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      <title>よい大人のnWo</title>
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         <title>リアル・スティール</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B005MH1KJ6/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
リアル・スティール
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B005MH1KJ6.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
ロッキー＋オーバー・ザ・トップ＋プラレス三四郎。え、そもそもロボット物である必然性が感じられないだって？　この大馬鹿野郎ッ！　それを言い出したら、二足歩行のロボットを本邦の大企業が大真面目に大枚はたいて作る客観的な整合性なんざ一ミリもねえよ！　結局、理系なんてのは論理でもなんでもねえ、ガンダム近辺のロボット群に呪われた連中の文学的感傷でできてんだよ！　言ってみりゃ、男のロマンなんだよ！　ともあれ、全国一千万の理系おたくa.k.a.超悪男子諸君にとって、必見の作品であることだけは間違いない！]]></description>
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         <pubDate>Fri, 18 May 2012 23:49:50 +0900</pubDate>
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         <title>the definitive SIMON and GARFUNKEL</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0000566K2/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
the definitive SIMON and GARFUNKEL
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B0000566K2.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
ただ鎮魂を願う心の静謐さを、いったい何に託せばいいだろう。あれは小学校に上がる前だったろうか。テレビの子ども向け番組から流れていた、透明な歌声を思い出す。意味もわからぬまま、ただ聞き入った。あの頃、幸福に、生きることに、何の条件も承認も必要なかった。幼少期の幸せな静けさと結びついたあのハーモニーこそが、鎮魂にふさわしい――ギャアーッ（左目を押さえて床を転げ回る）！　永く封印せし深奥の秘に共鳴し……忘却の彼方より来たりて我が懊悩を増幅させるッ……!!　其の深淵での逢瀬が記憶……慄然たる極寒との邂逅を、成熟せし我が魂縛へ魔術の如く齎す……當に……冬の散歩道……!!　何だ此の……懐かしくも疎ましい……禍々しく律動する、冥府の詩句は……ッ!!　　聞いているあいだずっと、額と両脇からネバネバした変な汗が出てきて止まらない！　どの歌詞もすごい中二病で、その病理のあり方が日本的なことに何より驚かされた！　そういえばポール・サイモンって、よく見るとなんか「まさる」って感じだしな！　「（舌たらずの声で）ねえねえ、あんちゃん！　きよしこの夜のバックに悲惨なニュースを流してみたらどうかな！」「（爆発した頭髪で）冴えてんな、まさる！　すげえ風刺がきいてるぜ！」　「（青鼻を垂らしながら）えへへ」　なんかもう、鎮魂とかどうでもよくなった！　鎮魂って、そういやチンコと音が似てるもんな！　（ヘビメタ風の衣装をした男がエレキギターをへし折りながら）アイ・アム・ア・ロオオォォォォック！]]></description>
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         <pubDate>Sat, 12 May 2012 12:07:01 +0900</pubDate>
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         <title>カイジ２</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0079F8XZ8/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
カイジ２
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B0079F8XZ8.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
たぶん、原作の展開を知らない人間が最も楽しめるでしょう。そして、私はその人間でした。あの、邦画のシナリオの出来を云々するのも野暮ですので、ひとつだけ言わせて下さい。胴元がルールと支払いに誠実過ぎます。]]></description>
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         <pubDate>Sun, 06 May 2012 23:30:18 +0900</pubDate>
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         <title>ミッション・インポッシブル４</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B007F5JJSM/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
ミッション・インポッシブル４
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B007F5JJSM.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
あれから一年、本邦にとって記念すべき今日、塩漬けの核弾頭よりも稼働中の原子炉がずっと危険であることがわかり、核技術の流出よりも原発へのテロがはるかに現実味を持つようになってしまった世界で、このフィクションは私たちにとってむしろ逆説的な批評性を帯びて迫って――こねえよ！　この毛唐ども、みじんも俺たちのことなんて考えてねえ！　エヴァ風に言うなら「私たちはいらないのよ！　イーサンだけがいればいいのよ！」であり、島本和彦風に言うなら「なぜ地上１３０階にサーバールームを作るのかって？　ハハハ、その方が盛り上がるじゃないか！」であり、某スイマー風に言うなら「ちくしょー、なんも考えられねー！」であり、小林秀雄風に言うなら「トム・クルーズのバカは疾走する。観客は追いつけない」である！　イケメンのバカ、うなるほどの富と名声を持ったハイパーバカによる、「とりあえず味は考えずに具材を全部入れてみたアクション闇鍋」がこの映画なのだ！　この時代にクレムリンを爆破してみようなんてプロットを思いついて、じっさい爆破してみるなんてもう頭が悪すぎる（褒めてます）！　どうでもいいけど、ゴーストプロトコルって何だろうね！　見終わったいま、そんな瑣末なこと本当にどうでもいいんだけどね！]]></description>
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         <pubDate>Sun, 06 May 2012 18:37:25 +0900</pubDate>
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         <title>ロック・ユー！</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B003JDVGTY/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
ロック・ユー！
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B003JDVGTY.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
「この世界でお前は勝てない。お前に勝てる世界などない」。プロレス+大リーグ+ロック+馬上試合。何度見てもグッと来る。そして何度見ても、私は鍛冶屋の娘と結婚する。]]></description>
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         <pubDate>Thu, 03 May 2012 22:17:27 +0900</pubDate>
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         <title>三銃士</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006ZTYSDK/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
三銃士
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B006ZTYSDK.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
飛空船の意味なし！　何も考えていない！　だから、何も考えなくていい！　ザッツ・エンターテイメント！]]></description>
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         <pubDate>Fri, 27 Apr 2012 21:13:40 +0900</pubDate>
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         <title>マネーボール</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006Y44WJ6/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
マネーボール
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B006Y44WJ6.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
弱いものが勝つためには、既存のルールを変えるしかない。実のところ、みんなそれはわかっている。ただ、何の権威もない、誰にも証明されていない新しいルールと添いとげ、心中する覚悟のある誰かを持つことが最も難しい。勝利は、リスクを最小限におさえることを最優先に考える官僚の仕儀から、はるか遠いところにある。]]></description>
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         <pubDate>Tue, 24 Apr 2012 20:46:15 +0900</pubDate>
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         <title>宇宙戦争</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000FBHTO4/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
宇宙戦争
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B000FBHTO4.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
母性は本能だが、父性は近代の婚姻制度が作り出した虚構に過ぎない。己がクズであることを自覚する父親は、きっと何か感じるところがあるだろう。そして、ダコタ・ファニングの演技がすべてのSFXを凌駕する。]]></description>
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         <pubDate>Sun, 08 Apr 2012 22:31:22 +0900</pubDate>
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         <title>ドラゴン・タトゥーの女</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B006U9D4U8/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
ドラゴン・タトゥーの女
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B006U9D4U8.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
