんど言語そのものが変質するような気の遠くなる時間だ。
 聞けば松本は、ナタリーだかナンシーだかルーシーだかいう漫画批評サイトの編集者なのだという。
 漫画、か。私は内心密かに落胆する。小説批評サイトなら私の同人誌を預けるのだが、そんなサイトが商業的に成り立つわけもない。松本はパトレンジャーについて書いた文章が五万人以上に読まれた話をしてくれたり、森田まさのりに送った荒木飛呂彦のメールの写真を見せてくれたり、いつの間にかいなくなったカンバーバッチと、ボーイズ・ラブの話題――といっても、真夜中の天使を知らなかった――以外は黙りがちなゴレの隙間を埋めるかのように、淡々と場をつないだ。マウンティングのつもりがないのは口調でわかったが、華やかな彼の現在に私の心は沈んだ。
 途中、マトリックスのセラフを少し太らせたみたいな外見の男が、進行方向だけをにらみつけるようにそばを通り過ぎていった。聞けば、テキストサイトの商業化に成功した会社の管理職なのだという。確かに俺たちはテキストサイト出身かもしれないが、お前たちに俺たちの金は一切やらない――通り過ぎる彼の後ろ姿からは、その強い意思を感じた。
 「猊下の横にはあたしが座るから!」
 突然、長く席を外していた高橋が現れ、だれも私の隣に座ろうとはしないのに、なぜか周囲に宣言してから通路への出口をふさぐ形で私の真横に陣取った。女性と二人きりで話すときは部屋の扉を開けておくよう教育されてきた私は、男女の性別は真逆ながらおのれの置かれている状況にかすかな恐怖を感じた。
 「ねえ、猊下。さっきの編集者の知り合いに同人誌を送る話だけど、ほんとに送っていいの?」
 オーッ、ラブリー・スゥィート・タカハシ! ナフもタケダもオモコロもトゥ・テル・ザ・トゥルース、正直なところファッキンどうでもいいデス! オフコース・イエス、モチのロンに決まってマス! さっきからミーは繰り返しそう言ってるじゃないデスカ! センド・イット・ライト・アウェイ!
 「どこがいいの? シンチョウ? カドカワ? どのくらい編集の言うこと聞けるの?」
 オーッ、ノット・トゥー・ビッグ・ディール、ミーの同人誌をシュアリー、確実に印刷してくれるサイズのカンパニーがベストなのデス! アンド、ジ・アンサー・イズ、オール・オブ・イット、リアル・パブリッシングのためならなんでも言うこと聞きマスヨー! バイ・ザ・ウェイ、ところでミーの同人誌のどこが良かったデスカ?
 アイ・ドント・ノウ・ホワイ、ディス・シンプル・クエスチョンに熱くミーを見つめていたタカハシの目はなぜかスイム、泳ぎマシタ! アイ・ハブ・ア・バッド・フィーリング・アバウト・ディス! ユーはミーのツイートを読んでいマスカ?
 「あたし、猊下のツイッターアカウントなんて知らないし」
 オーケー、ならどうやってミーにディー・エムを送ったのデスカ?
 「え、あれ? そうそう、――の管理人が亡くなったの知らなかったってホント?」
 ミーに少しでも関心があるならば、エヌ・ダブユ・オーにとって最も重要なできごとを知らなかったのかなどと、インセンシティブに問いかけられるハズはありマセン! ミーは垂れこめるブラック・クラウドのようなギシンアンキ・ステイトにおちいっていきマシタ! エディターにイントロデュース、紹介しようと思うくらいナラ、必ず気に入ったポイントがあるはずデス! ユーはミーの同人誌のホエア、どこが良いと思ったのデスカ?
 ディーズ・ピュア・クエスチョンズに、いよいよタカハシは目をそらしマシタ! ミーはさらに問い詰めマス! どの場面が気に入りマシタカ? どのキャラクターが好きデスカ? どの文章に感銘を覚えマシタカ? アンサーズ、返事のすべてが要領を得マセン! グラデュアリー、次第にタカハシは黒目の内側にうずまきを浮かべたアウアウ・ステイトにドロップ、陥りはじめマシタ! ファイナリー、しまいには素のステイトをネイキッド、丸出しで本音をトークし始めたのデス!
 「あのさ、なんか全体的にむずかしくない? 単語とか表現とか。なんか伝わらないっていうか、感情移入しにくいっていうか。あたしカポーティとか読むけど、冒頭におじさんの話とかあって入りやすいっていうか。あとマルケスとかも読むけど、百年の孤独も家族の話でわかりやすいっていうか」
 ビー・トラップト、ミーはここにいたってワナにハメられたことにノーティス、気づきマシタ! ヘンシュウ、シュッパンというマジカル・ワードをダシに、ウブなパブリッシング・バージンのミーはフィーメイル・アント・ライオン、女蟻地獄のすり鉢のボトム、底へとキャプチャード、とらえられてしまっていたのデス! ホワット・ア・海外ブンガク系サブカルクソ女・シー・イズ! 血と汗と涙でひねりだしたテキストたちを気軽なジュエリー・オーナメントぐらいに考え、トッカエヒッカエ・ステイトでウブ・ステイトのサイト・マネジャーどもをカント(もちろん、哲学者の名前ですよ、やだなあ)・バイト、九郎判官してきたに違いありマセン!
 「あとこれ、センセイの話だよね? ちがう? あたしセンセイなんかしたことないから何のことかよくわかんない。やっぱ家族の話とかのほうがフツウは入りやすいっていうか」
 シャット・アップ・ユア・フェイス・アンクル・ファッカー! このアマ、フィクションを全否定しやがりマシタ! アット・ザット・タイム、ミーのこめかみには血管のクロスが浮いていたに違いありマセン! この発言をサイエンス・フィクションのビッグ・ファンであるという関西ゴリラガラスのサイト・マネジャーが聞いたらどう感じるデショウカ! デフィニットリー、間違いなく「エデュケーション(教育)!」とシャウトしながらヒズ・ナックルをハー・ノーズが高さを失うほどねじこむに違いありマセン!
 ミーはタカハシ・アズ・ノウン・アズ海外文学系サブカルクソ女の話をペイシェントリー、我慢強く聞きながら(シュッパンというニンジンのためデス)現存する最古のテキストサイト・マネジャーであるキョウト・ユニバーシティのプロフェッサー・モチヅキが、ボン・ユニバーシティのプロフェッサー・ショルツから宇宙際タイヒミュラー理論へのクリティシズムを聞いているときのようなイライラ・ステイトにおちいっていきマシタ!
 イエス! イエス! オフコース、アイ・コンプリートリー・アグリー・ザット・ザ・ノベル・ユー・アー・ディスカッシング・イズ・コンプリートリー・アブサード・アンド・ミーニングレス、バット・ザット・ノベル・イズ・コンプリートリー・ディファレント・フロム・エムエムジーエフ!
 タカハシによる明確なハラスメント・ステイトに対して、目の前に座る子鹿の目をしたゴレ?ニゴ?はフェイスをわずかにチルト、傾けてスマイルするだけで何の援護もしようとしマセン! その頭蓋のインサイド、内側ではミーとマツモトのビー・エル妄想が膨らんでいるのデショウカ! そのマツモトはと言えば、スマホにディスプレイされたマッスルマン?のコミックに対してピーを思わせるシツヨウ・ステイトのタッチングを繰り返すばかりデス!
