猫を起こさないように
崩壊スターレイル
崩壊スターレイル

雑文「GENSHINとSTARRAIL(近況報告2023.5.3)」

 崩壊スターレイル、第1章クリア。シリアスのテキストは原神に軍配が上がりますが、ギャグ・小ネタ・設定のテキストはこちらの方が好みです。そうそう、また冒頭から盛大にレイルを外れますが、原神の最新イベントはまさにそのシナリオが持つ魅力を臨界にまで凝縮した内容でしたね! 崩スタの終始ツッコミ不在の感じに比べて、パイモンの狂言回しとしての優秀さもあらためて理解できました。「性格は運命になる」ーーボーイズ・ラブにおわせの目的で唐突に投げこまれたように思えた「CLAMP型金髪美青年」がここまで大化けに化けるとは本当に、想像だにしていなかったです。これだけ多くのキャラを動かしながら、NPCを含めてだれひとりとして下げずに語りきるのは、原神の特筆すべき美点と言えるでしょう。余韻としての後日談は「かゆいところ」をあらかじめマッピングして、ひとつも余さず順にかゆみを消していったばかりか、「失われた手紙」という将来への伏線までキッチリと用意されているのは、もう脱帽という他ありません。本邦における近年の創作界隈で特に顕著な、「特定のキャラをアホか悪役にして、主人公が作者の化身となってそれを一方的に断罪してスカッとする」作品群が、いかに精神的な未成熟から発したものであるかを、原神の成熟は教えてくれます。

 さて、強引に崩スタのギャグ・小ネタ・設定の方へとレイルを戻しますが、特にゴミ箱とか公衆電話とか、街の設置物を調べることによって次第に明らかとなる主人公の狂気じみた内面(ピエロ方向)は、本作のユニークな見どころだと言えるでしょう。皆さんの感想を読みたくて、ツイート検索しようとしたらサジェストに「微妙」というワードが出現し、「おッ、キッズ諸君、元気にやっとるねえ!」と愉快な気持ちになりました。確かにこのゲーム、プレイ入口の手触りはJRPGの窮屈さを完璧に擬態しながら、それ以外すべての要素が湯水の如く金銭を投じたハイパーさという異常な作り方になっているので、本質を見抜くにはある程度まで長く触ることが必要でしょう。繰り返しになりますが、この世界観を原神のマップとアクションで再現「できる」のに、あえてそれを「しない」選択が意識的になされているのが、おそろしいのです。例えるなら、歩行の不自由なヒョロガリ(JRPG)がよろめいて転倒するのを、筋肉質の大男が指さしてゲラゲラ笑っていると思った次の瞬間、そのマッチョは真顔になって五体投地から額を地面に擦りつけ、ウラナリ(JRPG)を伏し拝み始めるみたいな異様さが、全編にわたって横溢している。また、模擬宇宙を始めとするテキストにかつてのゲームブックを想起させるものが多くあり、「ファミコン世代の生き残りが、人生におけるアナログとデジタル双方のゲーム体験をふりかえりながら、JRPGの衰退を歴史的な文脈で鳥瞰する」ときに、本作の面白さは最大化される気がします(私だけ?)。

 あと、課金をためらわせないためにプレイヤーへ与える納得として、なにが最も重要だと思います? ワクワクするストーリー? 魅力的なキャラクター? 高精彩なグラフィック? 戦略性にあふれたバトル? いやいや、正解は「自分の興味が無くなるまでは、サービスの継続が約束されていること」です。崩スタは、少なくとも6年先までの運営とアップデートが明言されており、加えて原神の世界的な成功がその実現性を担保しているのです。本邦のスマホゲーの多くが大陸と半島に負け続けている理由がまさにこれで、調子のいいときはエコノミック・アニマル的な下品さが全面に出てくる一方で、いったん負けがこんでくると敗北の受忍を「引き際の潔さ」に読みかえた破滅を、逍遥と受け入れる傾向が我々の根っこに横たわっている。それは、彼らの「生き汚なさ」と真逆の位置にあるモーメントで、単なる資金繰りや経営の話がいつのまにか哲学や美意識の話へとすりかわってしまう(そして、負ける)。