横溝正史ばりに複雑な人物相関なのに、ほとんど謎解きに絡んでこなくて拍子抜けした。もちろん、なぜかエンドロールまでデビッド・リンチ監督作品だと思いこんでいた私の、身構えた視聴態度が主な理由であろう。あと、吹き替え版だったせいかリスベットのキャラ造形が黒い綾波レイにしか見えなくて困った。あれ……フェラとレイプのシーンを見た時……なんていうか……その……二次元愛好なんですが……フフ……勃起……しちゃいましてね……]]></description>
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         <pubDate>Sun, 01 Apr 2012 20:24:15 +0900</pubDate>
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         <title>あしたのジョー２</title>
         <description><![CDATA[<a href="http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0017P24F6/nwo08-22/ref=nosim" target="_blank">
あしたのジョー２
<br /><img src="http://images-jp.amazon.com/images/P/B0017P24F6.09.THUMBZZZ.jpg" alt="" /></a><br />
「泪橋に来る前のことは、よく思い出せねえんだ」。ぼくは日々をからっぽに生きていて、昨日のことさえよくわからない。空費した時間は、どこにも刻まれないまま消えていく。日々を八分の力でやり過ごすうち、いつしか目減りした自分が本当の自分になってしまった。どうやってここまで生きてきたのか、よく思い出せない。]]></description>
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         <pubDate>Fri, 23 Mar 2012 19:43:44 +0900</pubDate>
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         <title>ＭＭＧＦ！～見て、みごとなガテン系のファックよ！～（在庫駄駄余解消祈念C80漫遊記・中編）</title>
         <description><![CDATA[前回までのあらすじ：亀頭と包皮を結ぶ紐状の生体組織で、別名を陰茎小帯と言う。ボブは敏感なその部分を嫌がるマギーの口元へあてがった。「ウッ、むグッ」、キッと一文字に結ばれたピンクの唇をボブのうらすじが強引に割って――


　ミーがアスホールのイグジット（ロトン・ガールズにとってはエントランスでショウカ？lol）を引き締めると同時に、テーブル越しに立つ土気色をしたリビングデッドが、「なかいいですか？」と発話したのデス！ ミーは一瞬、ソー・コンフューズド、何を尋ねられているのかわからず、ひどく混乱してしまいマシタ！　言語には文化的なギャップによって、シンプルなワードがまったく別の意味を持ってしまうケースがありマス！　フォー・イグザンポー、例えばエクストリーム一般的な「持つ」という他動詞さえ、ジャパニーズとイングリッシュの間には違いがあるのデス！　オブジェクトをラック、目的語を欠落させて自動詞的に用いた場合がソレに当たりマス！　ジャパニーズで「持ってる」と表現すれば、それは運か才能を持っていることを意味しマス！　オン・ジ・アザー・ハンド、一方イングリッシュで「ドゥー・ユー・ハブ？」と表現すれば、それはレリジャス、信仰の有無を訊いているのデス！　異国の地の、さらにコミケトーという異境では「なかいいですか？」という単純な問いかけにイエスと答えることが、実は肛門性愛へのアグリーメント、合意を表してしまう場合さえテイク・イントゥ・コンシダレーション、考慮に入れなくてはなりマセン！　ミーのチークに緊張のあまり一筋のスウェット、汗が伝い落ちマス！　小売業のセラーがバイヤーにここまで追い詰められるなんて、ステイツでは考えられない事態デス！
　「カスタマー・イズ・ゴッド」が持つ真の意味をミーがペインフルに体感していると、隣にスタンドしていたサメンが「ア、ドゾドゾー、遠慮ナク見テッテ下サーイ」と陽気に返答しマシタ！　そのアブノーマルなまでのインギンさは先ほどまでミーにスクール・カーストの存在をリマインド・オブさせていたのと同一人物とは思われないほどデス！　ギークス風にエクスプレスするなら、「コイツら、自在にインギン力を変化させやがる」デス！
　サメンの言葉に応じて、眼前の土気色リビングデッドはゾンビらしからぬクイックネスで土人誌のパイルから一冊を取り上げると、しばしパラパラとコンテンツを確認しマシタ！　アンドゼン、「ありがとうございました」 の言葉とともに、元のパイル上へ無造作に土人誌をスロー・バック、投げ戻したのデス！
　エクストリームリー・ショックト、ミーはデルビッシュ有、この悪魔的な慣習にひどく衝撃を受けマシタ！　ミーは土人誌のオーサー、作者がファンへダイレクトに販売を行うという手弁当感がコミケトーの魅力だと考えていたのデスガ、いまミーの眼前で生じたフェノメノン、現象にはミーが想像していたようなハートフルさは少しも含まれていませんデシタ！　作り手のすぐ目の前で作品を品定めした後、その購入を好きにリジェクトできるというシステムは、ミーが奈良のカントリー・サイドで日々エクスペリエンスしているジャパニーズのバーチュ、美徳とはほど遠いものデス！　フォー・インスタンス、例えるならばストリートにスタンディングする売女に、「膣内（なか）いいですか？」とアスクした後、背後で休憩中のオットマンがコリアのセクスペリアへしきりとするフィンガー・ジェスチャーで公衆の面前にその膣口をクパチーノしてからやはり買春しないことを大声で宣言するような、人倫を外れた背徳の仕組みデス！
　「他人のために最も怒れ」――ミーのファーザーは家訓としてそう言い続けてきマシタ！　このときミーは、土人作家に与えられる侮辱に対して行き場の無い怒りを感じていたのデス！　ところが義憤にかられるミーの隣でサメンはヘラヘラと愛想をふりまいていマス！　ミドル・イーストではこのくらいのことは屈辱でも何でもないのかもしれマセン！　絶え間なく噴出するオイルに比べれば、しぼり出す妄想の価値など何ほどでも無いと思っているのかもしれマセン！　イフ・ユー・ゴー・イントゥ・ゴー・オベイ・ゴー、郷に入っては郷に従え、ミーはとっさにジャパニーズ特有のベイグネスに満ちたスマイルを浮かべマシタ！　その瞬間、これまでの三十余年で見てきたジャパニーズの曖昧な微笑みの裏にはサポージング、もしかしすると活火山のような憤怒があったのではないかと思い至って戦慄を覚えたのデス！
　ミーのインサイドでうずまく葛藤をよそに、土人誌のパイルはその高さをデクリースさせてゆきマス！　アット・ラスト、ついにリカの土人誌のラスト・イシュー、最後の一冊が売れマシタ！　ワオーッ！　ソールド・アウト、ソールド・アウトデース！　ミーは病室で言を左右し続けたリカがファイナリー、「あの……わたしは１０さつくらいって言ったんだけど……ダコバちゃんが……ぜったいだいじょうぶだからって……あの……５００さつ……」と大粒の涙をポロポロと流して告白したのを思い出していマシタ！
　「リカ、ダイジョーブ！　ぜんぶミーにまかせるネー！　ガイシ（骸死）系の営業部長の肩書きはダテじゃないヨー！」
　ミーの空約束に泣き笑いでうなずいたリカの消え入りそうな表情！　リカの墓前にようやくいい報告ができマース！
　「オイ、ボサット突立ッテネエデ、ホンヲ追加シネエカ！　マダ何箱モアルンダ！　早ク積マネエト、客ガ逃ゲチマウゼ！」
　両手を突き上げてディライトネス、歓喜の中にいるミーの背中へ険しい声が飛びマシタ！　サメンがカッターで切り裂いた大きな箱の中には、みっしりとリカの土人誌が詰め込まれていたのデス！　ダヨネー！　ミーの鼻段ボールが湿気を増し、一瞬のデプレッションがとばりのように心へ降りかけマシタガ、ミーは一流選手が強い自己暗示によって失敗をノーマルの状態としてとらえるメンタル・スイッチング技術を利用しマシタ！　ダヨネー、ミーやリカみたいにネットでの声は大きいくせにリアルではチキンで何の知名度も無い連中の土人誌が、いきなり５００冊も売れるワケないヨネー！　鼻段ボールは乾き、両のマナコは濡れ、ミーはたちまち平常心を取り戻していマシタ！
<a href="http://newworldorder.jp/images/IMG_1613.jpg" class="highslide" onclick="return hs.expand(this)" onkeypress="return hs.expand(this)"><img alt="IMG_1613.jpg" src="http://newworldorder.jp/images/IMG_1613-thumb.jpg" width="332" height="247" align="left" /></a>
　ソウソウ！　ミーのコミケトー来訪は、本社へのジャパニーズ・カルチャーに関するレポートを兼ねていたのデス！　土人誌の販売はゲストとしての片手間に過ぎないのデシタ！　ケアフリー、注意深く観察を重ねると土人誌がうず高く積まれたテーブルには大きなビニル袋が貼りつけられていマス！　リビングデッドが支払った紙幣はゴミクズをダストビンへするときと同じ所作で次々に放り込まれていきマス！　ステイツにいた頃ならその様子を見ても何も感じなかったデショウ！　それはジャパン在住歴三十余年でなければ感じなかったようなかすかな違和感デシタ！　サドンリー、突然ミーのインサイド・ブレイン、脳内にいる栗色の髪をした新聞記者の女性が寿司屋のカウンターでいきおいよく立ち上がり、「お金なのにもらって捨てる動作が汚らしいのよ！」とシャウトし、ミーの違和感はアイスメルティング、氷解しマシタ！　こんなふうにマネーが扱われるのを見たのは釜ヶ崎のチンチロ賭場でコンビニ袋へ紙くずのように丸められた札が詰め込まれるのを見たとき以来デス！
　「勝負が終わるまでァ、こんなナァ鼻ッ紙でもネェのサ」
　ミーは勝ち頭の労務者が酒焼けした鼻を手のひらですすりながらボヤく場面をまざまざと思いだしていマシタ！　ジャパンではアニメはシーズン毎に大量生産されマス！　それは本当にサプライジングなクアンティティで生産され、この国ではアニメは湯水以下の価値でマーケットに供給され続けるのデス！　ジャパニーズのブルーワーカーにとってアニメは日常の退屈をまぎらわすための、ハシシより安価で手軽なドラッグの一種なのデス！　ジャパンの土人誌オーサーたちは無数のアニメからそのシーズンのヘゲモニー・アニメ（訳者註：ヘゲモニーとは覇権の意味だが、アニメを修飾する語としては不適切。誤字か？）がどれになるかをチョイスしマス！　そのチョイス次第で土人誌の売上は一桁ほど変わってくるのデス！　土人誌オーサーたちにとって土人誌メイクは、釜ヶ崎の労務者と同じギャンブルなのかもしれマセン！　だとすれば、売上の確定するコミケ三日目の終了時まではマネーを紙クズのように扱うのは至極当然と言えマース！
　サドンリー、ミーは土人誌のプライス設定が五百円刻みであることをファインドしマシタ！　ジャパンは生活必需品にまでタックスを課すことで有名なエコノミック・アニマル・ガバメントを有していマス！　フォリナーにとっては、コンビニでスモール・チェンジを要求されるのは実にイリテイティング、イライラさせられる体験デス！　土人誌のコンサンプション・タックスはどこで課されるのデショウカ？
　「ヘイ、サメン！　土人誌のタックスの仕組みはどうなっていマスカ？　それともコミケはエアポートのようにデューティ・フリーなのデスカ？」
　ミーが持ち前のボトムレス、底抜けな素朴さで尋ねると、とたんにサメンは満面の笑顔を浮かべマシタ！　次の瞬間、眉間で火花がスパークし、ミーの意識はダークネスへとフォールしていったのデス！　
　テン・ミニッツ・レイター、鼻に血のにじんだティッシュを挿し込み、すべての疑問をオブリビオン、忘却の彼方へと消し去ったミーの元気な青タン姿がそこにありマシタ！
　疑問を封じるというのはブレイン・ウォッシュのファースト・ステップ、第一歩デス！　ミーはいまや１９８４年のようなマナコで売り子ワークへ従事していマシタ！
　「ヘイ、テメエニ客ガ来テルゼ」
　苦虫を噛み潰したようなフェイスでサメンがミーに言いマス！　まるで日雇い労働者にトイレ休憩さえやりたくない現場監督みたいデス！　ロトン・ガールズの間へ身をねじこんでブースの外へ出ると、そこにはニット帽を目深にウェアした青年が思いつめた表情でスタンディングしていマシタ！
　「小鳥猊下ですよね！　ぼくです、ポロリです！」
　フー・アー・ユー？　バット、ザ・モーメント・ヒー・セッド、言うや否や、青年は抱きつかんばかりのディスタンスにまで間合いを詰めてきマシタ！　ステイツやヨーロッパに在住する狩猟ピープルは他人と世界に対して深い猜疑心を抱いていマス！　初対面での過剰になれなれしいビヘイビアーはジャパニーズ特有で、それは基本的に他人と世界が自分に危害を加えないことを信頼する農耕ピープルのものデス！　ミーはたちまち警戒心をマキシマム・レベルにインクリースさせマス！
　エスペシャリー、特にミーの出身であるステイツでは、パブリック・プレイスでニット帽をかぶったりマスクをしたりするのは、心に後ろ暗い部分を持っていることの表明、変質者の証デス！　公然とニット帽をかぶりマスクをするのは、ステイツではマイケル・ジャクソンくらいしかいマセン！
　「本当に感激です、猊下とお会いできて」
　クネクネと両腕をもみしぼりながら熱狂に目を潤ませるポロリの様子は、インギンな語り口とあいまって、ノンケでも喰っちまう、決してヘテロではない感じを濃く醸しだしていマス！　バット、セクシャルなテンデンシーだけではない、メンタルに潜むディズィーズを、ミーはこの青年のうちに見出していマシタ！