 段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。高橋の弁明を聞きながら、改めてぼんやりと周囲を眺める。参加者の多くは四十の声を聞いているだろう。なのにだれ一人として、こんなプライバシーも守られない、接客もなっていない、言わば大学生向けの居酒屋で飲食をすることに抵抗を感じている様子はない。私は、就職氷河期が私たちに失わせたものへ思いをはせた。いつまでも二十くらいの精神状態で、大人になることもなく、社会へ責任を果たすこともなく、みんな昆虫みたいに死んでいくのだ。
 ねえ、高橋。出版社や編集者に紹介したいほど、私の同人誌を気に入ってくれたのなら、何か理由があって然るべきではないですか。答えを得られないまま繰り返される、虚しく宙空に消えていくその問いは、たぶん、私にとって切実なものだった。二十年間、ずっと言葉が欲しかった。私の更新は下劣だったかもしれない。私の更新は拙かったかもしれない。ただ、その時々に必死だった私の生き方を肯定してくれる言葉が欲しかったのだ。
 もはや目を合わせようとしない高橋の横顔をじっと見つめたまま、私は壊れたレコードのように同じ問いを問いかけ続ける。
 やがて高橋は大きなため息をつくと、あきれたように言った。
 「ねえ、なんでそんなにほめてほしいの?」
 ほめてほしいわけじゃない。ただ理解が欲しい。肉親にだけ可能なような、濃密な理解が。
 「悪いけど、あたしはアンタの母親じゃない」
 しかし、小鳥猊下としての二十年をまさに終えようとするこの瞬間にも、求めていた答えが返ってくることはなかった。
 「ごめん、少しだけトイレ行ってくるね」
 白けた様子でそう言いおくと、高橋は席を立ち、そうして二度と戻ってくることはなかった。
 出版の話と、たぶんnWoは、こうして終わったのだった。新宿の場末の酒場で、だれにも看取られることなく、ひっそりと。
 沈黙が降りた。私が口を閉じれば、もはやだれも自分から話そうとする者はいなかった。
 「このテーブル、なんなんすかね?」
 やがて、松本がため息とともに吐き出す。
 「小鳥猊下周辺、かな?」
 女は視線をさまよわせながら、聞こえるか聞こえないかの声で言う。
 狂騒的なおしゃべりが途絶えたあとに残る、いつもの気まずい沈黙。
 眼の前に座る、もはや名前を思い出すことさえできない昭和のいでたちをした女は、濡れた子鹿のような目で私を見るばかりで、何もしゃべろうとはしない。
 二十年近くを思い続けてきたと自称するファンが、私の書いたテキストの一行さえそらんじることなく、ほんの半時間を感想や称賛でもたせることができない。この状況こそが、nWoの二十年間を象徴的に表していた。
 「――さん!」
 突然、その昭和の女を後ろから抱きすくめるようにして、別の女が現れる。私のファンだと名乗った女は、別の女にひっぱられるようにして、席を立った。行きかけて、気づいたように自分のグラスを取りにもどる。瞬間、上目遣いにこちらを見た彼女の視線が忘れられない。
 そこには、二度と戻ってくることがないという意思がたたえられていた。
 そして、私は松本とふたり取り残される。松本は沈黙を気まずいと思っているふうもなく、スマホを触り続けている。
 当然だ。酒席におとなしいサルやチンパンジーが同席していたとして、彼らに気まずさを感じることはないだろう。
 私はひさしぶりに、大学のゼミの飲み会を思い出していた。最初のひと騒ぎが終わると、だれもこちらに興味を残さない。ビールのジョッキに浮いた水滴をながめる他はなく、ただぽつねんと、からっぽのままひとりで座っている感じ。
 あのときのように、私はだれにも気づかれないようカバンを取り上げ、ひっそりと店を出ようとした。ワリカンの際にだって、だれも私がいたことには気がつくまい。
 「松本さん、ひさしぶり」
 しかし、突然あらわれた大男が通路をふさぐようにとなりへ無遠慮に座り、私の計画は妨げられたのだった。
 どうやら、松本の古い知り合いのようだった。オッパッピーみたいなハンドル・ネームの男で、ずいぶん昔からネット界隈に棲息する古株らしかった。
 この男には、オフ会での唯一の拠り所であった開設年マウントは通じない。私はおのれの席でますます小さくなった。
 「1994年はパソコン通信が始まった頃で、自分が立ち上げたサーバーに掲載した情報が、数日かけて全国に広まっていくのを見るのが面白かった。ぼくたちのひとつ上の世代は筒井康隆さんで、ASAHIネットの大騒ぎを横目に見てて――」
 どういう素性だろうか、すべての話題を時系列に話すクセがあった。
 男がよどみなく昔話をし、松本がそれにうなづく。この場で確かなことは、男も松本も私の書いたテキスト、私の来歴、私の存在にまったく興味がないということだ。
 後藤がいるだろう奥座敷から楽しそうな笑い声が聞こえる。
 ぶぅん、ぶぅん。
 頭の中にドグラ・マグラのような羽音が響きはじめ、自分の体が自分のものではないような、離人症の感覚が私を満たしはじめた。水のようにせり上がってくるこの感覚は、やがて喉元へと達し、私を窒息させるだろう。
 「松本さん、最近なんか面白い漫画ないの?」
 「ありますよ。この一コマを見ただけで、絶対に続きが読みたくなります」
 「え、どんなの? ……ハハハ、ベンキマンとカレクックだ」
 意味を持つことを否定した、底なしの、徹底的な虚無のような会話。
 ぶーん、ぶーん、ぶーん。
 脳髄を満たした羽音はますます高まり、この瞬間にも頭蓋を破壊して、外にあふれだしそうだ。
 たまらず席を立とうと腰を浮かしたところで、私は気づいた。
 天井と壁の間にある薄い薄い隙間から、少年の体躯をした全裸の美輪明宏がじっとこちらを見ていることに。
 ウガニクだ!
 私は泣き出したいような気持ちになった。この二十年間、私が気づかないときにも、ウガニクはああやって、ずっと私を見守ってくれていたのだ。
 感極まって声をあげようとする私を、ウガニクは唇に人差し指を当てて制した。
 ウガニクは人差し指と親指をピストルの形にすると、松本の後頭部へ向けた。
 「ばぁん」
 小さな囁き声とともに、松本の顔面に穴が空いた。
 「ハハハ、ブラックホールだ」
 だ、の発声と同時に、男の頭部が内側からはぜる。
 天井にまで届く真っ赤なその噴水を浴びながら、私は立ち上がり、ウガニクに心からの喝采を送っていた。
 そうだ、ウガニク。いまのインターネットはすべて偽物の、まがい物だ。テキストが魔法として機能した神代のインターネットは1999年まで、それ以降はただの言葉の下水道じゃないか。
 きみの汚い言葉は最高にきれいだった。ぼくの下劣な言葉は最高に美しかった。ぼくたちのテキストサイトには、確かなキュレーションがあった、審美眼があった。
 それがどうだ。回線は馬鹿みたいに速く安くなったけれど、いまや恐ろしい分量の美しい言葉ばかりが下品に乱雑に、かつて美術館であり博物館であった場所の床へ足の踏み場もないほどに、ただ放置されている。
 さあ、ウガニク。君のあとから来たまがい物どもを、ぜんぶ、ぜんぶ殺しつくしてくれ。
 ウガニクをさしおいて、アクセス数だのみのアフログラサンの先行者も。
 「ばぁん」
 ウガニクをさしおいて、テキストサイト最長更新記録を標榜する金髪も。
 「ばぁん」
 ウガニクをさしおいて、ホームページ作成が一流だと誇るオタク野郎も。
 「ばぁん」
 ウガニクをさしおいて、テキストサイトをマネタイズする拝金主義者も。
 「ばぁん」「ばぁん」
 ウガニクをさしおいて、小鳥猊下の御幸を晒し上げした不敬の輩どもも。
 「ばぁん」「ばぁん」
 ウガニクをさしおいて、他の運営者たちに色目を遣うロンパリ女どもも。
 「ばぁん」「ばぁん」「ばぁん」「ばぁん」
 「ひぎぃ」「ひぎぃ」「ひぎぃ」「ひぎぃ」
 あとに残されたのは、清瀧とは名ばかりの血と汚濁の残骸だった。
 天井にはりついていた美輪明宏そっくりのウガニクは、きょとんとした表情で頭部をくるりと一回転させると「ギコハハ……」と鳴いて、そのまま煙のように消えてしまった。
 ありがとう、ウガニク。あなたはいつでもテキストサイトを守護ってくれる、永遠のチャンピオンだ。
 すっかり満足した私は、ネジで締める式の入口扉をタックルにて破壊し、店外へとまろび出た。
 先端に鎌のついた弁髪を振り回して、夜の新宿をひと通り飛翔したあと、両足で屋根を突き破る方法にてタクシーへ乗車する。
 「お客さん、どこまで?」
 魔界都市・新宿のドライバーは、アバンギャルドな乗車方法を気に留める風もない。
 「そうだな、とりあえず半蔵門までやってもらおうか」
 車が走り出すと、やわらかなGが体を押す。それに抵抗せず、腹を満たされた肉食獣の笑みでシートに身を預けた。
 ああ、ウガニク、いまなら何だってできそうだ。
 ポケットからおもむろに黒電話を取り出すと――
 おんな上しからの着しんがびっしりと画めんをうめていて、わたしは一しゅんビクッとなった。かい外では、休み中のぶ下にでん話をすることはきん止されているのに……そう考えると、なさけなさでジワッとなみだがでてきた。あ、ごめんね、現じつなんてつまんないよね。虚こうで現じつをぬりかえるのが、虚こう日記の主しだったよね。わたし、ひっこむね。
 ――ポケットからおもむろに黒電話を取り出すと、ジーコッ、ジーコッとダイヤルを回す。
 トゥルルルッ、トゥルルルッ。数回のコールで電話がつながる。
 「ヘイ、総理大臣官邸かい。今から一時間後、首相をブチ殺しにいくぜ」


 よい大人のnWo 第二部~めぐりあい・邂逅編~完

MMGF!~もう時効だろ?滅法愚劣なフッカーめ!~(在庫駄駄余解消断念C80漫遊記・後編)

前回までのあらすじ:同人誌ゎ売れなかった……こわぃ家人がまってる……でも……もぅっかれちゃった……でも……ぁきらめるのゎょくなぃって……パィソンゎ……ぉもって……ゃかたぶねで……がんばる……でも……原価……われて……ィタィょ……ゴメン……200冊もぁまった……でも……パィソンとサメンゎ……ズッ友だょ……!!


 夕闇にリングレイスと映ったものは、ギャザーするロトン・ガールズの見間違いデシタ! ソー・コールド戦利品をロードにブチまけてエンジョイしているところを「通行の邪魔になりますからー」とガードマンに追い払われていマシタ! アヌス・スキピオ・魯鈍・ガールズどもめ、ルック・アット・ザマ、ざまを見ろデス!
 アンド、サプラーイズ! バック・ドアー・チケットのプロバイドを渋ったサメンが、ミーにホテル・ルームをプリペアーしていたことをコンフェス、告白してきマシタ!
 「ジツハヨウ、オマエノ名前デ、ホテルノ部屋ヲ用意シテルンダ。ヤカタブネノ出航マデマダ時間ガアル。少シソコデ休憩シヨウゼ」
 ミーが感激のあまりサメンにハグしようとすると「ヨセヤイ、男ト抱キアウ趣味ハネーゼ。モチロン、払イハ全部オマエダカラヨ」と鼻の頭をかきながら頬を染めて言いマシタ! ホワット・ア・ツンデレ・イラキ・パーソン・ヒー・イズ! そのプリティな仕草にミーはキュン死しそうになりマシタガ、ロトン・ガールズが付近に潜んでいるポシビリティをビッグサイト周辺ではオールウェイズ疑っておく必要がありマス! ミーは努めてビューロクラティックに「サンキュー・フォー・ユア・カインドネス」と述べるにとどめマシタ!
