猫を起こさないように
日: <span>2025年2月7日</span>
日: 2025年2月7日

漫画「メダリスト(12巻まで)」感想

 メダリスト、既刊12巻までをイッキ読みする。スケート漫画としては、銀のロマンティック以来なので、じつに30年ぶりの体験の更新です。ここまでの経緯をまず説明しておくと、アイドルマスターに登場する9歳(!)の女児を演ずる声優に作者が入れあげたあげく、彼女の趣味であるフィギュアスケートを題材にした漫画を企画して持ちこんだばかりか、主人公の小学生スケーターを同声優にピンポイントで当て書きしたという逸話を聞きおよび、「ロリコン男性作家、相当に気持ち悪いな……」と長らく手にとるのを敬遠していたのでした。それが、今期のアニメを3話まで見て、思わぬ好印象に続きが気になってしまい、密林の無限焚書で無料公開分を読んでなお熱がおさまらず、既刊全巻を一括購入して読破するにいたったのです。まずまちがいなく、この書き手はフラジャイルの作画担当と同じ系統の女性作家だと断言しておきます。女性であることを確信する理由は2つありまして、ひとつ目は大量の女子小中学生をこれでもかと投入して大開脚までさせながら、その描き方に性的なニュアンスがいっさい混入していないことです。ふたつ目は、女子の精神的な成長がキチンとていねいに描写されているところで、男性作家にこのレベルの解像度を期待することは、ほとんど不可能だと言っていいでしょう。なぜなら、多くの男性にとって女性とは、「処女」「妻」「母」という3つの類型におさまってしまうものだからです。狂信的なファンを呼びよせないよう短く言及すると、メダリストの対極にある作品は「咲-saki-」でして、すべてのキャラに作者の性的な視点がねっとりとまとわりつき、内面の成長を描けない分を異能力や語尾や胸囲やタコスなどの外形的付加のみで、差別化しているのです。

 あわてて話をもどしますと、本作を読んでいてなにより深く心に刺さったのは、司先生のキャラ造形でした。「だれにも見つけてもらえなかった」「だれにも導いてもらえなかった」過去の自分を、未来の原石に重ねあわせて手をさしのべようとする、「他者を通じた、自己の育てなおし」の様子が痛切に胸にせまって、気がつけばグシャグシャに泣いていました。それは、初代ロッキーでチャンスを手に入れた主人公へ老トレーナーが協力を持ちかけたところ、「オレは10年前にアンタに助けてほしかった! なんで、あのときオレを助けてくれなかったんだ!」と壁をなぐりながら号泣したのとたぶん同じ感情で、なんとなれば、現実では長い時間をかけて「見つけ、導き、助ける」側の見かけを手に入れていようとも、小鳥猊下サイドの心の奥底には「だれにも求めてもらえなかった」「だれにも愛してもらえなかった」という気持ちが、いつまでも消えずにくすぶっているからです。また、個人的に感心したのは、登場する小中学生の名前が持つリアリティで、クラスの女子の半数以上に”子”がついていた時代から、ゆうに30年は引きこもっている中高年男性にとっては「キラキラネーム(笑)」との認識なのでしょうが、こちらの名づけが本邦の主流になってひさしく、正しく令和の感覚にアップデートされた作品だなと思いました(名字までキラキラなのは、少々やりすぎですが……)。ただ、最新刊におけるストーリーの進め方はすこし気がかりで、年上スケーターのケガによる退場は、主人公に金メダルを取らせるための苦渋の選択だとしても、3月のライオンでいうところの「宗谷名人の人間部分の掘りさげ」に類する展開と、それにともなう「スケート人生で初めてのミス」は、はたして必要な挿話だったのでしょうか。ともあれ、今後は群像劇のサブシナリオで長期化させず、主人公のメインストーリーを強く太い軌跡で残しながら、正しい終わりに向かって滑走していってくれることを、切に”いのり”ます。

 あと、またぞろヨネヅのアホが出しゃばって本作のアニメに楽曲を提供してやがりますが、いよいよロード・オブ・ザ・リング3部作を経たあとの、ホビット3部作でのピーター・ジャクソンを彷彿とさせる、イヤな権威臭をはなつようになってきましたねえ。あのさあ、女子の成長譚であるメダリストの主題歌には、女性ボーカルのほうがはるかにフィットするだろうし、ぜったいに作者だって9歳女児役の声優に歌ってもらいたかったに決まってるじゃん! それを、国民的アニメ作家や国営放送との仕事を無敵の殴り棒としてふりまわして脅迫して、周囲の大人たちは作品のイメージにあうかどうかではなく、広報宣伝のみを重視したネームバリューへと膝を屈してしまった。グスグスと半泣きで抵抗をしめす作者を、編集部とか制作会社の人間が説得しにかかる様子がまざまざと脳裏に浮かび、暗澹たる気分になってきました。みなさんはぜひ、チョーシノリのヨネヅが描いたとふれこみのCDジャケット?の絵を、原作の表紙と比較してみてください。ロリコン男性から女児に向けられる性的ニュアンスに満ち満ちていて、背筋がうすら寒くなることうけあいですから!