　「オーッ、イグザクトリー、その通りヨー！　ミーが小鳥猊下ネー！」
　ミーは内面に生じたさざなみをハイドするスマイルを浮かべて大げさに青年の問いかけを肯定しマシタ！　トゥ・テル・ザ・トゥルース、小鳥猊下はミーとリカとのユニット名なのでいささかアキュレイシー、正確さをラックした返答デシタガ、この種のメンタルヘルス青年はいったん思い込んだ情報を外部からコレクトされると途端にアプセット、逆上するという傾向がありマス！　ミーは適当にあいづちをうつことで穏便にこの場を切り抜けることにしマシタ！　バット、メンタルポロリはミーにアクセプトされたと思ったのか、とたんに饒舌に語り始めマシタ！
　「猊下の文章すごい好きなんですけど、今回のMMGF!ですか、あれはぜんぜん感心しなかったな。なんか説明がくどくて、八十年代のラノベみたいで。もっともっと説明を減らさなくちゃ。物語なんだから」
　同心円状のクレイジーを記号化した目で一方的にまくしたてながら、メンタルポロリはじりじりとミーとの間合いを詰めてきマシタ！　それぞれの民族は、適正な文化的距離というものを持っていマス！　どこまで接近されると不安感や不快感をいだくかというのは、イーチ・カルチャー、文化ごとに異なっているのデス！　ジェネラリー・スピーキング、一般的に言って北米出身のミーは日本出身のメンタルポロリより近い位置までのアプローチをアラウ、許容できるはずデス！　ハウエバー、メンタルポロリのアプローチはミーを不安にさせるほど近かったのデス！
　不安感に耐えかねてミーがわずかに下がると、メンタルポロリはミーが下がった分だけ間合いを詰めてきマス！　ミーは長大なコリダー、廊下をラテン民族に握手を求められた北欧民族が延々とリトリート、後退していくというあのジョークを思い出していマシタ！　ファイナリー、気がつけばミーは壁ぎわへと追いつめられていマシタ！　メンタルポロリはスティル、まだじりじりと間合いを詰めることをやめマセン！
　「あ、でもこないだのオフレポはすごい面白かったです。ジュブナイルやるなら、あの文体で書けばいいのに。なんでああいうふうに書かないんですか」
　内容のルードさを除けば穏やかな語り口デスガ、狂気と正気の間にあるのはア・シート・オブ・ペイパーだと言いマス！　ミーのアスホールが恐怖にきゅっとシュリンクしマシタ！　北米出身のビッグなミーが、日本出身のスモールゲイ（訳者註：ガイの誤字か？）に追いつめられ、いまや貞操の危機さえ感じているのデス！
　「あの、小鳥猊下でいらっしゃいますか？」
　ミーの危機をレスキューしたのは、やはりインギンな口調の声かけデシタ！　中肉中背でグラッスィーズをウェアしたその男は、ティピカルなジャパニーズビジネスマンといった様子デス！　カンパニーにエンプロイされているという事実は一定のサニティを保証しマス！　ミーは不自然にならないよう注意しながらメンタルポロリをかわして、ビジネスマンにシェイクハンドの右手を差し出しマシタ！
　「オー、イエス！　アイアムゲイカコトリ、ネー！　ウェルカム・トゥ・マイブース！」
　ジャパン在住暦三十余年のミーはフルーエントなイングリッシュでリプライしながらネームカードを取り出しマス！
　「わ、わたくし、キムラと申します。えっと、あの、そ、そうだったんですか」
　アルファベットの並んだネームカードとミーの鼻段ボールへ交互に視線をやりながら、キムラはあきらかな挙動不審のステイトに陥っていきマシタ！　知ってマス、これ知ってマース！　ジャパニーズに特有のフォリナー、外人に対するこのレスポンスは実は珍しいことではありマセン！　ワールド・ウォー・トゥーで連合軍へノー・パーフェクト・スキン、完膚なきまでにたたきのめされてからこちら、ジャパンは深刻なフォリナー・フォビア、ガイジン恐怖症に罹患しているのデス！　エンド・オブ・ウォーからモアザン半世紀、ノウ、時間が経過すればするほどオールモスト遺伝的な情報としてジャパニーズのインサイドにフォリナー・フォビアは書き込まれていっているようデス！　そのモスト典型的な症状が、いまのキムラが見せている状態デス！　ゴールデン・ヘアー・グリーン・アイのイングリッシュ・ユーザーであるミーに、理由もなくあからさまな気後れを表していマス！　もはやこれは高所やコックローチへの恐怖にも似て、本能のレベルにまで昇華されていると言っても過言ではないデショウ！　アンド、ジャパニーズのこのフォビアはジャパンに学歴も能力も低いフォリナーがライク・モス、蛾のように集まってくる理由にもなっていマス！　なぜって、マザー・タン、母国語の読み書きができるだけで現人神のように崇められ、本国で従事する単純労働よりはるかにましなペイメントが期待できるカラデス！　ジャパンは実のところ、不良ガイジンの格好のプール、溜まり場になっていマス！　ジャパニーズだけがそれに気づいていマセン！　オフ・コース、ミーはエグゼクティブなので違いますヨー！
　「ヘーイ、キムラ！　ウェイク・アップ！　ソレはジョーク名刺ネー！」
　フォリナー・フォビアに思考を奪われた状態になっているキムラの目の前でミーは親指と人差し指を数回スナップさせマシタ！　イン・ファクト、キムラに渡したネームカードはジャパンの商習慣にあわせたカムフラージュ、記載された情報はすべてデタラメなものデス！　ステイツ生まれでパリ育ちのミーは、コミケトーのような反社会的プレイスでマイセルフのプライベート・インフォメーションを開示するほどピース・ボケしてはいないのデス！　路上でチュニジアンに話しかけられてもインギンな返答をしながらも決して足は止めないといったような生得の警戒心、ワールドへのディープな猜疑心を処世のネセシティ、必須として持ちあわせているのデス！
　ハウエバー、ミーのような毛唐ピープルに特有のディフェンシブなスマイルも、ベーシカリー異質の存在しないジャパニーズ・カルチャーで生育してきたキムラにとって、緊張をメルトさせるに充分なものだったようデス！　キムラはオールレディ、すでにリカの土人誌を購入しており、ミーは会話の糸口として感想を尋ねることにしマシタ！　ミーはそれをすぐに後悔することになりマス！　なぜなら――
　木村裕之は私の問いかけに対して、購入したばかりなのでまだ読んでいないと答えたからだ。今回の同人誌はネットで大部分を先行して公開し、その完結編を収録するという手順を経ている。初めての同人誌販売であるから、少しでも売上を伸ばしたいという苦肉の策だ。その旨を伝え、さらに木村裕之に問い詰めると、わざとらしくページを繰りながら「え」とか「あ」とか母音を繰り返すだけの状態になった。夏のコミケを目指して一月から更新を行なっていたから、木村裕之は少なくとも半年は私のホームページを閲覧していない計算になる。十年来のファンと称し、わざわざコミケのブースに足を運ぼうと思う人間でさえ、こうなのだ。最も熱心なファン層でさえ、この程度の執着なのだ。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。いつまで経っても商業に回収されない最古参のテキストサイト運営者が、完全な持ち出しで苦手分野に媚びた同人誌を作成したところで、彼が望む深さの受け手は世界中のどこにもいないのだ――
　オオオオオップス！　ワーニング、ワーニング！　我、まさにフォール・イントゥ・デプレッションせんとス！　コミケトーはフル・オブ・トラップ、罠がいっぱいデス！
　「ヘーイ、ポロリー、キムラハヒドイヤツネー！　ナントカ言ッテヤッテヨー！」
　深刻なアンガーをジョークにまぎらわせようとして話をふると、ミーとキムラのチアフル・トークの横でメンタルポロリはそわそわと、あからさまに挙動不審のステイトに陥っていマシタ！
　「ヘーイ、ポロリサーン、ドウシタノ？　顔色悪イヨ？」
　ミーのジェントルな声かけにメンタルポロリはビクリと肩を震わせると、深夜の空き地でのレイプ未遂を通行人にファインドされたような顔をしマシタ！　「じ、じゃあ、ボクはこのへんで」と小声の早口で言い、さっきまでの執拗なインファイトぶりはどこへやら、アウトボクサーのステップで会場の人ごみへまぎれ去っていこうとしマス！
　ホワット・ア・カワード！　これはジャパニーズに特有の神経症、タイジン・キョウフショウ・シンプトムの表れデショウカ！　ミーは持ち前のヒロイック、英雄的な気質を前面にプッシュして、メンタルポロリを引き止めると、ふたりにセルフ・イントロデュースをうながしマシタ！
　「ヘイ、ポロリ、キムラ！　キムラ、ポロリ！」
　ミーのジェネラスなスマイルにうながされて、ふたりはようやく鏡あわせのように後頭部へ手をやりながら互いに会釈をしマシタ！　人間関係こそが仕事にとって最大のキャピタル、資本であることをモットーとするミーはその様子にグラティフィケーション、強い満足感を得ていマシタ！　バット、このときのディシィジョン、決断をミーは後になって死ぬほどにレグレット、後悔することになるのデス！　なぜなら――
　後日、仲介者である私を抜きにして、この二人が急速に親交を深める様をツイッター上で発見することになるからだ。二人で飲みに行き、すっかり意気投合したらしい。おまけに、互いのビジネスにとって互いが有益な関係であることを確認したようだ。もちろんコミケ後、この二人から私への音信は全く途絶えていた。私はそのやりとりを半ば呆然と眺めながら、分厚いガラス越しにヒロインが悪漢にレイプされるのを見せつけられている主人公のような気持ちになった。エッフェル塔を見ながらのファック・シルブプレにチュニジア人が乱入し、下半身を露出した私を差し置いてアルジェリア人とよろしく始めてしまったのを指をくわえて眺めるような感じ。正に、慟哭ゲーである。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが――
　ウオァァァァァッ！　レポートのくせにクロノロジカル・オーダー、時系列がめちゃくちゃデス！　そんな未来のことを現在のミーが知る由もありマセン！　イフ知っていたらいま気弱げに会釈を交わすふたりの後頭部をわしづかみにして二つの頭が一つになるほど打ちつけた後、持ち前の体格を利用した地獄レスリングで金輪際アリアケでコミケトーが開催できなくなるほどの陰惨な流血ショーを演じたに違いありマセンカラ！
　ふたりが作成したという土人ソフト（訳者註：softの表記。土人誌の一種か）をスーベニア、みやげに受け取りながら、このときのミーの胸中はブッディズムのハイプリーストほどかくやというほどに穏やかデシタ！
　グリーティングを済ませた後も二人はサプライジングリー寡弁で、ミーの提供するトピックが少しもデベロップしマセン！　これはさらなるアイスブレイキングが必要デス！　インファントとさえ小一時間はカンバセーションを継続できるコミュニケーション力を使って、ミーは場をウォームしていきマス！　人と人との間に通底するのは不信だと考えているミーのようなフォリナーが、人と人との間に通底するのは信頼だと考えているジャパニーズより、こういった際のスキルに長けているのは実に示唆的デスネ！
　グラデュアリー、次第に緊張がほどけると、二人ともミーのことを絶賛しはじめマシタ！　アンド、どちらがより多く小鳥猊下を褒め称えることができるかのコンテストの如き様相を場は呈していきマス！　知らぬがブッダ、やがて訪れる未来を未だ知らない愚かなミーは、まんざらでもないとスモール・ノーズ、小鼻を膨らませて悦に入っていたのデス！
　二人に関する断片化したインフォメーションをミーの高機能ブレインでデフラグしたところ、ポロリは年齢制限の必要なダウンロード専売ゲームのシナリオを、キムラはソーシャル・ゲーム（奇妙なネーミングデス！　ソーシャル・ウィンドウ？lol）の製作をプロフェッション、生業にしているとのことデス！　オーッ、これはリカを売り込むチャンスデース！　キムラサーン、ポロリサーン、ユーたちがスロートからハンドが出るほど欲しがっている人材をミーは知っているネー！
　「え、いや、それはちょっと」
　先ほどまでの調子のいいほめ殺しぶりはどこへやら、キムラはとたんに口ごもりマシタ！　アンドゼン、メンタルポロリが目深にかぶったニット帽の下からジットリとミーを見上げながら、唇の端を歪めて言いマシタ！
　「いや、そこはほら、わかりましょうよ。キムラさん、困ってるじゃないですか。仕事なんだから、やっぱり実績が無い人にはお願いしにくいですよ」
　アウッ、ポロリのインギンな低姿勢はオール子羊のパフォーマンスだったのデス！　その表情には、既得権を持つ者の優越が隠しようもなくにじんでいマシタ！　先ほどまでのぎくしゃくとした関係はどこへやら、キムラとポロリは互いに顔を見あわせてニヤリと、長年の共犯者のスマイルを笑ったのデス！
　オーッ、ジャパニーズ・コマーシャル・カスタム、日本の商習慣は文筆のようなエリアにまで及んでいたのデス！　ミーはデザインのフィールドに関わるガイシ（骸死）系企業にいマスガ、過去の実績の有無がデザイナーの採用に最も大きく影響を与える日本の商習慣がリセッション、不況によりエンフォースされて新人の食いこむ隙間が無くなっているのデス！　実績によるリスクの回避というエントリー・バリアー、参入障壁がデザイナーの平均年齢を高齢化させた結果、既得権の維持がいまや業界そのもののシュリンクへとつながっていマス！　シリアスな不況による相対的な発注量のリダクションが、最もクリエイティブの必要とされるはずのフィールドでカンパニーとそのデザイナーたちにビューロクラティック、官僚的なふるまいをさせている状況に、営業担当のミーはいささかの滑稽さを感じていたところデシタ！
　アンドゼン、高い識字率を誇るジャパンにおいては同じ理由がファー・レス・クリエイティブな文筆産業に従事する者たちにさえ、アンコンシャス、無意識のうちに官僚的なアグリー・スマイルを浮かべさせているのデス！　高度成長のみを前提にしてきた日本経済の歪みを目の当たりにし、そのダーク・アビス、薄暗い深淵にミーは心底からスケアード、ゾッとさせられたのデシタ！