 ホテルにアライブ・アットし、サメンと二人でラブラブ・ファッキン・チェッキンを済ませてルーム・ドアーをオープンすると、突如ノーウェア、どこからともなくアピアーした異臭(isyuu)を放つギークスどもが土人誌のイシュー(issue)を抱えて室内に続々と蝟集(isyuu)し、フロアーへダイレクトにシット(shit)しはじめたのデス! こましなスイートだったミーのホテル・ルームは、たちまちガレー船のボトムのようになりマシタ!
 驚きと臭気にゴールデンフィッシュの如くマウスをパクパクさせるミーに向かってサメンは、「コイツラハ、今日ノ打チ上ゲノ参加者タチダ。悪イガ、シバラク居サセテヤッテクレ。ソレジャ、俺ハシャワーヲアビテクルゼ」とワン・ウェイに言い残して去っていきマシタ! オフコース、ミーはこのギークスどもとノーバディ面識がありマセン! オーッ、サメンサーン、それジャパニーズ・コメディアンが言うところのムチャ振りネー!
 ミーは借りてきたキャットのようにベッドの端にそっと腰掛けると、うつむいたままワンハンドレッド・エイトあるフェイバリット遊戯のうちのひとつ、手の皺カウントを始めマシタ! サドンリー、突然ワンノブゼム、ギークスどものひとりが「あー、あちーな」とアター、発話しマシタ! ボスのフェイス・カラーをうかがうアビリティのみで社内ポリティクスを泳ぎきり、あの壮絶なリストラクチャリング・ウェイブを乗り切ったミーは、そのフォー・レター・ワーズ(イッツ・ホット・イズント・イット?)から、ギークスどもがドリンクを婉曲的に所望しているアトモスフィアーを察知したのデス! ミーはバックヘッド、後頭部へライト・ハンドを当てることで敵意の無さをインディケイトしながら、「オー、それじゃ、ミーがドリンクを買ってくるネー!」とベッグされてもいないのに勢い良くアピールしマシタ! それもこれも、エクストラ土人誌ズをソールド・アウトにリードするためデス! 営業のベースはプライドをダストビンにスロー・アウェイするところから始まると教わりマシタ!
 ゼン、そのうちのエクストリーム・ギーク・ルッキングをしたベガー(後にシャアウフプとターンアウトする男デス!)が「なんや、案外ホームページよりは腰が低いやないか」とツイーティングしたのを、ミーはオーバーヒアーしませんデシタ!
 段ボール製のつけ鼻を貼りつけたセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。十数年来の人間関係がすでに出来上がった面々の中にひとり部外者として座っている事実に、喉元へ孤独感が痛いほどこみあげた。続けて、エロ同人を制作しているぐらいの情報しかない連中を一切紹介することなく、いきなりの放置プレイへ至ったことに対して、憤りにも近い感情が芽生えた。先ほどのつぶやきから察するに、このうちの一人はどうやら私の運営しているホームページの正体を知っているようだ。だが、連中全員が私を誰と認識しているのかは、わからない。本当は、話題に入れない気まずさ、嘲りを含んだ値踏みの視線から一時でも逃れるために、私は飲み物を買いに出ることを志願したのだ――
 ドント・レット・ミー・ダウン! ノーバディ・エバー・ディスレスペクト・ミー・ライク・ユー、デース! ドント・リック・ミー、ミーをナメんなデース!
 ベッドから腰を浮かせたミーは、親指と人差し指をすりあわせるジェスチャーでギークス・アズ・ベガーどもへドリンクを購入するためのマネーを要求しマシタ! バット、連中はミーをイグノア―しながら「おれ、晴海時代からコミケ参加してるからさー」などと内輪のトピックで盛り上がってやがりマス! カインド・オブ・敗北感を味わいながらルームを出ようとすると、アット・ザ・セイム・タイム、ベガーどもは異口異音にそれぞれが所望するドリンクの銘柄をミーに告げマシタ! さっきまではアイコンタクトさえなかった連中がナウ、ミーを見てニヤニヤ笑っていマス! 知ってマス、これ知ってマース! 自分のマネーでドリンクを買いに行かされたあげく、銘柄がひとつでも間違っていたらナックルでボコられるやつデース! スクール・カーストの頂点のオポジットに君臨していたミーには、この手のブリイングの手法はワン・ハンドレッドも承知なのデース! ミーを苛烈な受験ウォーズにウィンさせた膨大な暗記力をナメてもらっては困りマース! オーケー、ミーにまかせておいてヨー!
 「ダイエット・コーク、十六茶、午後の紅茶、ミネラル・ウォーター」などと小声で繰り返しながらエレベーターの中を小走りにローリングしていると、後から入ってきた一般ピープルがぶしつけにミーをルック・アットしてきマシタ! 闘拳コミックを愛好していた頃の激しいゲイズでにらみ返すと、たちまち目をそらして見なかったふりデス! ホワット・ア・カワード! ミーの胸中をたちまちプライドが満たしマシタ! スクール・カーストはブリーするサイドとブリーされるサイドに分かれマス! ニーザ―・サイド、そのどちらにも加担しない、ある意味もっともクルーエルなヘラヘラ笑いのトーテム像だっただろう一般ステューデンツに、ミーがキアイで負けるわけがないのデス!
 みんなー、お待たセー! ダブル・アーム・スープレックス、両腕いっぱいにドリンクを抱えてリターンすると、ミーはベガーどもに所望のドリンクを手渡していきマス! すると、ブリイング・ギークスどもは互いに顔を見合わせると小さく舌打ちをしマシタ! ミーの買い物がパーフェクトだったことを確認したようデス! ゼン、ギークスのうちの一人がミーに婦女子のイラストが描かれたネーム・カードを差し出しマシタ! オーッ、ジャパンのフェイマス・コマーシャル・トラディションであるところのメイシ・ゴウカンネー! ミーは腰を90度に折り曲げてカンパニー・ネームの入ったメイシを差し出しマシタ! このときミーはアクセプトされる喜びにうちふるえたのデス!
 そこへステテコ一丁で首にタオルを巻きつけたサメンが、ソープの香りを発しながらアピアーしマシタ! 「フッ、コノ気ムズカシイ連中ヲハヤクモ手ナヅケチマウトハ……ヤハリ、俺ガ見込ンダトオリノ漢ダッタヨウダナ……」とツイーティングし、先ほどのサメンの行動が一刻も早くスウェットを流したいからではなく、ミーの実力をイグザミンするためにしたことがわかったのデス! ヤッパリネー、サメンのこと信じてたヨー!
 「ソウソウ、オマエラニ言イ忘レテイタガ……」
 ふいにボイス・トーンをチェンジすると、サメンは人差し指と中指の間に親指をはさみこんだジェスチャーを誇示しながらギークスどもにデクレアー、宣言したのデス!
 「今日ハ来ルゼ、ナヲンガ! ソレモ、二人ダ……!!」
 とたんにルーム内のギークスたちは色めき立ちマシタ! オブ・ゾウズ・ギークス、中でも晴海からコミケトーに参加しているという古強者ギークがエスペシャリー大きなリアクションを見せたのデス!
 「な、何? いまお前はナヲンって言ったのか? そ、それはまさかヲンナ、女のことか? もしかして、本物の女のことを言っているのか? 二次元じゃない方の女のことを言っているのか? 本物の女ってそれ、都市伝説じゃなかったのか? やばいだろー、それ、やばいだろー」
 トゥー・ショックト、ベテラン・ギークはよほど衝撃を受けたのか、アフター・ズィス、しばらくの間「やばいだろー」を連呼するだけのステイトに陥ってしまいマシタ! サメンのアクウェインタンスの土人オーサーが売り子ヘルパー(マネーでタイムとボディを提供する売女みたいなものデス!)を帯同してくるとのことデス! 知ってマス、それ知ってマース! プライベートな場からパブリックな場へ売女とやってくるコト、ソー・コールド、同伴出勤ネー! ミーが大きな声で「カッパン・インサツ、ドウハン・シュッキン!」と言うと同時に、サメンのナックルがミーの眉間に火花を散らしマシタ!
 コンシャスネスがバックすると、ミーはタクシーのインサイドでドアーにリーン・アゲインストしていマシタ! 同乗者はサメンとオットマンのようデス! サメンがまとうバイオレンスな気配へのフィアーから、ミーはこのヤングマンをカンバセーションの相手に選ぶことにしマシタ! ヘイ、ボーイ、しばらくミーとお話ししようヨー! オットマンはここで初めて、セクスペリアから視線を上げたのデス! ゃだ……このコ……すごぃきれぃな目……してる……!!
 クリエイター・フェローズとルームを共有して住んでいるコト(今日はシェアハウス・レートが高いデスネ!)、少年誌の連載をフィニッシュしたが(ソワカ反吐、とかいうタイトルデシタ!)持ち出しばかりでエロ・カートゥン時代のセービングを逆にデクリースさせてしまったコト、トウキョウ・ステーションでクソビッチ(ビチグソの聞き間違いだったかもしれマセン!)のメタル・アクセサリーに商売道具のフィンガーをデストロイされたコト、アンド・ソー・オン、いろいろなトピックをフランクに語ってくれマス! 話しぶりも好印象でセクスペリアを愛撫するだけの感じ悪い青年かと思っていたマイセルフが恥ずかしくなりマシタ! 聞けば今回のコミケトー参加にもサメンが尽力してくれたとのことデス! オットマンがサメンへの感謝を口にし始めると、助手席で黙っていたサメンが口を開きマシタ!
