ドラクエ2リメイクをプレイ中。せっかちなみなさまのために結論から申せば、制作会社にとって、ドラクエ3リメイクはHD-2Dのための習作で、こちらのほうが本命だったと思わせる出来になっております。3の印象が最悪だったので、ゲーム開始時点ではかなり批判的な視点で見ており、3段階の難易度とかリレミトとルーラの仕様とか、さんざん批判されたシステムをまったく変更しておらず、クリエイターのあまりの依怙地さには、あきれる気持ちが先に来ました。オリジナルにはない範囲物理のブッこわれ方もあいかわらずで、序盤は「チェーンクロス」「やいばのブーメラン」「いばらのムチ」をそれぞれ装備させ、決定ボタンを連打するだけで魔法いらずに戦闘が終了するため、「ほんとに、日本人はゲームを作るのが下手になったな……」とひとりごちながら、さっさとクリアしてしまおうと進行を早めたのです。ところが竜王の城あたりから、サマルトリアとムーンブルクの物理が通らなくなりはじめ、魔法でローレシアを援護しながら戦うという、ファミコン版のバトルへと質が変化してゆきます。中盤以降のボス戦は、スクルト、ルカニ、フバーハ、バイキルトなどの補助魔法を駆使した、じつにドラクエらしい持久戦に変じていて、「これができるなら、3リメイクからやっとけよ!」と思いました。広大なダンジョンにMPが枯渇し、買いこんだやくそうまでを使いつつ、ボス打倒に残すリソースを計算しながら、おそるおそる歩みを進めていくのは、まさにかつてのドラクエで経験した手ざわりになっています。よくよくふりかえれば、マップのサイズに比してエンカウント率が高すぎた問題は解消しているし、わざわざ「レベルアップ時にHPMP回復なし」のオプションを新設しながら、オフにするとかなり厳しいバランスに調整してきている。また、新規イベントが盛りだくさんなため、ガイドマーカーもオンにしておかないと、ストーリーを進めるのに支障が出るぐらいで、3リメイクをボロクソに言われたクリエイターが本来の発売日を延期してまで、中盤以降のゲームバランスをカリカリにチューニングし、批判をあびた要素をいっさい変更しないまま、新たにそこへ意味をあたえているのは、傲岸に腕組みして非虚業のプレイヤーたちを見下してくる感じで、「なんちゅう、なんちゅうプライドの高さや……」といい意味であきれました。
そして、なにより特筆すべきなのは、ドラクエ2リメイクの正体は、”あってなきがごとし”なオリジナルのストーリーをグシャグシャに換骨奪胎して大幅な加筆をくわえた、40年(!)越しの公式による同人誌だという点でしょう。昭和の時代におけるムーンブルクの王女のあつかいは、犬の習性が抜けずに四つんばいで放尿するなど、かなり性的なまなざしに満ちたネタっぽいものばかりでしたが、本作では「亡国の王女による、悲しみと憎しみの復讐劇」にフォーカスを置いていて、「言われてみれば、ドラクエ2ってムーンブルクの王女が主人公の物語だよな」とあらためて気づかされ、オールド・ファンは得心するあまり、数十年来つまっていたウロコが目からボロボロと落ちまくった次第です。彼女の旅を助けるスケさんカクさん(古ッ!)ですが、プレイヤー代理の終始無言なローレシアの王子に対して、ことあるごとに針小棒大にさわぎたてるサマルトリアの王子のキャラ造形はまんま我妻善逸だし、ムーンブルクの王女のそれもほぼほぼ胡蝶しのぶなので、「鬼滅のドラゴンクエスト」みたいな同人感は、ストーリーが進むほどに加速してゆきます。しかしながら、「すべての魔物は、殺します」とひとりで部屋をとびだしたあと、「この魔物を見逃したら、ムーンブルクの人たちにうらまれないかしら……?」と地面に落涙する彼女の感情の落差は、なに不自由なく育てられた者がその平穏な人生をうばわれた事実を痛いほどに表していて、ひさしぶりの「ドラクエ浪花節」が強く胸にせまりました。また、「朗読を前提に書かれていないセリフを読みあげられるのは、とても聞いていられない」とボイスをオフにしてプレイする宣言をした脚本家?のツイートにカチンときたのでしょう、本作ではサマルトリアの王女の正式加入(バレ)後ぐらいから、声優がしゃべることを前提とした口語調がどんどん入ってきて、逆にテキストで読んださいに違和感を生じるレベルになっています。
余談ながら、この妹、ハチャメチャに性格がカッとんでいて、たとえばメルキドを守護する一族の長男との応答で「いいえ」を選択すると、とたんにスッとんできたかと思えば、「なにやってんだよ! オマエだって勇者の末裔のくせに、呪文を使えねーじゃねーかよ! それを言ってはげましてやるのが、フツウだろーがよ!」みたいな罵倒をあびせてきたのは、ひかえめに言って最高でした(本作は「いいえ」を選んだときの展開でかなり遊んでいて、どれも楽しいです)。まだクリアにはいたっていない段階ーーロンダルキアの洞窟あたりーーでの推測を放言しておきますと、ローレシアの王子にセリフがあたえられていないのは、2の後日譚だとのウワサがあるドラクエ12への布石ではないでしょうか。だとすれば、ファンの期待がより高いはずの3と発売の順番を入れかえてきたのには、納得できます。ドラクエ2リメイク、原作をほぼ無視した完全オリジナル作品になっており、まったく意想外でしたが、3のリメイクに文句のあった人ほどオススメです! あと、ドラクエシリーズでいちばん好きな曲は、2で3人の仲間がそろったときのフィールド音楽だなと、あらためて感じました。