　ミーはサドンリー、突然ふたりにフェアウェルを告げなければならない気分になりマシタ！　オフ・コース、ブース越しにミーたちへ向けられるサメンの視線が中東でテラーのプランニングをしていたときのように険しくなり始めたこととは全く関係がありマセン！　ミーに対する先ほどまでの陰湿な共謀ぶりはどこへやら、ミーとのカンバセーションが終わってしまうことを二人はひどく残念がりマシタ！　ポロリが熱に浮かされたように言いマス！
　「ボク、実家が関西なんです。猊下も関西に住んでらっしゃるんですよね。年内は仕事で難しいですけど、年明けに帰省する予定なんで、そのときは必ず連絡します！」
　「オーッ、モチロンネー！　マタ会エルノヲ楽シミニシテルヨー！」
　イメディエットリー、即座にミーはその申し出を快諾しマシタ！　ネット上では気難しいキャラ作りデスガ、その様をフィクショナル・ダイアリー、虚構日記と称しているのだからリアルのミーが話し好きで気さくなパーソナリティであることは容易に推測できるデショウ！　このとき、ミーは求められる快楽にすっかり上機嫌デシタ！　ビコーズ、この段階では桜が散り始める時期になってもアポイントどころか連絡のひとつも無いなんて思いもよらなかったカラデス！
　ポロリに負けじと、リーマンヘアーのキムラが新人研修で秋葉原の通行人に自己紹介をしていたときのようなシャウトをしマス！
　「必ず感想書きますから！　必ず！」
　この男、失地を挽回しようと必死デース！　コミケトー終了からワン・ウィーク・アフター、サラリーマンらしいデッドラインへの誠実さでキムラはリカの土人誌の感想を送ってきマシタ！　この男のビジネスが成功することをミーは確信していマス！　リーセントリー、ツイッターをななめ読みするに、最近のキムラはシェアハウスとやらにハマッているようデス！　独身のヤングマンが集まり、地縁的つながりのロストしたアーバンシティで新たなコミュニティをクリエイトする試みデス！　ハウエバー、それを読んだとき、ミーのヘッドにはクエスチョンマークが乱舞しマシタ！　婚姻と育児を前提とせずにそれは持続的なコミュニティと呼べるのデショウカ？　宗教を前提としないコミュニティにはジャパン在住歴三十余年でようやく慣れたつもりデシタガ、あいかわらずジャパニーズ・カルチャーは世界の最先端を独走していマスネ！


　ブースに戻ったミーがシット暑いブースで土人誌をリビングデッドに手渡すライン工に再び従事していると「オイ、マタオマエニ客ダ」、サメンが実に苦々しげな表情を浮かべて、ブースの外へ出るようミーをアゴで促しマシタ！　ゲストとして来場したはずなのにサメンはミーのことを時間給のレイバー、労働者としてとらえ始めているようデス！　ミーをブースの外へやることで時間あたりの労働対価がインクリースすると本気で考えているキャピタリスト、資本家のように見えマシタ！
　ミーは生来のオプティミストなので先ほどの憂鬱な自称ファンどもとのやりとりはオールレディ意識のアウトサイドにあり、オールモストうきうきとした気持ちデシタ！　ガイシ（骸死）系企業の営業部長であるミーは、人と会って話をすることがスリー・ミールズ・ア・デイ、三度の飯より大好きなのデス！　イン・アディション、リカのファンには女性が多いと聞いていマシタ！　野郎が二回も続いたのデス！　スタティスティクス、統計的に判断して、今度こそ女性に違いありマセン！
　シュア・イナフ、まるで白魚で作った魚肉ソーセージのような指にリカの土人誌を抱えて立っていたのは、はたしてジャパン・ギークスの完全なる中央値で形成されたティピカルなおたく野郎デシタ！　シィット、アゲイン！　ミーは心の底からのディスアポイントメントを完全にシール、秘し隠して「アー、ヨク来テクレマシタネー、アリガトー、スゴイウレシイナー、ヨロシクネー」と張りのあるバリトンボイスで歓待しマシタ！
　「いやー、これは思いつかなかったなー。すごいデブの中年おたくか、すごい引きこもりのウラナリか、すごい深窓の美少女かのどれかとは思ってたけど、こんな人を殴りそうなタイプだとは夢にも思わなかったなー」
　視聴中のアニメをタイムラインで実況するときのような、出すべきではない心の声をあらわにしてそのギークは自己完結的に発話しマシタ！　エスペシャリー、美少女の下りでは言いながら自分の言葉に失笑しやがったのデス！　ミーは表面上、あくまでポライトネスをキープしましたが、こめかみには血管のクロスが青く浮かんでいたはずデス！
　「あ、いや、わたしですか。ゴトウと申します。いやー、それにしてもほんと意外だったなー、これは」
　そう、このギークスのティピカル中央値こそあの、独身おたくの自虐ネタで一世を風靡し、いまや数千万のアクセス数を叩きだす有名人気ホームページの管理人なのデス！　ミーはシェイクハンドのために右手を差し出しながら、「十年前、ホームページを開設したばかりのユーからリンクの依頼をされたことをリメンバーしてマス！　あれをアクセプトしなかったのは、ミーのネット人生の中でも最大のリグレットのひとつネー！」　努めて陽気な社交辞令として発話したつもりデシタ！　しかし――
　いったん口にすると改めて自分がそのことをひどく後悔している事実に気付かされてしまった。聞けば、ゴトウ氏はパソコン関連の商業誌に愉快なおたく４コマ漫画を連載しており、近々単行本化される見込みだと言う。それに引き換え、我が身がひねり出す文章は未だに一文にもならない、誰からも顧みられない、ネット上のアーカイブにのみしんしんと蓄積されていくクラップに過ぎないのだ。
　あのとき、この男と相互リンクの関係を築いておきさえすれば、こんな惨めな現在ではなかったかもしれないのに！　深刻な後悔が後から後からやってきて、私のひざがしらをふるわせた。
　「いやー、あの頃のテキストサイトの管理人たち、みんな有名になっちゃいましたからねー。☓☓☓さんとか、○○○さんとか……」
　そう、一見は平等な参加を約束しておきながら、本当に才覚のある者たちはネットの外から見出され、あるいは自分の力でテキストサイトという過渡期的なカテゴリを離れていった。
　この十年というもの、私は現実での立場を作るために時間を使いすぎた。小鳥猊下という名前のもう一人の私は、日々の生活の中でより重要ではない一隅へ追いやられ、その存在を希薄化していった。
　自分のことを「透明な存在」と評したのは、いったい誰だったろう。いま、小鳥猊下としてここに立っている私は、本当に何者でもない、透明な存在だった。
　「いやー、ぼくなんか全然っすよ。△△△さんとか覚えてます？　あの人、もう成功しすぎちゃって……」
　どの業界でも、成功者ほど腰が低い。ゴトウ氏が低姿勢でへりくだればへりくだるほど、傲慢を売りにしてきた私は結局のところ、自分の非才を認められないがゆえにそうしてきたことへ気づかされる。私はネットに出自を持つ偉大な成功者の一人を前にして、恥ずかしさに耳朶が染まるのを感じた。
　「でも、本当に書いてないんですか？　どこにも？」
　商業誌など、金銭の発生する場で文章を発表しているかどうかという意味の問いだろう。もちろん、書いていない。もし書いていれば、コミケで持ち出しの同人誌を販売などするはずがない。本当に他意なく、不思議そうに聞いてくるその様子がかえってグサリと胸に刺さった。私は視線をそらしながら、口元をひきつらせて「書いてません」とだけ答えた。声がかすれないようにするのに必死だった。耳に届いた自分の言葉が、自分の心を切り裂く音を確かに聞いた。
　「いやー、信じられないなー。本当かなー」
　腕組みをしながら、愛嬌のあるいたずらっぽい視線で見つめてくる。悪意はないのだろう。しかしいまや私は動揺を見透かされないよう、わずかに首を横へ振るのが精一杯だった。
　ゴトウ氏と私の間に横たわっている目に見えない何か。これが、これこそが、格なのだ。十年経っても数十万ヒットそこそこのサイトと、数千万ヒットを軽々と越えていくサイトの違いなのだ。一流ホームページと二流ホームページの違いなのだ。誰が見ても明らかな、圧倒的ヒエラルキーなのだ。
　ずたずたの自尊心は、私に思わぬ言葉を口走らせた。
　「あの、百万ヒットを達成したら、サイトを閉鎖しようと思ってます」
　この瞬間ゴトウ氏の顔に浮かんだ、困惑と嘲笑と憐憫が入り混じった表情を私は一生忘れないだろう。きちがいを見る視線と、あざけりに半笑いの口元を、とまどいが結びつけた表情だった。
　「はあ？　いまは2011年ですよ？　まだアクセス数とか言ってんですか？」
　それは童貞を捨てた者が、童貞にコンプレックスを抱く誰かにかける言葉と似た響きを持っていた。手に入れば、価値を無くしてしまう何か。そして、それを焦げるように求める誰かがいることへの想像力は永久に失われる。
　私はもう恥ずかしさに死にそうになって、ゴトウ氏から自分の同人誌を取り上げて、有明の海へ投げ捨ててしまいたいような気持ちに駆られた。ただ、表紙に描かれたイラストがそれを止めた。自分を貶めるのはいい。だが、このイラストを描いてくれた人を貶めてはいけない。
　それが、私にかろうじて矜持を保たせた。


　そこからどうやってブースに戻ったのかはよく覚えていない。
　何度も出入りしてんじゃねえよ。ブースに戻る際、フリルのついた服を着た三十がらみの女性たちが嫌悪に満ちた視線を私へ投げたのはわかった。
　「おう、遅かったじゃねえか」
　中東出身の――いや、この男は服装こそ少々奇抜だが、ただ彫りの深いだけで外人ではない。猫背の青年と眼鏡をかけた大学生がちらりとこちらを見る。特に何の感情も伴っていない視線だった。コミケが終わりさえすれば二度と会うこともない人物に、どんな気持ちも抱きようがない。たとえば、旅先の電車で隣に座った誰か。人の中にいるがゆえのあの孤独が、胸へ迫る。私は曖昧に微笑むと二人に、　「売り子、かわりますよ」と言ってテーブルの前に立った。
　「なかいいですか」「ええ、どうぞ」――それにしても暑い。
　単調なやりとりを繰り返すうち、昔なじんだあの感覚が身内に戻ってくるのがわかった。背後から、もうひとりの私が私を見下ろしている感じ。機械のように日常のルーチンを繰り返すうち、自分という主体が消えてなくなる、あの感じ。
　頭皮から伝い落ちた汗が、鼻に貼りつけた段ボールへ浸潤していく。頭の芯がぼうっとして、天と地の場所ももうわからないのに、釣り銭をわたす作業が少しも滞らないのを不思議な気持ちで眺めた。
　周囲で歓声が上がり、拍手の音が鳴り響く。その騒ぎで、私はようやく我に帰った。どうやら終了の時間が来たらしい。待ち構えていたかのように会場に小さなトラックが入って来、椅子と長机を積み込んでいく。
　はやくも祭りの後の寂しさが漂いはじめ、鼻の奥がつんとする。
　ああ、まただ。いまを楽しむということを拒否し続けてきた私は、終わりの瞬間にいつもそれを後悔する。楽しむことで、愛することでより大きくなる喪失が怖いのだ。
　こうして、私のコミケ初参加は幕を閉じた。


　鼻腔をくすぐる風に塩気を感じるのは、海が近いせいか。縁石に腰掛け、来場者たちが三々五々、帰路につく様子を眺める。同人誌のたくさん詰まった荷物を手に、彼らの表情からは幸福感と満足感が伝わってくる。
　結局のところ、私はあちら側の人間でもこちら側の人間でもないのだ。残ったのは疲労感と、在庫の山。私は両手に顔をうずめた。家人にどう借金の言い訳をしよう。私の心には、明日から再びはじまる終わりのない日常がすでに忍びよっていた。
　「ここにいたのかよ」
　彫りの深い男が座っている私に声をかけた。
　「知り合いの編集にもおまえのホン、何冊かさばいといたぜ。まあ、ヤツら、読みゃしねえんだがな」
　言いながら、豪放に笑う。やめてくれ。鼻に貼りつけた段ボールは汗と湿気を含んで変色し重くなり、セロテープは端から剥がれ始めている。
　返事もしないまま力なくうつむく私に、男はあきれたふうだ。
　「なんだ、在庫のこと気にしてんのかよ。ハハ、尻に敷かれてやがんな。俺も人のことは言えねえがよ」
　ペットボトルを傾けながらの優しい軽口。もう、やめてくれ。私にそんな価値は無いんだ。
　「心配すんな。俺たちのコミケはまだ終わっちゃいないぜ。あれを見ろよ」
　私はのろのろと顔を上げる。そのとき、一陣の海風が強く吹き、濡れた鼻段ボールを一瞬のうちに乾かした。そこには果たして――
　グルーサム、陰惨な風貌の男たちが五人、ロード・オブ・ザ・リングに登場するナズグルのようなたたずまいで路上にギャザリング、蝟集していマシタ！
　「オレノ知リ合イノエロ漫画家連中ダヨ。コノ後、コミケノ“打チ上ゲ”ニ“ヤカタブネ”デナイトクルージングッテ趣向ダ」
　打チ上ゲ？　割礼済みの下半身をエクスポーズしながらロケット状のサムシングに縛られたミーの周囲を、黒い肌をした土人がファイヤーダンスで取り巻くビジュアルが一瞬脳裏をよぎりマシタ！　コミケトーの終了後に行われるセレモニーの一種らしいことは理解できマシタガ、それにしても、ヤカタブゥネとは何デショウカ？　ジャパンにおいてヤカタとは血縁関係で結ばれた集団のリーダーを表していマス！　そしてブゥネとはオフコース、あの大悪魔にして地獄の軍団を率いるデューク、ソロモンの魔神の一柱を示しているのに違いありマセン！
　「イッタン乗セチマエバ、二時間ハ逃ゲラレネエ。アトハオマエノウデ次第ジャネエカ。サバイチマエヨ……在庫ヲ……アイツラニナ……!!」
　中東出身のサメンの顔には、偃月刀を片手に洞窟で仲間とテラーの計画を練っていたときにそうだったろうと思わせる、歯を剥き出しにした凄絶な笑みが浮かんでいマシタ！　ファウストを誘惑するメフィストフェレスが如く、ミーが破滅を宣言するのを待っているかのようデス！　エターニティとイコールのサイレンスが流れ、ミーはスローリー、ゆっくりと、それがディステニーだったかのようにサメンへうなづき返しマシタ！　
　「ソウ来ルト思ッタゼ。売リ子ダケヤッテ、トットト帰ロウナンテタマジャネエッテナ！　ココカラガ本当ノコミケッテワケダ！」
　夏の夕空に響き渡るサメンの哄笑を聞きながら、ミーは武者震いにマイセルフのアスホールがきゅっとシュリンクする音を確かに聞いたのデシタ……!!