 「俺タチハ究極、アウトサイダーナンダ。国ナンザ少シモ頼ミニナラネエ、組織ナンザ元ヨリドウ搾取シヨウカバカリ考エテヤガル。困ッタ時ニハ互イヲ助ケ合ウ、ソレガ俺タチニトッテ唯一守ルベキJINGIナノサ」
 ゃだ……すごぃ……ぉとこまぇ……! オットマンがインプレスト、感じいったように深くうなづきマス! メイビー、もしかするとエロ・カートゥン業界の出稼ぎフォリナーにとって、このサメン・アッジーフという男は元締め的な存在なのかもしれマセン! バイ・ザ・ウェイ、ミーは二人のリレーションにア・リトル、すこしセクシャルなものを嗅ぎ取りマシタ! ロトン・ガールズならばウケ・オア・セメという言葉で表現したことデショウ!
 タクシーを降りた先のバス乗り場でサドンリー、突然、土人誌の配給が始まりマシタ! 
 「――体調が悪くて今日来れないから、××さんがみんなによろしくって、これ」
 もしかするとトウキョウではサルベーション・アーミーの炊き出しぐらいの、当たり前の光景なのかもしれマセン! ミーはそのアブセント・パーソンにとってパーフェクト・ストレンジャーだったのデスガ、ものほしげな上目遣いフェイスで人差し指の第二関節までをマウスに突っ込んでチュパチュパいわせていると、土人誌をゲットすることができマシタ! イン・アディション、しかもページ数に比してトゥー・エクスペンシブな冊子をフォー・フリーでデース! ワーイ、ヤッター! キョウト・プリフェクチャーならイメディエットリーお縄を頂戴(荒縄で全身をキッコー縛りすることデス!)するような年齢のポルノグラフィが満載ダヨー!
 バスを降りるとそこがヤカタブネの乗り場デシタ! 生粋のパリジャンであるミーは、セーヌ・フラーヴをバトービュスでクルーズするのが日常だったのデス! ジャパンのバトービュスはどんな外観をしているのデショウカ? ワクワクしながらバージをルックするとジャパニーズ・ヒラヤ・ハウスを木造のシップにアッドしただけという、ベリーいい加減な乗り物が頼りなげにフロートしていマシタ! オオサカ・キャッスルの上にデビルがまたがっているビジュアルのメイフラワー、豪華客船を想像していたミーはベリー・ディスアポインティッド、たいそうガックリさせられたのデス!
 ヤカタブネの中は少しでも平方メートル辺りの利益率を上げたいのデショウ、陸地ならば消防法にタッチ、抵触するほどのデンスリー・ポピュレイティッド、人口過密ぶりデシタ! オーッ、これがかの有名なジャパニーズ・トラディション、スシ詰めネー! ミーとサメンを含めた6人の野郎どもがフェイス・トゥ・フェイスになり、通路を挟んだテーブルに細面の優男とルーモア、うわさの売り子ガールズどもが座りマシタ!
 ヘイヘイ、初対面のウタゲ・フェスティバルではテレコに座るのがコモン・センス、常識デショウ! ファースト・ハンド、初手から知り合いだけ固まってどうするんデスカ! セールス・マネジャーのスピリットが一瞬ネックをもたげマシタガ、ミーはここではパーフェクト・ストレンジャーなのデス! コンパニオン的ビヘイビアーとは遠く、ケータイ遊びにアブソーブド・インするフィーメイルたちにはベテラン・ギークもガックリきたようで、あからさまなディスアポイントメントにショルダーズをドロップさせていマス! シンパサイズ・ユー、その気持ち、痛いほどわかるヨー!
 それにしても、ブルブル! 夜のリバーからウィンドウを吹き抜けるウインドはサマーだというのに冷たく、スキニーなミーはガタガタとふるえだしマシタ! イッツ・ソー・コールド! ヘイ、クルーのブラザー! こっちにアツカン、ジャパニーズ・サキをアツカンでプリーズ!
 「えー、申し訳ありません。本船には缶ビールと缶チューハイしか積んでおりません」
 ワ、ワット? 寒風ふきすさぶ中、よく冷えたビアーしか置いていないというのデスカ? 加えて重度のアルコール・アディクションであるミーにとって、ビアーぐらいで酔うことなんてできマセン! ミーのハンドがブルブルとふるえだしたのは、寒さではなく離脱症状によるものデス! 赤ら顔のロシア人なら「シュトービスカザーリ? ビールはアルコールじゃないだろ? コストコでも清涼飲料水のコーナーで売ってるぜ? コストコはロシア資本だろ? なんたって値札がぜんぶロシア語で書いてあるからな! ハラショー、サンボ!」と答えて四十過ぎで死ぬところデス!
 オーケー、アルコールの種類が少ないことにはクローズ・マイ・アイズ、目をつぶりマショウ! こと酒類のフィールドでジャパンは二等国なのデスカラ! ハウエバー、食材への深い造詣とUMAMIに精通した日本食は、舌の肥えた欧米の食通をもうならせると聞きマス! アンド、生ガキとフォワグラ・ソバージュを常食としてたミーの舌は、生半可の食通に劣らないと自負していマス!
 バット、出てきたディッシュはミーの想像をはるかに越えていマシタ! それはボールいっぱいのゲロ状のゲル、あるいはゲル状のゲロだったのデス! ヒロシマ焼きだかドテ焼きだか言うそうデスガ、なんでトウキョウくんだりまで来てヒロシマの名物を食わなあかんネン! オフコース・ユー・ドゥー、利益率を高めるためデース! シップに食わせるギャスが値上がりし続ける中、客に食わせるミールの単価をボールいっぱいのゲロで抑えるのは理の必然デス! ホワット・アン・エコノミック・アニマル・ゼイ・アー! 慄然たるエコノミック・アニマルどもデス!
 オールライト、オールライト! アルコールや食事のクオリティはこのウタゲ・フェスティバルには全く関係ありまセン! 今日はタレントあふれる土人オーサーたちとのカンバセーションのクオリティを楽しむために、ミーは来たのデスカラ!
 はしけを離れてからほどなくして、テーブルを満たすのは土手焼きの具材がジリジリと鉄板の上に焦げる音だけになった。携帯電話の画面を見つめ続ける者、腕組みをして虚空を眺める者、手持ちぶさたに具材をコテでつつき回す者――私は気まずさに耐えられなくなって、早くも3本目の缶ビールを注文した。背後では浴衣を着た若い女子が嬌声をあげている。合コンだろうか、実に楽しそうだ。ひるがえって、誰も話題を振りさえしないこの会合は何なのか。宴席の幹事としての活躍だけで社内の地位を固めた身にとって、実に気をもむ状況だ。まさか、ゲスト未満の部外者が場を仕切るわけにもいくまい。鉄板のジリジリいう音が内心の焦燥の擬音化のように聞こえ始めたそのとき――
 「マア、ネットジャ良ク話ヲスル面々ダガヨ、コウヤッテリアルデ会ウノハ初メテッテ連中モイルダロウ。コイツガ焼ケチマウマデ、マダ時間モアルコトダ。ドウダイ、堅ッ苦シイノハ申シ訳ネエガ、ヒトツ自己紹介ッテノハ」
 サメン・アッジーフ! アウア・セイビアーはやはりこの男デシタ! 気まずさをリムーブすると同時に、アウトサイダーであるミーが発言するのに自然なシチュエーションを作ってくれたのデス! ハーイ、ハイ、ハーイ! ミーはエナジェティックにハンズ・アップしマシタ! ミーが最初にセルフ・イントロデュースするネー! ミーはナラ・プリフェクチャーから来たパイソン・ゲイだヨー! ニュー・ワールド・オーダー・フォー・グッド・メンっていうテキストサイトを十年ほど前から運営してるんだケド、みんな知ってるかナー?
 「知ってる」
 女のうちのひとりがケータイの画面から目を離さないままボソッと、吐き捨てるように私の言葉へかぶせてくるのが耳に入り、無理にも奮い立たせていた感情は一気に冷えた。 アタシたちは優男のファンなんだから、おまえの暑苦しい自己紹介なんざどうでもいいんだよ。そう言っているように聞こえた。この女は、私がこの瞬間に川へ飛びこんだとしても、携帯の画面から顔さえ上げないだろうと確信できた。女を連れてきた色白の優男は涼しげな微笑を浮かべたまま、ツレの無礼をたしなめることも、私の方へ視線をやることもしなかった。愛情の反対は憎悪ではなく無関心――マザー・テレサの有名な言葉がふと浮かんだ。
 ほとんど泣きそうになりながら、しどろもどろで尻すぼみの自己紹介を終える。伏せた顔から涙がこぼれ、鉄板の上でジュッと音を立てた。C80-3.JPG
 ウオァァァァッ! これ、テキストサイトのオフレポやねんで! 現実に負けてどうすんのや! もっとウソ・エイト・ハンドレッドで、狂い踊らなアカンがな!
 ライク・ア・ローリング・ストーン、さすがコミケトーで一枚看板を張る烈士たちの集まり、ただのセルフ・イントロデュースにさえ緊張で思わずハンド・スウェットを握りマス! この後の人物紹介は、グラップラー刃牙最強トーナメントのイットを思い出してもらえば、ピッタリのシチュエーションをインサイド・ブレインに再現できると思いマス!
 ミーの隣に座るのはセクスペリアのオットマン、その隣りがイラク人のサメン・アッジーフ、この二人についてはもうエクスプラネーションは不要デショウ!
 ミーのトイメンにいる「俺って典型的な酒の飲めない日本人だな」という風貌をした、このソース&オイリーなメンツの中でオールモスト・ゲット・ロストしている青年は、コウヤヒジリだかシモツキ(ミーはウエツキの方が好みですケドネ!lol)だかいうペンネームでイラストを描いたり、アニメの絵を動かす(大道芸の類デショウカ? よくわかりマセン!)ことをプロフェッションにしているそうデス! ホワット? ゲンガー? ポキモンの一種デショウカ? ウェル、どんなアニメの絵を動かして(?)いるんデスカー?