 さて、最後に再び大脱線した話を元のレイルへと戻して終わります。原神のアクションをタッチパネルでプレイすることは、親指5本の中年にとって文字通りの「無理ゲー」でしたが、崩スタはコマンド制なので切迫的なアクション要素がなく、外出先でのスマホプレイに向いている点がすばらしいです。それとよく見ると、「崩壊スターレイル」のタイトルロゴのデザインが、まんまファイナルファンタジーなのは笑いました。あのな、キミたちのレスペクト、ちょっと重ためのメンヘラ片想いみたいになっとるで? 悪いけど、ウチ(以下、語尾あがり)らにはもう、そんなふうに想ってもらう資格なんかないねん……だって、ウチらは、ウチらは……ヤリーロ・セックス(韜晦帝翁真君)!

ゲーム「崩壊スターレイル」感想

 崩壊スターレイル、シアタールームで現世を遮断して、どっぷりと10時間ほどプレイした感想を書きます。冒頭から脱線ーーレイルだけにな、ってやかましいわーーさせていただきますと、日本ファルコムの株主総会に毎年参加する謎の中国人が、原神の制作会社社員だったという話をどこかで読みました。PCエンジン版の初代英雄伝説(アグニージャ!)をくるったように周回ーーハイ・レスポンスの快作だったので、周回数だけなら月風魔伝を越えるかもしれないーーし、その後リリースされた風の伝説ザナドゥの1と2は私の中でかなり神格化されている作品です。そこからしばらくは疎遠となり、ひさしぶりに軌跡シリーズの零と碧をプレイして、老いた会社が老いたファンより細々と集金するための装置である「終わらない物語」のにおいを嗅ぎとり、離れてしまったユーザーでもあります。最近、ゲーマーとしての「老い」を実感したのは、原神のアンケートで生年月日を選択する項目に「1980年以前」の表記を見たときです。いまや昭和は我々にとっての明治くらいなんだなと、とても愉快な気分になったのを覚えています。本邦のロールプレイングゲーム、いわゆるJRPGの現在位置を赤裸々に示す作品としては、ソウルハッカーズ2が挙げられるでしょう。あらかじめプレイしておくと、本作と比してのフリーフォール級の落差を実感できると思います。

 長い前置きでしたが、崩スタ(天理スタミナラーメンの略称みてえ)は戦闘とマップをのぞくと、システム部分はほぼ原神のそれを踏襲しています(課金や育成まわりのギミックも同じ)。しかしながら、もっとも注目すべき点は戦闘とマップの仕様であり、まずもってこの令和の御代に、いまをときめくゲーム会社が、わざわざ古臭いターン制コマンドバトルを持ってきたのは、純粋な驚きだと言えるでしょう。ぜひ、ソウルハッカーズ2で最も作りこまれているリンゴたんの動きと比較してほしいのですが、「前進してなぐって、元の位置にバックジャンプ」をあざわらうかのように、本作では個体毎に違うモーションを与えられたキャラたちが、超絶的なカメラワークでギュンギュンと動きまくります。リリース直後にもかかわらず、すでに20体以上はいるプレイアブルキャラのどれもが、ハッカーズ主役チーム4体のうち、最も作りこまれているはずのリンゴたんをはるかに凌駕する仕上がりなのです(当然、戦闘だけでなく移動用のモデルも用意されている)。