To be continued...
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<input type="submit" value="The Most Marginal Gloomy Fable!  1,500yen">
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">ＭＭＧＦ！</category>
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         <pubDate>Fri, 20 Apr 2012 16:04:43 +0900</pubDate>
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         <title>ＭＭＧＦ！～見て、みごとなガテン系のファックよ！～（在庫駄駄余解消祈念C80漫遊記・前編）</title>
         <description><![CDATA[　これはnWo社所属の日系アメリカ人、パイソン・ゲイによる英文レポートをカンボジア人スタッフの協力で日本語へ翻訳したものです。日英のパラフレーズが困難な単語をカタカナで表記したり、一部文意の不明瞭な箇所があることをあらかじめご了承下さい。なお、このレポートに記載された内容に関するご質問・ご要望・ご批判は、弊社広報室宛のメールでのみ受付けております。なお、英語以外の言語には対応できかねますので、あらかじめご了承下さい。


　十年来のペンパルであるリカが原因不明のディズィーズに倒れ、ステイツのnWo本社から奈良ブランチ所属のミーにアージェントリィ、至急トキオのコミケトー・エイティに向かえというオーダーNo.66が下りマシタ（当社のプレジデントはシスの暗黒卿そっくりのいけすかない野郎デス）！　オーッ、ネオ・トキオ！　ミラクルという名のパラダイス！　スリー・ツー・ワン・ゴー！
　ミーはスーツケースに白青のバーティカル・ストライプのトランクスを押しこみながら（なぜって、ジャパンのギークスの間では、白青のホライゾンタル・ストライプのパンティが大人気と聞きましたカラ！）、胸の高鳴りをプット・アップ・ウィズできなくなっていマシタ！　オーッ、サード・トキオ！　セカンド・トキオ・ユニバーシティを擁する、エンジェルたちの誘蛾灯！　オダワラ防衛線、突破されマシタ！　オールモスト寝つけないまま、ミーはバレット・トレイン上のパーソンになったのデシタ！
　トキオ・ステーションから意気揚々とキャブに乗り込み、行き先をトキオ・ビッグ・サイトと告げると、初老のドライバーのフェイスが侮蔑的にディストートするのがわかりマシタ！　プアーなジャパニーズのフェイシャル・エクスプレシオン（ミーのマザーはフランス系移民なのデース！）とは思えぬほどのディストーションだったので、ミーはひどくサプライズしまマシタ！　ジャパンにおけるギークスへのヘイトは、ステイツにおけるジューズ、ユダ公どもへのヘイトとセイム・クオリティであることをペインフルに実感させられたのデス！
　トゥエニィ・ミニッツ・レイター、ニードルのむしろを思わせるキャブ内のアトモスフィアーからリリースされた先に、シュガーのランプに群がるアンツの如くくろぐろと、ギークスどもがビッグ・サイトを取り巻くのが見えマシタ！　まさにシュガーの粒をネストに持ち帰るワーカー・アンツみたいデース！　会場から出てくるギークスはノー・エクセプション、例外なくモエ・ガールの描かれたブックをホールドしていマス！　ストリクトリー・スピーキング、厳密にはブックというよりマガズィーン、ガールというよりはベイビーのようデシタ！　モエ・ガールたちの表情はいずれもステイツならノー・ダウト、間違いなく寿命をはるかに超えたセンテンス、刑期を食らいこむだろうペドフィリア感をかもしだしていマス！　加えてギークスどものフェイスに張りついた表情は、いずれもステイツならジュリーズ、陪審員たちが数百年の懲役を求刑することにわずかのヘジテイトも感じないだろうクライム感をかもしだしていマシタ！
　オオーッ、あれこそがワールドワイドにノトーリアスな土人誌なのデスネ！　ミーを包むディープ・エモーションは、ジャングルの奥地で幻のバタフライを発見したときの昆虫学者のイットに似ていたと思いマス！　オップス、本社へのレポートは正確を期さなければなりまセン！　土人というのは、ファースト・ネイションを表すジャパニーズの単語なのデース！　ジャパンはポリティシャン（ミーがステイしていたときは、The Demonic Party of Japanとかいうロックンロールな名前のパーティが与党デシタ！）も広言するように、モノ・エシック・グループから成る国家なのデス！　土人誌というネーミングはジャパニーズのプライド・アンド・プレジュディズが混ざりあった複雑なセルフ・コンシャスネス、自意識を体現しているのデショウ！
　ゼアフォー、ゆえにミーのようなフォリナーのメイドした土人誌は、ジャパニーズのデフィニション、定義では土人誌とは呼べないのデス！　イン・ショート、つまりコミケトーではフランスワインなみの厳しいクオリフィケーション・ジェスティヨン（ワタシのマザーはフランス系移民デース！　ラブ・マミー！）、品質管理が行われているというわけなのデス！　ステイツならばレイシズムと呼ばれかねない偏狭さ（辺境さ？lol）デスが、マザーがフランス系移民のミーはそのナローさがカルチャーの正体であることを知っていマース！　（ファック、マクダーナルズ！）
　バット、コントラディクティング、矛盾したことにジャパニーズにおけるコミケトーのサウンドは「混み毛唐」と同じなのデス！　ザットイズ、すなわち「外人たちで混みあっている」の意味をもインプライしていることになりマス！　民俗学のオーソリティー、クヒオ・ヤナギダ大佐が存命であれば、さぞやこの難問に頭を悩ませたことデショウ！　ミーの推測はこうデス！　ジャパニーズとネイティブ・アメリカンは同じアンセスター、先祖を持っているという仮説デス！　オーッ、汝「混みあう毛唐ども」よ！　ネーミングのセンスが似ているのもうなずけマース！
　ギークスのウェイブに流されるままトキオ・ビッグ・サイトに入ると、すさまじいヒートとスメルにノージア、ミーは軽い吐き気とめまいを覚え、思わずシルク製のハンカチーフで口元をカバーしマシタ！　すさまじいヒューマン・ガベッジに、もはや進むことも戻ることもままなりマセン！　このままではファイナル・デスティネーションにたどりつく前にファイナル・デスティネーションにたどりついてしまいそうデス（訳者注：「最終目的地」と人生の終着である「死」をかけていると思われるが、同名の映画に言及している可能性も否定できない）！
　バット、ドント・ウォリー、ノー・プロブレム！　リカのビジネス・パートナー、ダコバのエージェント、代理人サメン・アッジーフのセルフォン・ナンバーをあずかってきているからデス！　ミーのヴィジットの目的は、リカとダコバの土人誌、MMGF!（Modified Mason Gain Formula？　奇ッ怪極まるタイトルデース！）の販促アクティビティなのデシタ！　コミケトーにおける裏技、セラーがバイヤーに優先してバックドアーから入場できるシステムを今こそメイク・ユース・オブ、利用するのデース！
　ハウエバー、なかなか電話はつながりマセン！　ジャパンはセルフォン・デベロップト・カントリーなので、奈良のようなカントリー・サイドのマウンテン・トップでも電話はつながりマス！　トキオのようなアーバン・シティで電話がつながらない、こいつはミステリー、エクストリーム不可思議デス！
　何度ものトライと長い長いコーリングの後、ファイナリー、ついに不機嫌そうなボイスのガイが電話に出マシタ！　オーッ、ユー・マスト・ビー・サメンサーン！　ハワユー！
　「忙シイカラ要件ヲ手短カニ言エ！」
　ドスのきいたボイスは、なぜかミーにハイスクールでのヒエラルキーを思い出させマシタ！　ハイッ、手短に言わせていただきマース！　リード・ミー・トゥ・バックドアー・プリーズ！
　「ハア？　テメエドコノ王様ダヨ？　売リ子モシタコトガネエトーシロニ貴重ナサクティケヲ渡セルワケネーダロ！　正面カラダラダラ歩イテ来ヤガレ！」
　サドンリー、突然電話は切れてしまいマシタ！　きっとビッグ・サイトに固有の電波シチュエーションが原因にちがいありまセーン！　それにしても、サクティケとは何なのデショウカ？　サクリファイス・ティッツ？　ユーギオー的な？　俺はこのたわわな双乳を生贄に捧げて、胸の貧しいアーク・ペドフィリアを召喚するゼ？
　そもそもイングリッシュ・ワードではなく、ライスを畑に植える作業、ソー・コールド「作付け」のことにリファーしていた可能性さえ否定できマセン！　フロム・エンシェント・タイムス、古来よりジャパンではライスのアマウントが非常にインポータントなミーニングを持ち続けマシタ！　コミケトーのバックドアーを使うには、イーチ・ファミリーのガーデンで栽培しているライスを持ってくる必要があったのかもしれまセーン！ オーッ、日本の常識世界の非常識！　働かざるもの食う寝る遊ぶ！　さすがはワールドに冠たるニート大国デース！　ミーは文化の違いにソー・インプレスト、強い感銘を受けつつも、今回のミッションが想像以上に困難なものになることを感じていマシタ（弊社のプレジデントはシディアス卿そっくりのいけすかない野郎デス！　アンリミテッド・パワー！）！ 
　ほどなくして、ギークスのウェイブはミーを建物のインサイドへと運んでいきマシタ！　ビッグ・サイトの中は、イグザクトリー、ステイツのスラム街を思わせるアウト・ローぶりデス！　壁際でシットダウン（sit down）しているものもいれば、壁際でシットダウン（shit down）しているものもいマス！　コミケトーへ参加するために仕事をジャックイン（jack in）したことを公然と自慢するものもいれば、土人誌を片手に公然とジャックオフ（jack off）するものもいマス！　各ブースに掲げられたポスターはクリスタニティをビリーブ・インしているなら、ビッグ・サイトごとヘルファイアに焼き尽くされることを望むほど冒涜的な図画で彩られていマス！