 「あの、有名なとこでいうと電脳コイルとか」
 とたん、エブリバディがどよめくのがわかりマシタ! どうやらビッグ・ネームのようデス! だとすればジャパンのギーク・カルチャーに造詣のディープなミーが知らないはずはありマセン! ウォーッ、思い出せ、思い出すのデース! 思い出しマシタ、ライトナウ、ソレ思い出しマシタ! ミーはうれしくなって叫びマス!
 「ワーオ、裸神活殺拳ネ! 脱げば脱ぐほど強くなるネー!」
 アイ・ドン・ノウ・ワイ、なぜかエブリバディのリアクションは悪かったデスガ、それはきっとミーがジャパニーズ・エモーションの起伏を読み取れなかっただけのことデショウ!
 シモツキの隣にいるのがハルミ・エラからコミケトーでブイブイゆわせていたという古参ギークデス! ホワッツ・ユア・ネイム? アー、どうもイングリッシュ・ワードのようですがヒアリングできマセン! ジャパニーズのプロナウンスは平板すぎマス! 何度か聞きかえして、この古強者のペンネームがシャアウフプであることがわかりマシタ! シュアリー、ハンターハンターのトガシ先生をリスペクトしているに違いアリマセン! 「手淫すげえよ!」(これも元はイングリッシュ・ワードのようデス!)みたいなタイトルのゲームでアクセサリーとかのデザインをしていたそうデス! スリー・ディメンションへの絶望のせいかメディケーションのせいか、なかなかテンションが上がりマセン! ホテルではミーへのブリイングの火種となった人物デシタガ、このウタゲ・フェスティバルで小学生が大好きと知りマシタ! ミーがビリーブするセイイングは「子ども好きに悪人はいない」デース! 見直したヨー! オウ、これがシャアウフプの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ユー・アー・アンダー・アレスト! ゴー・トゥー・ジェイル、ユー・ブラッディ・アス・ホール!
 ソリー、思わず取り乱してしまいマシタ、スイマセン! クリミナルの隣には、「ナントカ村」という名字の人がよくやる、カタカナのムを突き出た鼻、ラを開いた口に見立てた自画像のようなフェイスのパーソンが座っていマス! トゥ・テル・ザ・トゥルース、実のところこの人物に関してわかっていることはあまり多くありマセン! ジェネラリー・スピーキング、一般的に言って俯角に設定されることの多いウェブカメラを仰角に設置しているということだけデス! なぜ俯角ではなく仰角なのデショウカ……オオップス、コレ以上は勘弁してくだサイ! ア・フュー・モア・ワーズ、アイ・ウィル・ビー・キルド! ペンネームを聞きそびれたので個人的にホニャ村と呼ぶことにしマス! どうやらホニャ村はマス・オーヤリなる人物をレスペクトしているようデシタ! フー・イズ・ヒー? キョクシン・カラテのファウンダー、創始者のことデショウカ? ミーがザ・疑問を口にすると「マア、オマエハ、飲ンデロヨ」とサメンがミーに新しい缶ビールをプッシュしてきマシタ! 「違うんデスカ? ビッグ・ファック先生じゃないんデスカ?」と重ねてアスクするとホニャ村の表情マッスルがひきつり、サメンはシリアス・フェイスで「バカ、ヤメロ」とミーをたしなめたのデス! 実在の人物かどうかさえわかりませんデシタガ、マス・オーヤリの話はどうもこの席ではビッグ・タブーのようデシタ! フォックスにつままれるとは正にこのことデス! エロ・カートゥン業界ではヤスタカ・ツツイの小説に登場するフーマンチュウ博士みたいな位置づけのパーソンなのかもしれマセン!
 アンド、通路をアクロスしたテーブルでハーレムを形成しているのはファインド・ウォーリーかカズオ・ウメズのようなストライプト・奇抜・ファッションをした優男デース! ヘイ、レット・ミー・リマインド・オブ・ユア・ネイム! ボーボボボ・ボボーボボボ? 何回聞いても、ボの回数がわかりマセーン! 少年ジャンプ愛読者からキヨシ・ヤマシタをレスペクトしている可能性までありマース! ジャパンのカルチャーは多様すぎるネー! ミーは個人的にズィス・ガイをウォーリーと呼ぶことにしマシタ! オウ、これがウォーリーの作成した土人誌デスカ? レット・ミー・ハブ・ア・ルック! ガッ、マイガッ! ファティ・メルティ・ウェイスト・ウィズ・ボミッティング・ストレンジ・ヒュージ・ティッツ! 人を見た目でジャッジしてはいけないとよくマムはミーに言いマシタガ、このときほどマムの言葉が実感を伴ったことはありマセン!
 ザッツ・イット、これだけの多士済々なのデスカラ、ドッカンドッカンおもしろトークが次から次へエクスプロードしそうデス! これぞトウキョウまで出張してきたかいがあるというモノ、エクストリームリー楽しみデース!
 鉄板の周囲には幾たびかの沈黙が降りている。ホニャ村がスッと挙手する。皆の視線が集まる。「今まで隠していたことがあります。私、サメンさんと同じ雑誌で描いていたことがあります」と発言する。誰も拾えないボールだった。話を振られた当の本人も「アア、ソウナノ?」と困惑気味の応対で話題の種火はたちまち消滅した。船上ではトイレを理由に中座して、そのままフケることもできない。窓から川に飛び込むことを本気で思案し始めたとき――
 「アア、コノ土手ハ素晴ラシイモリマンダネー、恥丘ノ神秘ヲ表シテイルンダネー」
 パーハプス、もしかしてレオ・モリモトが乗船しているのデスカ? ノー・ヒー・ダズント、やはりこれもサメン・アッジーフの仕業だったのデス! 土手の外壁をコテで成形しながら、サメンはさらに続けマス!
 「柔ラカナ土手ノ内側ニ満タサレテイルノハ愛ノジュースナンダネー。緑ノ滓ヲ浮キ沈ミサセナガラ白ク泡ダッテ、ホラ、今ニモコボレソウダネー。剥キ海老ノ白サハ、ソウ、包皮ヲ剥イタアノ甘イ豆ノヨウダネー」
 サハラの熱い風を意味する族長名・アッジーフを冠したサメンの語りは、冷え切ったプレイスをたちまちウォームしていきマス! ホワット・ア・シェイム! ミーはアウェイを理由に保身に満ちたサイレンスのインサイドで自己憐憫にひたっていたことを恥ずかしく思いマシタ! ポジションなんて関係ありマセン! ワン・ミーティング・ア・ライフ、一度の出会いがハウ・レアかを思い、そのミーティングに全力をかけられるかがインポータントなのデス! ミーはマイセルフをおおっていたエッグシェルがクラックするサウンドを確かに聞きマシタ! サンキュー、サメン! 今こそプライドのセルからレスキューしてくれたユーへのJINGIを、ミーが果たすときデス!
 「ヘーイ、みんな知ってマスカー? ナラの仏像さんはめっちゃエロいのネー! それを証拠に頭はケマン、喘ぎはアハン、左手はテマン、居るのはネハン、股間はたちまち濡れそぼり、ニルヌルニルヌル、ニルヴァーナ!」
 ミーは大ハッスルでサメンの暖めたステージにとびこみマシタ! ホワット・ア・ミステリー! なんということデショウ! 場の空気が急激にクール・ダウンしていくのを感じマス! オットマンだけがミーの隣で、「サメンさんとパイソンさんのやりとり、すごい面白いです」と両手をクラップして大喜びデシタ! ジャパンの若者の中央値としては考えにくい青年のチアフルネスにエンカレッジされ、ミーは最後のデンジャーなギャンブルにうって出マシタ!
 「ダイインシン、チュウインシン、ショウインシーン! チュウナゴンはいるのに、なぜチュウインシンだけありマセンカー? チュウのインシン王にカツレイされたからデスカー? カツカレーイ!」
 絶叫が虚空に消えると、テーブルにはしんとした静寂が残された。そして、いつの間にか背後の席からは一切の声が聞こえなくなっていた。はしけに船体が当たり、船全体が少し揺れた。日本人の顔になったサメンが伝票を取り上げながら、「えー、三千円通しでお願いします。端数はいいっすよ」と言った。三々五々、船を降りてゆき、私はテーブルにひとり残された。
 「あーっ、だれか携帯電話忘れてるよー」
 黄色い声にふりかえると、私のアイフォンを浴衣姿の可愛らしいお嬢さんがひろいあげるところだった。
 「あ、それ、ぼくのです」
 言うや否やあからさまに怯えた表情になり、汚いものにでも触ったかのように私にアイフォンを投げよこした。グループの他の女子が集まってきて「だいじょうぶー?」「なにもされてないー?」と口々に声をかける。私は黙って船を降りた。
 帰りのバスは混み合っていたが、私の隣には誰も座らなかった。頭の芯まで恐ろしいほどにシラフで覚醒しきっていたが、酔ったフリで目を閉じた。
 またやってしまった。ふだん社会性でがんじがらめにさせられている誰かにとって、酒の席は反社会的な部分を少し解放してやることで、共感を得られる場になる。勝手な推測に過ぎないが、たぶん今日の酒席はその逆だったのだ。私は貯蓄とか、住宅ローンとか、フィットネスとかの話をするべきだったのだ。
 しかし、すべてはもう遅かった。宴席で関係を築き、大量に余った在庫を押し付けよう、あわよくば彼らの知り合いに同人誌を紹介してもらおうという甘い見通しは、粉々に砕け散ったのだ。
 ホテルのロビーに戻ると、なぜかホニャ村が話しかけてきた。自分は三十歳を過ぎてから絵を描き始めてここまできた、頑張れば遅すぎるということはない、などとアドバイスを受けた。サメンの弟子か何かと勘違いし、たぶん、私を励まそうとしたのだろう。先ほどの宴席で自ら話題をふったことといい、実はかなりいいヤツなのかもしれない。しかし、私の望みはイラストのスキルを向上させることではない。己のテキストをより広範な形で世に問いたいという一点なのだ。ホニャ村の励ましに心温まるものを感じながらも、このディスコミュニケーションこそが今回のすべてを象徴しているな、と思った。
 互いに名残を惜しむサメンとその同人仲間たちを尻目に、私は黙って自室へと引き返した。いろいろな意味で、終わったな、と感じながら。一刻も早くひとりになりたかった。
 灯りもつけず、服も着替えないままベッドに倒れこむ。空調か何かのぶーんという音が部屋の中に充満していた。何も考えずただ頭を空っぽにしていたかった私は、そのぶーんという音に意識を同調させていった。最後まで読み通すと発狂するというあの小説のことが、ふと頭に浮かんだ。
 どのくらいそうしていただろうか。ふいに部屋のドアがノックされる。ルームサービスは頼んでいない。しばらくすると、再びノック。ノロノロと立ち上がり、覗き穴も見ずに部屋のドアを開ける。そこにははたして――
 「アンナンジャ、オマエハ飲ミ足リネエダロ? サシデ飲ミ直シトイコウヤ」
 なんとノックの主はサメンだったのデス! ホワイト・ワインのビンをかかげながら、ルームに入ってきマス! ミーは人差し指でノーズの下をこする仕草で涙を隠しながら「も、もちろんネー!」とアンサーしマシタ! そしてミーとサメンのセカンド・ウタゲ・フェスティバルが始まったのデス!
