Dr. STONEを電子書籍でイッキ読みする。ここにいたる経緯は、みなさまご明察のとおり、DiabloIIへの耽溺にともなう”ながら見“で同作のアニメ版を流しはじめたところ、「地球人類が滅亡したあと、ひとり地上にとりのこされたら?」というFallout3由来でおなじみの個人的な妄想に対する、別の視点からのアンサーが提示されており、スッと作品世界に引きこまれたからです。声優の演技を聞きながら、リニアーにストーリーを追うのがまだるっこしくなり、物語が完結していることをなんども指さし確認しながら、密林で電書を一括購入しました。ここで、だれも知りたくないDiabloIIの進捗へと脱線しておきますと、平場におけるウォーロックのあまりの強さに、「まあ、いけるやろ(笑)」とナメた態度でウーバー・トリストラムの強化3悪魔へといどんだところ、もののみごとに返り討ちにあい、特大紫ポーションの備蓄と虎の子のレベル90台の経験値を、根こそぎ吐きだす結果となりました。そこで正気にかえり、肩をゴキゴキいわせながら「ひさしぶりにやってみるか、ディアブロ2ってやつをよ」などとひとりごちながら、クソはずれハイルーンであるところのChamを破格のトレードでLoとOhmにかえて、GriefとCall to Armsーー631でしたーーを作り、いまはリベンジのためのスマイター・パラディン育成にはげんでおります。
話をDr. STONEにもどしますと、本作は科学のすばらしさを啓蒙する正しい少年漫画になっていて、数だけはムダに多い氷河期世代相手の”海賊”商売ではなく、「もしも千空がアホだったら?」のミニコーナーを見てもわかるように、小学校高学年から中学生くらいの読者へ真摯に向きあって作られているのです。「科学とは、人類という種が総体として知恵を継承していく手段であり、個人の死は科学の終焉ではない」という描き方は充分に感動的で、若い世代がこれに共鳴すれば、世界はきっとより良い場所になるだろうと信じさせてくれます。そしてなにより、漫画がバツグンに上手い。週間連載だったとは信じられないほど、アニメ版の出来に不満が生じるほど、絵のクオリティからコマ割りから構図のケレン味にいたるまで、とにかく漫画が上手い。全巻をむさぼるように読み終えて、ひさしぶりに良い虚構体験をしたとの感慨にひたりつつ、本作の想定するターゲット層ではないがゆえの小さな不満点を書き残しておきましょう(また!)。まず、各章の最後における〆のバトルで「事前の準備がことごとく突破され、陥った大ピンチが主人公による関与の外側で解決する」展開が多く、この物語の主役は”科学”であると言いたいのでしょうけれど、わずかにカタルシスを減じているように感じました。また、ストーリーが進んで復活者が増え、科学知識が進展すればするほど、世界の描き方が悪い意味で漫画っぽくなってゆき、「数百人、数千人を遠隔からどう統治するのか?」という問いへの回答が郷土料理であったり、主人公チームの万能さがどんどんウソっぽくなっていくのです。
さらに、過去なんども指摘していることながら、霊長類最強の高校生も銃器にはかなわない設定なのに、低体重で細腕のモデル体型をした女子がタッパがあって筋肉質の男子と互角になぐりあえるのは、いにしえのウーマンリブが年月を経るうちに、いつしか男性の性癖へとすりかわっており、現実の女性をカンちがいによる不要の危険にさらす可能性さえあると思います。きわめつけは、さんざんに引っぱったラスボスの正体で、「人類には理解できない動機やオーバーテクノロジーは、宇宙の彼方からやってきた機械生命体だったからでした」というのは、ちょっと反則のように感じました。「ここまでを毎週たのしませてくれたんだから、最終回ぐらいつまらなくたっていいじゃないですか」を地で行く展開で、「連載初期の興奮を最高潮として、そこから若干さがった位置で物語が幕を閉じる」のは、120点が100点になっただけなのに、位置エネルギーによる不満を生じさせていて、もったいないなと思います(連載終了後の後日譚である最終巻の冒頭で、科学による積みあげがゼロにもどったとたん、すこし色あせていた面白さがギラギラとよみがえるのは、皮肉な答えあわせになってしまっている気がします)。そして、ロケットの打ち上げを科学技術の極致として描き、石化と治癒の理屈やタイムマシンの詳細な原理をごまかしているところは、当たりまえですが、あくまで人類の有する既存の科学技術の内側でしか作劇できないことを表していて、最近、ピーター・ウォイトの「ストリング理論は科学か」をぽつぽつ読みすすめていることとあいまって、強い閉塞感をおぼえてしまいました。
本書の内容を要約すると、1970年代を最後に人類の科学による世界理解は歩みを止めており、以後の半世紀にわたってストリングスなる数学的虚妄が科学界を政治で支配し続けている事実への告発です。2026年という昭和の人間にとっての超未来において、いまだ時空と重力を統合する理論は完成の気配さえなく、軌道エレベーターも月面基地も恒星間旅行も夢のまた夢、先人たちが営々と築きあげてきた科学知という名の真円の辺縁を、未知の外側へむけてプッシュし続ける姿勢は鳴りをひそめ、いまや人工知能なる非生命体に既知の内側を高速でクロールさせることに、莫大なリソースをつぎこんでいる。月面着陸の虚構を疑う態度を笑えないほど、もはや人類は宇宙という「最後のフロンティア」に無関心で、地球なる楕円の表皮において、おなじみの資源をめぐる既視感に満ちた争いに窮々とする始末。千空たちの冒険をめぐる高揚は、日進月歩に人類の世界理解が更新されていた1970年までの「科学万能の時代」に満ちていた空気に帯電していたのであり、悲しいことに、いまやそれは雲散霧消して影も形もありません。ともあれ、オタク第二世代に特有のシニカルな態度へ終始しながらも、後生おそるべし、若い世代がグローバルなんちゃらみたいな私立ブンケイのキラキラ虚飾学部に進学するのを阻止し、理系分野の本質的な魅力へといざなう格好の啓蒙書として、プロジェクト・ヘイル・メアリーに引き続き、nWoが自信をもって、Dr. STONEを全国津々浦々の少年少女へと強く推薦するものである。