　その、サタニズム的な祝祭を体現する見かけとは裏腹に、ギークスたちはキューを乱さずに整然とならんでいるのデス！　パスポートを持たないステイツのファンダメンタリストがこの会場を見たならば、あらゆるホーリーとアンホーリーが混在するありさまに、地上へヨハネのアポカリプスがアピアーしたと感じるかもしれマセン！
　ハウエバー、フランス系移民の息子であるミーにとってこの程度のエンタルテテ・クンスト（祖父はドイツ系移民デス！　ラブ・グランパ！）、退廃芸術はパリの路地裏でエッフェル・タワーの先端を見ながらアルジェリアンにアヌスを突き出して言うファック・シルブプレ、昼下がりのコーヒーブレイクと何ら変わらない平穏なものデース！　ミーはギークスどもを持ち前の体格でオーバーフェルムしながら、サメン・アッジーフのブースを目指しマシタ！
　バット、なかなか目的のブースを見つけることができマセン！　シック・イン・ベッド、病床のリカが手を握るミーへ息も絶え絶えに、「これ……ダコバちゃんの……おっきなポスターにして……はってくれるって、そう、約そくしてくれたの……」と言いながらあずけてくれたイラストを元にブースを探すのデスガ、いっこうに見当たりマセン！　ダコバのサークルはウォール・サークル（ウォール・マート？　ウォール・ストリート？　意味不明デース！）なのでアット・ワンス、すぐに見つかると聞いていたのデスガ……
　イヤ、見つかりマシタ！　会場のウォール沿いへセグリゲートされたエリアに、リカからもらったイラストを発見したのデス！　どうりで見つけにくかったはずデス！　なぜなら――
　二枚の大判のポスターの下に、ひと回り以上小さなサイズで掲示されていたからだ。加えてテーブルの奥、山積みになった在庫の裏側へすっぽりと隠れてしまっており、よほど近くから注意深く見なければ気づかないだろう。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。私は自分の気持ちが急速に冷えていくのを感じていた。地元のだんじり会を軽蔑し、地域の夏祭りを嫌悪する私も、コミケという場でならば祭りの一員になれるかもしれないと信じていた。しかし、待ち望んだ祭りの只中にあって私の胸を満たしているのは、一種の諦念と虚無感である。結局、私はこの人生において「いま」「この場所」に実在することを忌避し続けてきただけのことだったのか――
　オオップス！　あぶなかったデース！　あやうくオサム・ダザイ的なノー・イグジット、出口の無いデプレッションに引きこまれるところデシタ！　気を取り直していつものようにチアフルにいきマース！　ハーイ、ディス・イズ・パイソン・ゲイ！　ホエア・イズ・サメンサン？<a href="http://newworldorder.jp/images/C80-1.jpg" class="highslide" onclick="return hs.expand(this)" onkeypress="return hs.expand(this)"><img alt="C80-1.jpg" src="http://newworldorder.jp/images/C80-1-thumb.jpg" width="332" height="247" align="right" /></a>
　呼びかけに応じて、ウォールを背にしたテーブルの向こうから、ミドル・イースト風の容貌をした男が不機嫌そうにミーをギロリとゲイズしマシタ！　その瞬間、ミーの背筋にはハイスクールでの理由なきヒエラルキーの感じと同じ種類の悪寒が走ったことを認めなくてはなりマセン！　口髭にターバン、イエローのアロハという正気をダウトするいでたちのこの男が、リカの言っていたサメン・アッジーフなのデス！
　サメンはショルダーズをアングリーさせて隣のブースを占拠するロトン・ガールズ、腐女子ども（これは注釈が必要デショウ！　ステイツのゾンビムービーのように身体が腐っているわけではありマセン！　腐っているのはその性根の部分でアリ、精神そのものなのデス！　魯鈍ガールズ、デース！）を押しのけて出てくると、ミーに向けて両手をあわせマシタ！　アンドゼン、「あら、アクバル？」みたいなことを言ったのデス！
　オーッ！　ソレ、知ってマス、知っていマース！　ミーはたちまちマイセルフがフルフェイスの笑顔になるのがわかりマシタ！　ソウ、これはファースト・ガンダムからの引用に間違いありマセン！　ミーはギークスとして試され、合格したのデース！　ハートのボトムからハッピーな気持ちになったミーは、サメンのショルダーをバンバンどやしながら「アックバル兄サーン！　アックバル兄サーン！」と連呼しマシタ！　すると、サメンのフェイスはなぜかたちまち険しさをインクリースし、ミーはハイスクールでの理由なきヒエラルキーの感じをアゲイン、思い出しマシタ！
　サメンは再びロトン・ガールズをかきわけテーブルの裏側へと戻っていきマス！　ミーは両手でアス・ホールをカバーしながら、サメンとミーを見てウケとかセメとか（ハレとかケのような民俗学用語に違いありマセン！）ひそひそ話をする魯鈍ガールズと視線を合わさないようにしてブースに入りマシタ！
　インサイドから見るとスーサイダルな狭さで、在庫のバレーに二人の売り子がひしめいていマス！　一人はエクストリーム猫背のヤングマンで、リアルをゲイズする時間よりもスマートフォンの画面をゲイズする時間の方が明らかに上回っていマシタ！　聞けば、このヤングマンもサメンのブースを間借りして土人誌を販売しているとのことデス！　オーッ、フェローシップ・オブ・ザ・コミケトー！　ホワッツ・ユア・ネイム？
　ミーの問いかけに、ヤングマンはコリア製のペドフィリアだかセクスフォビアだかいうスマートフォンから一秒も目を離さないまま、リプライしマシタ！　そのボイスにはミュートとブラーがかかっており、ジャパン在住歴三十余年のミーにとって久しぶりにリスニング力を試される良いオポチュニティーとなったのデス！　ヤングマンの名前はオットマン・ゲイリー、栄枯盛衰みたいな名前のマガズィーンに、ソワカ反吐みたいなタイトルのカートゥーンを連載しているとのことデス！　ジャパンのコミック・アーティストの多さはルーモア、噂には聞いていマシタが、すでにこのシット狭いブースだけで漫画家占有率は５０％を越えていマス！　オーッ、まさに「狂うジャパン（ギーク・カルチャーを推進するガバメントの標語）」デスネ！
　そしてもう一人はシャドーの薄いカレッジ・ステューデントで、ティピカル・ジャパニーズがオーフンするところのネックをチルトさせるだけのインギン・ブレイなおじぎでレスポンドしてくれマシタ！　苦虫をイートしたような顔でサメンが言うには、このカレッジ・ステューデントがリカとダコバの土人誌をエディット、編集したとのことデス！　オーッ、アナタが――
　漫画と小説の余白設定を勘違いし、文字密度の高い、極めて読みにくい紙面を作り上げた張本人なのか。生涯に一度とまで思い詰め、本業に影響を生じるほど睡眠時間を削った校正の一部を反映させないまま製本に出した張本人なのか。売れるほどに赤が膨らむ、採算度外視の同人誌を、家人に使途を明かせぬまま土下座して捻出した虎の子の金子による同人誌を、不満の残る形で世に出さざるを得ない状況を作った張本人なのか。段ボール製のつけ鼻を貼りつけるセロテープの下の皮膚にしりしりとしたかゆみが生じる。一瞬、板垣恵介の格闘漫画の如く顔面の中央が陥没するほど右拳をねじこんでやりたい衝動にかられたが、そうしなかったのは単純に怒りを諦念が上回っただけのこと。私の人生に馴染み深い、消極的な惰性による問題の回避だった。
　オオオップス！　ステイツ・オブ・デプレッション・アゲイン！　いまのは本当に危なかったデース！　気を取り直していつも通りチアフルにいきマショウ！　ミーはエクストリーム愛想よくシャイシャイとハンドクラップしながら、「ヘイ、ボーイズ！　ミーが来たからにはもうダイジョブヨー！　売って、売って、売りまくるネー！」とシャウトしマシタ！　ハウエバー、返ってきたのはジャージャー・ビンクスを見るときの古参スターウォーズマニアと同じ中身の視線デシタ！　ミーはたちまちマイセルフのフェイスがシリアスになるのを感じマシタ！
　オーッ、アウェイ！　すさまじいアウェイ感デース！　ミーはヘルプを求めてサメンを見マシタが、「オイ、ボサット突ッ立ッテンジャネエヨ。狭イブースニデクノボーヲ入レテオクスペースハネエンダ」とアンチ・ソーシャルなピクチャーの土人誌が山積みされているテーブルへとミーを激しくプッシュしたのデス！
　確かに、ミーに売り子の経験はありまセン！　ハウエバー、ミーはガイシ（骸死）系企業にふきあれたリストラクチャリング・ストームを生来のチアフルネスのみで切り抜けたほどのガイなのデス！　売り子？　プロバブリー、売女の親戚みたいなものに違いありまセン！　ミーは肩幅に足を開くと、アスホールをワイドに構えマシタ！　サア、ムカイ、どこからでもかかってきなサーイ！　ミーの耳元では「帝王V！」の連呼が実際に聞こえるようデシタ！
　バット、マイセルフのチークにキアイの平手を打ちつけながら顔を上げると、そこには生気の欠落した目をしたリビングデッドの群れが、内臓疾患を疑わせる土気色をした無表情で棒立ちにスタンドしていたのデス！　そして、ケイオスそのものの見かけといでたちをしたギークスが、整然とした二列のキューでコスモスそのものを体現するかのように並んでいるのデス！　サド性向を持つデブ専ホモのネクロフィリアならば、あるいは両手をクラップして大喜びするかもしれない光景デス！　ハウエバー、いずれの性癖にも該当しないミーはそのとき、ベジタリアンが人食い族の村をヴィジットしたとき感じるだろうディープでマッシブなカルチャー・ギャップに、マイセルフのアスホールがきゅっとシュリンクするのを感じていたのデシタ……!!


To be continued...