 ムーディな間接照明の下に洗面所のグラスでイーチ・アザー、差しつ差されつを繰り返していると、ジャパンにエロ・カートゥン・オーサーとして生きるアフガニスタン人の苦しみを、サメンはポツリポツリと吐露し始めマス! 浅黒いフェイス・カラーに濃いヒゲで、酔っているのかどうかはわからなかったデスガ、ホワット・イズ・コールド、ガイジンとしてのシンパシーが互いを満たしていることだけは確信できたのデシタ!
 今日一日のエブリシングはオールライト、ウォーターに流そう、そう考えているところへサメンが言ったのデス!
 「マァ、ホレ、今回ハサ、オマエニ気ヲツカイスギチマッタトコロガアルカラヨ」
 ノーズの頭をかきながら照れくさそうにサメンは言いマシタ! ホワット・ディド・ユー・セイ? 気をつかう? ユーズ・気・オーラ? ライク・太極拳? ミーのヘッドにはクエスチョン・マークが乱舞していマシタ! サメンの様子をうかがうと、どうやら日本語ディクショナリーのデフィニション通りの意味で言ったようデス! ミーのブレイン・バック、脳裏には今日一日のベアリアスなシーンがクロッシング、よぎりマシタ! 罵倒、殴打、ネグレクト――どれひとつとしてミーの中では気をつかうの定義に当てはまりマセン! プロバブリー、おそらくバズーカをミーの顔面にブチかまさなかったり、ロケットランチャーをミーのアス・ホールにブチかまさなかったり、売り子をヘルプしているミーのスロートを背後からサバイバルナイフで掻き切らなかったことを指しているのデショウ! おそろしいまでの彼我の認識の差異、カルチャー・ギャップに、ミーは世界から戦争が無くならないリーズンの深淵をのぞきこんだ気がしたのデシタ! サメンはそんなミーの動揺にも気づかず、コミック・オーサーとは思えぬほどゴツゴツしたナックルをミーの眼前へヌッと突き出して、「モシ次ガアッタラ、今度ハ手加減無シダゼ?」と言ったのデス!
 シュアリー、間違いなくサメンの本気とはSATUGAIした後、生命を失ったボディを前に、死体こそアイドルであり偶像崇拝のタブーに値すると絶叫しながら、エー・ケー・ビー・フォーティ・エイトならぬエー・ケー・フォーティ・セブンで原型を留めぬほどミンチにするようなタイプのものに違いありマセン! 犬歯を剥き出しにしたその笑顔は、クルセイダーを血塗れの偃月刀で殺害しながら性的絶頂に達する獣たちの末裔、正に快楽天ビーストの凄惨さをエクスプレスしており、ミーのキドニー、腎臓はシティング・ピー、座り小便を危うくマイセルフにアラウしてしまうところデシタ! でも……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
 「オット、モウコンナ時間ジャネエカ。俺ハ、一足先ニ寝カセテモラウゼ」
 ミーのレスポンスを待つワン・モーメントの隙間も無く、サメンは大あくびをしながら大股にルームを出ていきマシタ! クロックを見ればまだ0時を回ったところデス! 昼夜のリバースしたコミック・オーサーをノーマルなものとして想定していたミーにとって、そのヘルシーすぎるライフ・スタイルはデルビッシュ有な風貌を裏切っているように思えマシタ! マーダラーのイノセンスという言葉をミーはなぜか思い出したのデス!
 ボトルに半分以上残ったホワイト・ワインをMOTTAINAIのスピリットでラッパ・ドリンクしたライト・アフター、ミーの意識はバニッシュしマシタ! 体感にしてフュー・セカンズ、数秒したぐらいでルームのテレフォンがけたたましい音をたてたのデス!
 「オウ、ナンダ。マダ寝テタノカ。アンマリ遅エカラ、ビッグサイトノ回リヲ5周ホド走ッテキチマッタゼ」
 なんというビガー、精力デショウ! ミーはこれを聞いて、サメンの創作パワーのソース、源泉をディスカバーする思いがしたのデス! このミドル・イーストからの出稼ぎコミック・オーサーはネバー、決して夢見がちなチェリー・ボーイどもの妄想をフルフィルするためにエロ・カートゥンを描いているのではありマセン! ローカル・タウンをジョギングし、バイスィクルで数十キロを走破し、リアル・ワイフにカムショットし、ベッド・メイトにカムショットし、フッカーにカムショットし、まだカムショットし足りない分でペイメントの発じるマガズィーンのマヌスクリプトを描き、それでも余っているビガーを発散するために土人誌にエロ・カートゥンを描いているのデス! これぐらいのパワーを持ったパーソナリティで無ければペンニス1本(訳注:当該部分が何かで汚れており、penかpenisか判読不能なため、このように表記した)でチンチン代謝(訳注:原文はshinchinの表記。タイプミスか)の早いエロ業界でサバイブしていくことなどインポッシブルなのデス!
 階下のダイナーでブレックファストを共にした後、サメンがミーをアキハバラまで送ってくれることになりマシタ! オーッ、知ってマース、ソコ知ってマース! アニマ・ムンディがアポカリプティックにサクガ・ホウカイしたところデスネー! サメンはミーのワーズを完全にイグノア―すると、荒々しくアクセルをフロアーまで踏みこんでホテルのパーキングをリーブしたのデス!
 オーッ、レインボー・ブリッジ、レインボー・ブリッジデース! ホワイ・ノット、今日はなぜか封鎖されていまセーン! ウィンドウにフェイスを押しつけてチャイルドのようにユージ・オダを探すミーをサメンがネグレクトし続ける最中、事件はカンファレンス・ルームではない場所で起こりマシタ! 大型のゴミ収集車がスピルバーグ監督の「激突!」を思わせる動きでヌッと車線変更してきたのデス! サメン・アッジーフは今こそ中東でテラーを行使してきた凶悪なネイチャーをエクスプロードさせ、「アオッテンジャネエ! コノEdda避妊ドモガ!」と大声でイェルしながらナックルでクラクションをガンガン殴りましたマシタ! ミーゎしょうじきびびった……でも……こわがるのょくなぃって……ミーゎ……ぉもって……がんばった……ミーとサメンゎ……ヌッ友だょ……!!
 ウェル、ところで、エッダ? エンシェント・ノルドのポエムのことデショウカ? Edda避妊というシャウトはどうもフォー・レター・ワーズ、ののしり言葉のようデシタが、アンダーグラウンド・カルチャーにうといミーにはその意味がよくわかりませんデシタ! フィアーに満たされながら横目で隣を見ると、サメンは目を真っ赤にしてさめざめ(lol)と泣いていマス!