 次にマップですが、細かくエリア毎に区切られているばかりか、エリアの終端を表すラインがご丁寧に空中へ明示されており、エリア間の移動にはロード時間が伴います。さらにジャンプの機能は実装されておらず、わずかの段差も徒歩で乗り越えることはできません。まるでどこぞのJRPGのようですけど、いいですか、原神のマップを作れる技術力の会社がね、これをシームレスで自由に上下へ動き回れるようにできないはずがないんですよ! リワードのひとつに「オープンじゃないワールド」って揶揄があるんですけど、本邦の技術力の無さから逆算された窮屈な仕様を面白がりながらも、コイツら「敬意をもって」わざと模倣してやがるんです! これを例えるなら、両手両足を縄でしばったフルチンのスイマーが全日本選手権に現れ、まったくふざけた泳法で全種目の日本記録を塗りかえていくようなもんですよ! しかも、それぞれで10秒以上を短縮しながら! 馬鹿にされてるならまだ戦いようもありますが、停滞したJRPGの「破れたズボンの膝に色のちがうパッチを当てる」がごとき貧乏くささを「尊敬」して、自らをダウングレードしてまで目線を下げて、わざわざ我々のレベルにまで「降りて」きてくれているんです! 原神のときは「まさか、負けるのか! このオレ様が!」とひどくうろたえる感じがありましたが、崩スタでは余裕に満ちた強者の手加減を目の当たりにして「ああ、俺たち、負けるんだなあ……」という脱力感にも似たあきらめを覚えます。

 半ば虚脱状態のまま続けますが、ゲーム導入部の印象としては、スレイヤーズ!の作者が書いていたSF作品(名前は忘れた)をなぜか思い出しました。そして、中国哲学を宇宙の成り立ちに敷衍した「神々と世界の謎」は、膨大なテキスト量で深い考察を許してくれます。さらに、星神たちの設定にはクトゥルフ神話やゴッドハンドの狂気を連想するものがあり、「1惑星1物語」の展開はデュマレスト・サーガを彷彿とさせます。これが軌跡シリーズなら、惑星ごとに作品が分割販売され、後から来た者たちが見たらとっちらかった順序に、追いかける気をなくすことでしょう。「いや、20作品あるけど、ホニャララ編だけでも面白いから!」と熱弁されても、いまさらメンドくさい古参からウザがらみされるためのニワカになる気は起きません。

 ワンパッケージでどの時期から参入しても混乱なくストーリーを追うことができ、潤沢な課金で制作費をまかないながらどんどん世界を拡張していくクリエイティブの永久機関とも呼ぶべきこの仕組みを、なぜ本邦において日本ファルコムあたりが構築できなかったのか、心の底から残念でなりません。もしかすると、最初期の哲学なき拙劣な課金ゲームーー「ボクたち、任天堂の倒し方を知ってますよ」ーーへの嫌悪感のせいで、それを自分たちの「芸術品」と合体させるという発想から遠ざけられてしまったことが原因なのでしょうか。そんな「あいのこ(ラブ・チャイルドの意)」には、家名を継がせられないと考えたのかもしれません。結局、我々はどの業界においても、たとえ滅びてゆくとしてさえ、我々の本性を形づくる「潔癖さ」と心中する他に道はないのでしょう。

 あと、古くからの読者は知っていると思いますが、小鳥猊下の誕生日は3月7日って設定なんですよねー。崩スタの「三月なのか」ってキャラ、え、あれれ、もしかしてそうなの? いやー、まいっちゃうなー、本邦の気難しい中年オタク層にテキストで原神をエヴァンゲルしたのは確かだけど、その功績がホヨバに認められたのかなー、こいつはとんだハニートラップだなー。正直、ガチャで引いたキャラのほうがぜんぜん強いんだけど、よーし、オジサン、なのチャンをご指名して最後まで育てちゃおうかナ! あッ、崩壊スターレイルの致命的な欠陥を唐突に思い出しました! それはこのキャラの一人称が「ウチ」なのに、語尾さがりで発音するところです! このジャリ、けっこうな頻度でウチウチ連発しよんねんけど、ぜえんぶ語尾さがりになっとうから、関西人のワイはごっつうイラつくねん! こんだけで、パーティから外したろか思うわ! 「ウチ」の発音は語尾あがりがフツウやろがい! 「ウチは日本いち不幸な少女や」やろがい! この件に関してはな、全セリフの再録を求めて徹底的にホヨバと戦っていくで!

 雑文「GENSHINとSTARRAIL(近況報告2023.5.3)」