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<input type="submit" value="Modified Mason Gain Formula!  1,500.0JPY">
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">ＭＭＧＦ！</category>
                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">世界の果て-7</category>
        
        
         <pubDate>Sat, 28 Jan 2012 15:39:44 +0900</pubDate>
      </item>
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         <title>ＭＭＧＦ！～もうやめて、みんなゴア表現に震えてるわ！～（外典・狂都奈落鏖断阿修羅地獄変）</title>
         <description><![CDATA[　わたしの名まえは、琴理香（こと・りか）。どこにでもいるふつうの女の子。
　でも、わたしにはヒミツがある。小鳥猊下（ことり・げいか）ってハンドルネームで、「ねこをおこさないように」っていう名まえのちょっといけないホームページを運えいしているの。ともだちも知らない、お父さんとお母さんにも言ってない、わたしと、そしてあなただけのヒミツ。
　いま、わたしは京都にむかうでん車にのっている。ネットでの知りあいに会うためだ。
　かの女の名まえはＳＭＤ虎蛮（さめだ・こばん）。ひょんなことから「ねこをおこさないように」にイラストを描いてもらうようになった。いつものことだけど、ネットでしか知らない人とはじめて会うのってドキドキする。いったいどんな子なんだろう。もしかして、わたしたち、ともだちになれるかな？
　そんな楽しい空そうにひたっていると、ビートルズのイン・マイ・ライフのイントロが、たんたんたたたたん、とひびいた。
　ケイタイの着メロ。あ、虎蛮ちゃんからだ。
「アンタ、いまどこにいんの？」
　まえおきもなしの不きげんそうな声に、わたしの体はビクッとなった。まだでん車のなかだよってつたえると、
「ハァ？　なにそれ？　こっちはもうとっくに着いてんだけど？」
　わたしはあわててじぶんのうで時けいを見て、それからでん車のなかの時けいを見た。まちあわせまで、まだ１時間いじょうもある。
　すごくきつい口ちょうだったので、もごもごと言いわけみたいなへんじになった。そしたら、ケイタイのむこうがわでハーッと大きなためいきがした。
「これだから、ネット界隈でひきこもってる人種とやらは……」
　ちいさな声だったけど、たしかにそう聞こえた。すっごく気にしてるネットひきこもりのことをズバッと言われたので、わたしはなみだがジワッとでてきた。
「あんたさあ、もしかしてイタリアかどっか、日本じゃないとこの出身なわけ？　私の担当編集なら遅くとも２時間前には待ちあわせ場所に来て、背筋のばして正座してるわよ。もう信じらんない！」
　３０分まえには着くつもりだったのに、虎蛮ちゃんのギョウカイでは２時間まえに着くのが常しきだったなんて！　そうぞう力のないじぶんのダメさにガッカリしたら、もうなみだがポロポロととまらなくなった。
「ごめんね、ごめんね、いそぐから、ごめ」
　んね、を言いおわらないうちにプツッとつう話がきれた。
　わたしはすっかりうろたえて、とおりかかった車しょうさんに、「もっとはやく着きませんか」とたずねたら、「電車ですからねえ。時刻表どおりにしか着きませんねえ」と、にが笑いされた。
　さしむかいの席にすわっていた上品そうなおばあさんが、そのやりとりを聞いてホホホと笑った。
　わたしはバカなことをたずねてしまったじぶんがはずかしくなって、でん車が京都駅に着くまでまっかになって下をむいていた。


　ドアのまえで足ぶみしていたわたしは、でん車がとまるとすぐにみやこじかいそくをとびおりた。はあはあと、いきをきらせて駅のかいだんをかけあがる。
　まちあわせばしょは、しんかんせんの改さつがある中おう出口。そこに、わたしとおない年くらいの女の子が立っていた。ツイッターのにがお絵そっくりで、わたしはそれがＳＭＤ虎蛮ちゃんだって、すぐにわかった。
「虎蛮ちゃん！」
　虎蛮ちゃんにかけよると、わたしは地めんにおでこがつくぐらい、おもいっきりあたまをさげた。
「おくれてごめんなさい！」
　きっと、すっごくおこられるんだろうって、かくごしてた。でも、虎蛮ちゃんはいがいそうに、
「へえ、あんた、女の子だったんだ！　あんなホームページやってるから、私はてっきり」
　どうやら、あんまりおどろいたので、おこってたのをわすれちゃったみたい。
　ホッとするとなんだかうれしくなって、わたしは虎蛮ちゃんにまくしたてた。
「うん、はじめて会った人にはよく言われるんだー。わたし、琴理香。リカってよんでね！」
「リカぁ？」
　けげんそうな顔。近くだと、たしかににがお絵そっくり。
　でも、よくよく見ると目のしたはうっ血してまっくろで、目つきはすさんだ感じをしていて、すこしこわかった。
「あんた、猊下でしょ？　小鳥猊下。ちがうの？」
　これもいつものしつもん。
「えっとね、じつは小鳥猊下って、ふたりでつかってるハンドルネームなの。『ねこをおこさないように』ってね、１０年まえにネットで知りあったパイソン・ゲイってアメリカ人といっしょにやってるの。かれがギャグたん当で、わたしがリリカルたん当。もう気づいたかしら？　コトリゲイカって、コト・リカとゲイのアナグラムなんだよ！」
　わたしがみぶり手ぶりでいっしょうけんめいせつ明すると、きびしかった虎蛮ちゃんの表じょうがすこしゆるんできた。
「へえ、ゆでたまご方式ってわけね。ようやくガテンがいったわ。じゃなきゃ、あんな精神分裂みたいなホームページの説明、つかないもん！」
　虎蛮ちゃんのことばはとてもするどくて、わたしの心にグサッとつきささった。
（表げんをする人って、みんなこんなかんじなのかな……）
　わたしはまたジワッとなみだがでてきたけど、なんどもまばたきをしてごまかした。そして、キズついたことをさとられないよう、できるだけ元気にたずねる。
「ねえ、あなたのこと、ＳＭＤちゃんってよぶべき？　それとも、虎蛮ちゃんってよぶべき？」
　すると虎蛮ちゃんは近くのまるいはしらに背なかをあずけて、ちょ者近えいのときのお気にいりのかっこうみたいなポーズをした。
「そうね、私のことは……ダコバって呼んで」
「だだだ、ダコバぁ？」
　思ってもみないへんじにおどろいて、すこしどもってしまう。虎蛮ちゃんの顔はひらべったくて、どう見ても日本人ってかんじだったから。もしかして、いまはやりのドキュンネームってやつかな？　堕枯馬、とか書くのかしら。
　そうこう考えているうち、虎蛮ちゃんの顔にみるみる不きげんがもどってきたので、わたしは大あわてでまくしたてた。
「ダコバ！　すっごくステキな名前ね！　秋の夕ぐれみたいな！　わたし、夕日が麦わらにてりかえすのを想ぞうしちゃった！　そういえば、ふんいきもダコタ・ファニングってかんじ？」
　虎蛮――いや、ダコバちゃんの小鼻がすこしふくらんだ。この方向でいいみたいだ。
「はじめてあのホームページを見たときから、なんていうの、センス？　とにかくあなたはちょっと他の管理人たちとはちがうなって感じてたわ。本当に奇遇なんだけど、ＳＭＤ虎蛮もね、じつはふたりの共同ペンネームなの」
「えーっ！」
　わたしがほんとうにびっくりして声をあげると、ダコバちゃんはすっごくとくいそうな顔をした。うん、やっぱりこの方向でいいみたい。わたしは心のなかで、すこしホッとする。
「アイツ、不法入国者なんでちょっと国の名前はかんべんしてほしいんだけど、中東出身のサメン・アッジーフって男とコンビで漫画やってるの。私がストーリー担当で、かれが作画担当」
「あー、わかった！　サメダコバンって、ダコバとサメンのアナグラムだ！」
　わたしが胸もとで手のひらをパチンとうちわせると、ダコバちゃんはくちびるのはしをまげてフフッっと笑った。
「ご明察、こわい子ね……。あなたのこと、ただの時間を守れない、社会不適応のだらしないネットひきこもりだって思ってたけど、なかなか頭の回転が速いじゃないの。私たち、なかよくなれそうね。改めてよろしく、リカ」
　ダコバちゃんはそう言いながら、右手をさしだしてきた。わたしはまた、ダコバちゃんのするどすぎることばがグサッと胸にささっていた。
　わたしはなみだがジワッとでてくるのをがまんしながら、その手をにぎりかえした。ダコバちゃんの手のひらは、ちょっとにちゃっとしていた。


「ねえ、トウキョウから長たびだったでしょう？　おなかすいてるんじゃない？」
　わたしはまず、ダコバちゃんをお昼につれていくことにした。ダコバちゃんをよろこばせたかったのと、「リカ、人間はおなかがいっぱいのときには不きげんになれないよ」って、おばあちゃんからいつもおそわってたから。いっぱいいっぱい考えて、京都駅ビルのいちばんうえにあるお店を予やくしてあった。
「うわーっ、すごい！」
　ふうがわりなビルの外見に、ダコバちゃんが子どもみたいなかん声をあげる。そのようすに、なんだかわたしまで楽しくなってきてしまう。
「これって、リカがホームページに書いてたところよね」
　大かいだんをチョコレート、パイナップルって言いながら１だんとばしでのぼっていたダコバちゃんが、ほっぺをまっかにしてふりかえる。
「えーっ、ダコバちゃん、そんなのおぼえてるの？」
「リカの書いたことならなんだっておぼえてるわよ」
　ダコバちゃんがいたずらっぽくくちびるのまわりをペロッとなめるのを見て、わたしはなぜかドキッとする。
「たしか、たくさんのガラスがまるで処女膜みたいって書いたのよね！」
　わたしはとたん、じぶんがまっかになるのがわかった。
「もうっ、ちがうんだから！　あれを書いたのはわたしじゃなくて、パイソンなんだから！」
「がおーっ、ガメラだぞー！　ちんぽだぞー！」
　ダコバちゃんはすっごく大きな声でさけぶと、ふざけてわたしを追いかけてきた。まわりの人たちがこっちを見てヒソヒソ話をしているのは気になったけど、いまのわたしたちって、とてもいいかんじじゃない？
「もう、ダコバちゃん、やめてよ！　はずかしいったら！」
　笑いながらふりかえると、大かいだんのまんなかでダコバちゃんが右のわきばらをおさえてうずくまっていた。
「ダコバちゃん、どうしたの！」
　わたしの声は悲めいみたいだった。心ぱいに胸がつぶれそうになりながらかけよると、ダコバちゃんの顔は花輪和一の漫画みたいにオッサンになっていた。首をかきむしりながら、うわごとのようになにかつぶやいている。
「うう、手が、手がふるえよる……ワシ、漫画家なんやで。右手一本でかせがなあかんねんで……」
　どうしよう、ねっ中しょうかもしれない。
「すずしいところでよこになったら、きっと楽になるわ。がんばって！」
　わたしはダコバちゃんにかたをかすと、予やくしていたお店までひきずるようにしてはこんでいった。
　お店に着くと、ダコバちゃんはそれまでくるしんでいたのがウソみたいに、じぶんでカウンターまであるいていって、ながれるようにスツールへこしかけた。
　それから、すごくナチュラルに生ビールを３はい、ちゅう文した。顔は女の子にもどっていた。
　わたしがあっけにとられていると、すぐにしゅわしゅわとアワをたてる金いろのビールがはこばれてきた。わたしののどが、ゴクッとなった。
「１ぱいは私に、１ぱいはあなたに。そしてもう１ぱいは――」
　かっこよくグラスをかたむけてゆかにこぼしかけて、
「やっぱり私に」