 「アイツラ、午前中ダケ三時間ホドゴミヲ集メテ、午後ハ飲ンダクレテル。ソレナノニ、オレノ倍以上ハ金ヲモラッテルンダ。コナイダ役所ニ行ッテアノ仕事ヲ回シテ欲シイッテ言ッタラ、『申シ訳アリマセンガ、アレハ生マレツキノ権利ナノデ……トコロデ、外国人登録証明書ヲゴ提示イタダケマスカ?』、ダトサ! 知ッテタカ? インディア並ミノカースト制度ガ、コノ日本ニハ実在シテルンダヨ! アンナヤツラガイル一方デ、オレハ一日十六時間エロマンガヲ描イテ、国ニ残シテキタボウズトカカアヲ養ッテルンダ! ナア、ヒドイ話ダト思ワネエカ! コレジャ、現地妻ヲ作ルヒマモネエ! 現地妻ヲ作ルヒマサエネエンダヨ……!!」
 サメンはハンドルへ身をあずけるようにして、いまや滂沱と涙を流していた。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。俺たちは現実から逃げ出して、二次元の安らぎにやってきた。だが、俺はその場所からも逃げた。結局また現実へと戻ってきて、もうどこへも逃げられない中で、日々の鬱屈をなんとか無知と酒でしのいでいる。
 だが、この男は違う。俺は二度も逃げたが、この男は一度しか逃げなかった。そして己の居場所を維持するために、未だに最前線で戦い続けている。私は鼻につけた段ボールに手をかけると、一息に引き剥がした。何がパイソン・ゲイだ。おまえはいい年をした、何者にもなれなかった凡人じゃないか。本当に好きなものなんて何ひとつない、日々を空費するだけの凡人じゃないか。
 古書のまちをぬけると、大きなビルの林立する電気街に到着した。降りるときに、ふたりで握手を交わした。励ましでもなく、友情でもなく、約束でもない、そんな握手だった。車が走り去るのを見送ると、近くのゴミ箱に握っていた段ボール片を放りこんだ。
 もはや早朝とは呼べない時間なのに、店のシャッターの多くは下りたままだった。街全体がまだ、昨日の夢をまどろんでいるように見えた。
 さあ、これからどうしようか。ゲーセンで時間でもつぶしてから、同人ショップにでも寄ってみようか。メイド喫茶に入ってみてもいいし、たしかAKB劇場もこのあたりにあったはずだ――
 だが、私はそのどれに対しても心が平たく閉じているのを感じた。
 まっすぐ駅にむかい、東京までの切符を買う。改札の前でふりかえり、秋葉原の街にむかって深々と頭を下げた。それはおたくを象徴する場所への、この十余年の謝罪をこめた一礼だった。
 ぼくはずっと、君たちおたくがうらやましかった。ぼくはずっと、おたくになりたかった。ぼくにとってのおたくは、身を包むブランドのようなものにすぎない。他人に自分をどう見せたいかの飾りで、なくして困るようなものでは全然なかった。
 もう一度言う。ぼくは、おたくになりたかった。骨がらみの、それを引き剥がせば失血して死んでしまうような、ひどいおたくになりたかった。いまや現実のぼくは、君たちを断罪し、粛清する側に立ってさえいる。君たちをとりまく人々のいちばん外側から、石を投げるふりさえしている。
 どうか、こんなぼくをゆるしてくれ。ぼくはずっと、君たちみたいに純粋に生きたかった。ぼくは、本当は、おたくになりたかったんだ。


よい大人のnWo 第一部完







MMGF!!(0)

 プロローグ

 思えば、世界に倦んでいたのではなく、未知に倦んでいたのだろう。
 過去を語る老人は、未だ成さざる者にとって、白紙の課題と同義だった。
 達成される前には重荷で、達成されれば無と同じになる、人生という名の課題。
 はたして、この世界を美しいと思い、愛せる瞬間など本当に訪れるのだろうか。
 その人は、ぼくの諦念へやってきたのだ。
 端正な横顔は少年のようでもあり、少女のようでもある。
 黄金色のくせ毛は、陽光に輝く秋の麦畑のように豊かで、
 ほそく通った鼻筋は、冬に冠雪した尾根のように冷厳で、
 春の若芽のように柔らかな唇は、触れるものを溶かすほどに甘い。
 夏の陽射しを思わせて燃える瞳がうつす表情は、
 ときに賢者の白髪のように老獪で、
 赤子のうぶ毛のようにあどけなく、
 そして、あらゆる光を絶望させるほどに、その深淵には底が無い。
 憧憬を得た者だけが、我が苦しみを知る。
 ぼくの苦しみを、他のだれが理解しよう。
 未だ憧れの熱狂も醒めぬこの身で、かつて魂すら捧げた崇拝を砕かねばならぬ、我が苦しみを。耳朶に残る熱さは、あの人が触れたせいか、憧れが燃え残るせいか。
 鈴のような忍び笑い。虚ろな心に反響して、虜にする。
 では、こうしようか――
 時が経巡り、経巡った時が循環の果てにお前の掌へと還ったその日、
 もし世界が醜いままで、可愛いお前の憎悪にしか値しないとすれば、
 そのときは、乱暴な子どもへ与える玩具のように、この身をお前の恣にさせよう。
 時が経巡り、経巡った時が循環の果てにお前の掌へと還ったその日、
 もし世界が美しく優しさに満ち、お前の愛を捧げるに足るとすれば、
 そのときは、最良の主人を持つ奴隷の幸福の如く、お前の生命を私に捧げるのだ。
 では、手始めに――
 この世界すべての栄華と叡智を順に、お前の卓へ饗することにしよう。

痴人への愛(3)

 痛んだ傘を折りたたむのにてまどって、ちょっとぬれてしまう。舗装の悪い道路には、雨が何か所も水たまりを作っていて、いくども足をとられかけた。
 その店は、目ぬき通りからすこし路地裏へ入ったところにあった。どぎつく明滅するネオンサインを水たまりが照りかえし、コーデリアはなんだか異国の地に迷いこんでしまったような気がして、かるいめまいをおぼえた。
 やせぎすのからだをあずけるようにして重いスチールの扉を開けると、手すりのないひどく急な階段が地下へとつづいている。
 せまいおどり場にあるさびた傘たてには、すでに傘が何本か入れられている。そのうちのひとつに、見おぼえがあった。「背の高い人用」と書かれた購入時のラベルがそのまま柄に貼られている。
 コーデリアが、小鳥尻の誕生日に贈ったものだった。
 小鳥尻は傘を持つことをきらっていた。どんな大ぶりでも、コートひとつで出かけていき、海の底を散歩してきたみたいになって帰ってくる。
「なんか雨にうたれてると、すこしだけ気もちが楽になるの」
 なぜ傘を持たないのか、いちどたずねたことがある。さいしょ、小鳥尻はじっと黙ったままだった。その反応はとくだん珍しいことではなかったので、コーデリアもそれきり黙ったまま、つくろいものをはじめた。
 ゆうに五分は経ったろうか、そう小鳥尻が答えたのである。
「どうして楽になるの?」
 小鳥尻の両目が一瞬、遠くを見るようにさまよって、やさしくゆるんだ。
「私ね、子どものころ、悪いことをするとよくお母さんに家の外へ追いだされてね。そんなときはなぜか決まって雨が降ってたわ」
 コーデリアはいちど、小鳥尻の母親に会ったことがある。
 このたびは、うちの娘がたいへんなご迷惑をおかけしまして――
 病室の敷居にきっちりとつま先をそろえ、定規をあてたような深いお辞儀をする姿をおぼえている。示談の話しあいにきたのらしかった。ぜんぶ両親が対応したので、コーデリアは二言三言を交わすきりだった。
 印象は悪くなかった。すこしやせすぎのきらいはあったけれど、品のいい、知的な女性だったと思う。
 いっしょに暮らすようになったさいしょのころ、小鳥尻が母親のことを悪しざまに言うのを何度か聞いたことがある。それはあまりに病室での印象とちがっていて、コーデリアが「冗談でしょう」とか「思いちがいじゃないの」とか相づちをうつうちに、いつしか小鳥尻は母親の話をもちださなくなった。
「雨の音ってやさしいでしょ。知ってる? 雨ってね、あったかいのよ。家のなかはうるさくて冷たくて、雨にうたれてるほうが、ずっとよかったわ」
 コーデリアには、小鳥尻がなにを言っているのかわからなかった。それどころか、すこし意地わるく、「ちょっと悲劇ぶってるわ」と考えたりもした。
「でも、雨にぬれると風邪をひくでしょ。もう子どもじゃないんだから、雨の日は傘をさしてね。こんど、プレゼントしてあげるから」
 コーデリアの言葉に、小鳥尻は悲しそうにほほえむきりだった。
 玄関の傘が二本になり、この話題はそれきりとなった。


 壁に手をつきながら、すべらないように一段一段をふみしめる。階段のつきたすぐ右手が、喫茶店のようになっていた。できるだけめだたないよう、すみのテーブルに腰をおろす。
 すわったことにホッとすると、人心地がもどってくる。
 コーデリアは、前かけにサンダルをつっかけているじぶんに気づいた。大またに前を行く背なかを見うしなわないようにするあまり、気がまわらなかった。はずかしさに顔があつくなる。
 いすの背もたれは毛羽がたっていて、なにかの液体がかわいたようにゴワゴワしていた。手をふれたテーブルの表面はわずかにねばっている。いまさらながら、ひどく場ちがいなところにいる気がした。
 口ひげをはやした小太りの店員が、水をもって近づいてくる。コーデリアは手ぐしに髪をなでつけた。
「ご注文は?」
 あわてて前かけのかくしをさぐると、がまぐちに指がふれる。すっかり紙のくたびれたメニューをひらくと、よくわからないカタカナがならんでいた。アルコールのたぐいらしい。
「あの、ウーロン茶をください」
 一週間分の食費と同じ値段だった。店員が失笑めいた鼻息をもらしたような気がして、コーデリアは思わずうつむいた。
 それでも注文をすませてしまうと、居場所をえたような気もちになった。
 まわりには、すでに何人かの客がすわっている。奥にひとつ高くなったところがあり、左右にカーテンのようなものが下げてあって、どうやらかんたんな舞台になっているらしい。
 ウーロン茶がはこばれてくると照明がさらにしぼられ、カーテンのそでからだれかがあらわれた。かん高い声の、ふたり組の女性だった。
 すぐにかけあいがはじまる。漫才のようだ。言葉が多すぎて、どんな内容なのかコーデリアの頭にはまったくはいってこなかった。あたりを見まわしても、客たちはだれも舞台を見ていない。どういうお店なのだろう。
 すぐ目の前のテーブルに、若い男がひとりですわっている。ゲーム機なのか携帯電話なのかよくわからないもので、アニメを見ていた。画面の中では、馬に乗った制服姿の少女が刀をふりまわしている。場面が変わるたび、ちがった色の光が横がおにうつりこむ。
 なんだかコーデリアは、ひどく正しくない、ふつうではないことが行われているような気がした。
 まばらな拍手に、はっと我へかえる。ふたり組の女性は大きく一礼して、舞台のそでへとひっこんでいった。
 入れかわりに、セーターに巻きスカートの女性が、グラスとビンを片手でひっつかみ、小さなテーブルをひきひきあらわれる。
 とたん、コーデリアの心臓ははねあがり、あたまの芯にはしゃきっとしたものがもどってきた。小鳥尻だ。
 すでにひどく酔っているようで、足もとはふらつき、目は赤く充血している。
「飲めば飲むほどおもしろく、ってわけにはいかないけど、しらふでできる芸でもないのよね」
 卓上にグラスを置き、こはく色の液体をそそぐ。
「とりあえず、きょうの出会いに乾杯」
 客たちへむけてグラスをかかげると、いっきにあおった。とたんせきこんで、ほとんどを床にこぼしてしまう。長身をおりまげてせきこみ続けるようすに、コーデリアはそばへかけよりたい衝動にかられる。
 やがて口もとをぬぐいながら、
「それじゃあ、はじめましょうか」
 小鳥尻が巻きスカートをはぎとり、客席へと投げる。それはだれにも触れられることなく床に落ちた。肌色のタイツには、股間のところに亀の子タワシがはりつけられていた。
 「わたしのタワシ、気持ちいーでー、わたしのタワシ、気持ちいーでー」
 芸をはじめたとたん、酔いに正体をうしなっていた小鳥尻の声がぴんと張った。家でのぼそぼそと聞きとりにくい話し方とはまったく違っていて、コーデリアはファンとして観客席にいた昔を思い出して、胸がつまるような気もちになった。
 「なーなー、わたしのタワシ、気持ちいーでー、わたしのタワシ、気持ちいーでー」
 がにまたで上半身をそらせ、いくどもタワシをこすりあげる。やはりだれも舞台を見ようとはしない。ただひとり、目の前のテーブルの若い男だけが、アニメから目を離し、食い入るように小鳥尻を見つめていた。
「うるせえぞ!」
 さけび声とともに、客席から舞台へグラスがとぶ。酔っぱらい相手の舞台には、よくあることなのだろう。
 けれどこのとき、運の悪いことにそのグラスは小鳥尻のこめかみを直撃した。たまらず長身を折りまげ、卓に手をつく。こめかみを押さえた手のすきまから赤いものがしたたり、小鳥尻の両目はむきだしの、凄惨なものをたたえていた。
 思わず、コーデリアは席を蹴って立ちあがった。椅子の背もたれが床にたたきつけられて、大きな音をたてる。まわりの客から、いぶかしげな視線が向けられた。
「いってーなー、おい! いってーなー、おい!」
 ことさらな大声が、みなの視線を舞台へともどす。小鳥尻は背中で床をそうじするみたいなオーバーアクションでおどけて、のたうちまわっていた。その表情は、すでに芸人のそれにもどっている。
 観客から笑い声があがる。たちの悪い笑い声だった。
 コーデリアはもう見ていられなくなって、狭い階段をかけあがるようにして店を出た。


「傘、忘れてるわよ」
 看板のネオンが消えると、背の高い人かげが細い路地から出てくる。傘をさしだすコーデリアを肩ごしにちらりと見ると、そのまま何も言わず歩きだす。
「ねえ、傷はだいじょうぶなの」
 うしろをついていきながら、声をかける。小鳥尻は、猫背に首をうめるように両肩をもちあげて、話しかけられるのをこばんでいる。コーデリアは一瞬、ひどく悲しくなった。しかしすぐにそれは、むかむかとした怒りにとってかわられた。
「こんなに心配してるのに、その態度はなによ!」
 じぶんでもびっくりするほど大きな声だった。
 その剣幕におどろいたのか、小鳥尻は足をとめてふりかえる。こめかみにはガーゼが雑にはりつけてあった。
「仕事のときはくるなって言ったじゃない。それに、あんなのいつものことだから、心配なんていらないわ」
 先ほどの舞台とは別人のように、ぼそぼそとした言いわけだった。それがますます、コーデリアをいらだたせる。
「わたしをなんだと思ってるのよ! 猫のせわ係じゃないんだから! わたしにだって、心配する権利くらいあるんだから! こわいんだからね! わたし、怒ったらこわいんだから!」
 むちゃくちゃを言っているなと思ったが、もうとまらなかった。
 体はおおきいくせに、小鳥尻にはひどく気のよわいところがある。このときもうろたえたふうにコーデリアから目をそらして、「これはわたしのことだから」とつぶやいた。「ぜんぶ、わたしひとりで証明しなくちゃいけないのよ」
「だれに証明するのよ! なにを証明したいのよ! だれも見てない舞台で、みんなわすれた芸をして、どうやって証明できるのよ!」
 小鳥尻が大またに近よってきて、手をふりあげた。これだけ言われれば、そうするしかないのはわかっていた。山のように大きくてまっ黒なものがおおいかぶさってくる。
 わたしは逃げない。逃げてたまるもんか。
 コーデリアは小鳥尻を受けとめるように、両手をいっぱいに広げた。いつかまえにもこんなことがあった、と考えながら。
 のけぞるあまり、ふんばった足がぬれた地面にすべった。
 ネオンにふちどられた空が見えたかと思うと、すぐにあたりはまっくらになった。


「ごめんなさい、ごめんなさい」
 目をあけるとコーデリアのかたわらに、ぬれるのもかまわずすわりこんで、小鳥尻がすすり泣いていた。
「私、きょうね、本当はね、すごくうれしかったの。はじめて、家族が舞台を見にきてくれたから」
 体には力がはいらず、頭のうしろは割れるように痛んだ。小鳥尻を心配させまいと、コーデリアはなんとかあいづちをうつ。
「昔、なんども行ったじゃないの」
「あれはファンとしてでしょ!」
 口をとがらせるようすがひどく幼く見え、コーデリアの胸はしめつけられるように苦しくなった。視界がじわりとにじむ。
「どっか痛むの?」
 具合のわるい親を心配するときの子どものような、あどけない表情。コーデリアはなぜか、カッコウの托卵のはなしを思いだした。
「ううん、だいじょうぶよ。ねえ、さっきの話、くわしく聞かせてくれる? だれに証明したかったの?」
 恋人どうしのはずなのに、対等ではない気がしていた。ずっと一方通行なかんじがしていた。それはきっと、小鳥尻の想いが、親を求める子の想いと同じものだったからだ。
 のどの奥にうまれた氷のような嗚咽のかたまりを飲みくだすと、コーデリアはやさしくたずねた。
 小鳥尻は視線をさまよわせて、しばらく考えるそぶりをみせた。
「やっぱり、パパ、かな」
「お父さん?」
 意外な答えだった。父親のことを聞くのは、これがはじめてかもしれない。
「うん。わたしのパパ、すごいのよ。……の社長でね」
 だれでも聞いたことのある、少し大きな会社の名前だった。
 小鳥尻はどこか浮世ばなれしていて、芸人なのに、生活によごれた感じがなかった。良くも悪くも、お金に頓着がない。それは裕福な家庭に育ったことが理由なのかもしれないと、コーデリアは思った。
「小さいころからずっと、パパのこと、自慢だったなあ。でもね、わたし、勘当されちゃったの」
 小鳥尻の口もとが、泣くのをがまんする子どもみたいに、への字にまがった。
「お母さんが、わたしがこうなのは、こころの病気のせいだって。育て方とかじゃなくて、病気なのが悪いんだって。プロだから、わかるんだって。わたしのことでパパとケンカするとき、いつもそう言ってた。病気なんかじゃないのに」
 頭は熱いのに、手足が冷えてきて、みぞおちのあたりには吐き気があった。小鳥尻は気づいたふうもない。
「プロって、なんのプロ?」
 かろうじて、そううながす。わたしはいつでも聞き役だわ、とコーデリアは思った。
「私のお母さん、こころのお医者さんだったの。パパと結婚してから、働くのはやめたみたいだけど。じぶんの生まれた家はケッソンカテイだったって、いつも言ってた。ねえ、知ってる? そういう壊れた家庭にそだつと、子どものころの失敗をとりかえそうとして、大きくなってからも同じ環境を作ろうとするんだって。絶対にうまくいかない人間関係を、のぞんで作ろうとするんだって」
 ああ――
 小鳥尻は、いまじぶんが話していることがどういう意味なのか、わかっているのだろうか。
「わたしずっとヘンだなって。子どもだったから、言葉にできなかったけど、病気の人が病気の人の病気をみるってすごいヘンだなあ、って思ってた。お医者さんになるために病気になるみたいで、すごいヘン」
 小鳥尻の母親はきっと、成功しないことに成功したのだ。呪いを、次へと手わたして。
「わかったわ。お母さんの言ってたことがまちがいだったって、お父さんに証明したいのね」
「そうそう!」
 うまく伝えられない話を大人が先回りしてくれたときの子どものような、とびきりの笑顔だった。
「ねえ」
「なあに?」
 コーデリアはあらためて、この一方通行な関係を悲しく思いながら、言った。
「これだけは信じてほしいの。わたしはあなたを本当に助けたいと思っている。しあわせになってほしいと思っている」
 小鳥尻をまっすぐに見つめる。
「わたしは、あなたのことが好き。でもね、すこしだけ、つかれちゃった」
 まぶたを閉じると、とたんに全身が重くなって、背中から地面にすいこまれるような感じがした。小鳥尻の泣き声が遠のいていくのを心地よく思うじぶんにぞっとしながら、コーデリアは意識を手ばなした。