　ダコバちゃんはそのままいきもつかずに、２はいのビールをグーッとあけた。
　６月にしては、すごくあつい日だった。わたしはビールにまほうがかかってるみたいにさからえなくなって、ダコバちゃんを追いかけてグラスをグーッとあけた。
　ぐ、ぐふぅ。
　わたしはそのとき、じぶんが花輪和一の漫画みたいに顔だけオッサンになっているのがわかった。ヒゲをじゃりじゃりいわせながらくちびるのアワをぬぐう。
　うふふ、でも平じつの昼からアルコールをのむハイトクカンで、リーサラにとってのビールはますますおいしくなるなんて、自ゆうぎょうのダコバちゃんにはわからないかもね。
　なんて考えながらダコバちゃんのほうを見ると、編集王でマンボ好塚が自販機のとなりで酒を飲んでいるときみたいな顔で右手を見つめながら、「へ………へへへ。見てみィ………へへへ……。震え……止まりよったで……」なんてつぶやいているんです。すると、じしん（ふきんしん！）みたいにブルブルしていたダコバちゃんの手のふるえが、みるみるおさまっていったのです。
　しろ目のところがきいろくなってるのが見えて、わたしはゾッとして目をそらしました。


「うーん、やっぱり外はあっついわね！　ねえ、ダコバちゃん、どこか行きたいところはあるかしら？」
　アルコールくさい息で大きくひとつのびをすると、わたしはうきうきしながらダコバちゃんにたずねました。
　京都には、お寺とかむかしのものがたーくさんあって、ダコバちゃんといっしょにそういうばしょをかん光できると思うと、なんだかしゅう学りょ行のときみたいでとってもワクワクしたからです。
　そのときダコバちゃんの目がするどくなり、なにかだいじなことをおもいだしたみたいな表じょうになりました。
「あるわ。三条河原町まで出るわよ」
「あっ、かわらまちなら地」
　下鉄、と言いおわらないうちに、
「ヘイ、タクシーっ！」
　ダコバちゃんはサルまんの編集者みたいに、すごくナチュラルにタクシーをとめていた。そ、そうよね。ダコバちゃんはうれっ子なんだから、金せんかんかくがちょっとブッとんでても、すこしもヘンじゃないよね。
　ダコバちゃんはながれるようにタクシーへのった。わたしがさいごにタクシーにのったのはお母さんが急びょうのときだったので、すごくドキドキしながらあとにつづいた。
　かばんからアイパッドをとりだすと、ダコバちゃんは「ここ。ここ行って」とタクシーのうんてん手さんへ、画めんをカツカツいわせながらゆびさしました。
　いっしゅんチラッと見えたアイパッドの画めんには、まっくろなはいけいにデザインかな？　いろとりどりの草があしらってありました。でも、どうしてまん中に大きなドクロマークがついてるんだろう？
「元ヤン……学校内ヒエラルキー……ナウシカ……パイオツでかい……幕末や新撰組……手垢のついた題材……あるいは……」
　タクシーにのっているあいだ、ダコバちゃんはまどのそとをながめながら、ずっとひとりでブツブツ言っていた。
　わたしはなにか単ごが出てくるたびに「うん、そうね、そのとおりね」とあいづちをうったが、りこんすん前のじゅく年ふうふのように、かい話はせい立していなかった。
　かも川ぞいをしばらくはしると、タクシーは京都にもこんなばしょがあったのかって思うぐらいすさんだかんじのうらろじにとまりました。
　黒ネコがダコバちゃんとわたしを見て、フーッと毛をさかだてながらはしっていきます。お昼なのにかんばんのネオンがぴかぴかするホテルがあって、すぐ目のまえですごくふつうじゃない服そうのカップルがなかへ入っていきました。
「ねえ、なんだかこわいよお」
　わたしはダコバちゃんの服のはしっこをつかんで、小さくなってついていきます。
　ダコバちゃんははじめての土地なのに、すごく自しんにみちあふれた足どりでよごれたビルのかいだんをのぼっていき、いくつめかのとびらで立ちどまりました。
「ここね」
　そこはかんばんもなにもあがってなくて、マンションかアパートのふつうの１室ってかんじです。
「リカ、あなたはここで待ってなさい」
「え、でも」
「いいわね？」
　ダコバちゃんはきゅうにわたしをだきよせると、うむをいわせないかんじでおでこにキスをしました。
　わたしがボーッとなってるうちに、ろう下の左右に目くばりしてから、うすくあいたとびらのすきまに体をすべりこませました。
　いっしゅんチラッと見えたへやのなかのようすは、むかし夜のえい画で見たアヘンくつのようにけむっていました。ガリガリにやせたスキンヘッドの男の人がソファであおむけになって、「ねえさん、このハイゴウ、サイコウやわー」と、ろれつのまわらないようすで言っています。
　バタンととびらがしまると、わたしはひとりきりになりました。このビルのかんけい者らしいモヒカンの男の人が、わたしをにらみながらかいだんをのぼっていきます。
　わたしはこわいのと心ぼそいので、なみだがジワッとでてきました。
　すごく長い時かんをまっていたような気がしましたが、時けいを見ると１０分くらいのことでした。ダコバちゃんが草の入ったスーパーのふくろをかた手に出てきました。
「待たせたわね。どうしたの、あなた、泣いているの？」
　やさしくだきよせられるとボーッとなって、こわかったのもぜんぶどうでもいいみたいな気もちになりました。
「ダコバちゃん、その草は……」
「ああ、これ？　アシスタントへのおみやげ。京野菜らしいわ」
　話だいをうちきるように早口で言うと、ダコバちゃんはスーパーのふくろをわたしからかくしたいみたいにカバンのおくへとねじこみました。
「ねえ、せっかくはるばる来てくれたんだし、もっと京都っぽいところをかん光しましょうよ」
　わたしはかん光ガイドをとりだしながら言いました。
　それに、もうこんなこわいところはたくさんだわ。
「そうね、せっかくあなたとふたりきりの時間なんだしね」
　ダコバちゃんがやわらかな表じょうでうなづき、わたしははじめてまともに話を聞いてもらった気がしました。
　でも、すぐにそれは気のせいだったことがわかりました。　


　おたくのせい地・きょうと（狂屠）アニメーション（通しょう・狂アニ）は、各ていしかとまらないふつうの駅のふつうの住たくがいにありました。ピロリンって音が聞こえて、それはダコバちゃんがスマートフォンで狂アニのたて物をさつえいしているところでした。
「ちょっとツイートしてみるわ。『狂アニなう』っと。人生初なうー」
　いっしょにお寺をめぐったり、まいこさんの衣しょうを着て写しんをとったり、そういうしゅう学りょ行みたいなのを期たいしていたわたしは、じつはない心ひどくガッカリしていました。
　でも、はしゃぐダコバちゃんのすがたを見ると、これはこれでいいかなって気になってきます。でん車にのっているときのダコバちゃんは、ハンターハンターの幻影旅団の団長みたいな人殺しの表情で、「狂アニ……ふむ、狂アニか……少し、興味がわいてきたな……」などと気のないふうでした。なのに、いまは大よろこびですもの。
　それにしても――
　げいおん（鯨音）！のポスターがはってなければ、ふつうに見のがしてしまっていたかもしれない、ふつうのたて物です。ただ、正めんのかべはピカピカするきいろでぬられていて、わたしは同じいろのきゅう急車を町でみかけたことがあるのを思いだした。
　となりのおばさんがうつむいたむす子さんをのせながら、「この子、２０年くらい外でてなくって」と、なぜかすごくスッキリした顔で言ってたっけ。
　わたしは、狂アニにはってあるポスターをまじまじと見つめました。ネットサーフィンくらいの知しきしかありませんが、女子高生４人ぐみが反ほげいかつ動に青春をささげるアニメで、この冬のげきじょうばんでは、グリーンピース本ぶへゲバぼうでカチコミをかけるのだそうです。
　ドカッ、ドカッ。
　首をまよこにかしげながら、なぜこんなアニメが大ヒットするのかしらと考えていると、うしろで大きな音がしました。
　ふりかえればスマートフォンをにぎりしめたダコバちゃんが、近くの水ぎんとうになんどもなんどもナガブチキックを入れています。キックのたび、水ぎんとうはでんげんの入ったバイブみたいに大きくゆれました。
「やめて、ダコバちゃん！」
　わたしがうしろからだきつくと、ダコバちゃんは花輪和一の漫画みたいに顔だけオッサンになっていました。
「４０００人もいるくせに、雁首そろえてだんまりかよ！　この、おしフォロワーどもめが！　俺がツイートしたら５秒以内に『オッ！　ＳＭＤ先生、ついに狂アニと仕事ですか！　やっぱすげえなあ！』くらい気のきいたレスつけるのが礼儀だろ、フツー！　俺がツイートしたら５秒以内に『ＳＭＤ先生と狂アニのコラボ、濡れちゃいます！　抱いて！』くらいのレスしながら自画撮りマンコの写メ送るだろ、フツー！」
　ダコバちゃんのはつ言はまったくふつうどころではありませんでしたが、たしかにツイートしたのにまったくはんのうがないときの、せかいにひとりぼっちのかんじはさい悪です。みんなにサービスしたくってたくさんツイートしたらフォロワーががくんとへったときのことを思いだして、わたしはなみだがジワッとでてきました。
「ダコバちゃん、もうじぶんをキズつけるのはやめて……フォロワーなんて、そう、コクゾウムシだと思えばいいのよ」
「ダイオウグソクムシ？」
「いえ、コクゾウムシ。フォロワーなんて、４０００びきのコクゾウムシと思えばいいの。そしてダコバちゃんはお米。お米がないとコクゾウムシは生きていけないのよ！」
　わたしは、テキストを中しんとしたホームページをやっているだけあって、気のきいたなぐさめを言うなあと思われてると思って、言いながらすこしとくいになっていた。
　でもダコバちゃんは、耳がとおい人のようにすごい大きな声で、
「え、おめこ？　おめこどこ？」
　とききかえしてきた。このテのおたくたちにはすっかりなれっこですよというかんじの近じょの人たちが、なかばほほえみながらこちらを見ていた。
　すっかりはずかしくなったわたしは、花輪和一の漫画みたいに顔だけオッサンになって、「なにがおめこだよ！　クンニしろよ、オラァ！」とあらあらしくさけぶと、「あのね、みおたんのＴシャツを着て上から自分の乳首をまさぐると、みおたんを犯している気がして興奮する」などと意味不明のうわごとをくりかえすオッサンをでん車にむりくりおしこみました。


「もしジャンプで連載もてたら、五重塔の上で妊婦と神父がバトルする漫画描くわー」
　こうふく寺のがらんをさつえいしながら、ダコバちゃんは上きげんでした。わたしは、わがままなこい人にふりまわされる気もちでそのようすをながめていた。
　日もくれようとするころ、わたしたちはなぜか奈良にいました。
　それにしてもダコバちゃん、なんで奈良にやどをとったんだろう。もしかするとトウキョウの人にとっては京都と奈良と五島れっ島のあいだに、大きなちがいなんてないのかもしれません。
　でも、せっかく奈良まで足をのばしたんだし、あしゅらぞうが見たかったわたしはダコバちゃんをこうふく寺へつれていくことにしたのです。でも、それが大きなまちがいだったみたい。
　国ほうかんに入るやいなや、みるみるダコバちゃんの表じょうはくもっていき、花輪和一の漫画みたいなオッサンの顔になった。
「なんだよ、このギャラリーフェイク、エロ要素ねーなー」
　などとつぶやきながら、パイプいすにすわっているショウワみたいな顔だちをした黒メガネの学げいいんに「あれ、あなた知念さん？　国宝Ｇメンの？」などとなれなれしく話しかけはじめた。
　わたしはなんとかダコバちゃんの気をそらそうとして、
「ねえ、これ地ぞうぼさつよ！　ダコバちゃんの大すきなまどか（円広志？）にも出てたんでしょ？」
　言いおわるか言いおわらないかのうちに、ダコバちゃんの顔はみるみる特攻の拓に出てくる不良みたいにけわしくなっていった。りゆうはわかりませんが、どうもふれてはいけない話だいみたいでした。
　わたしはすっかりうろたえて、「あの、お花をつんでくるね！」と言いのこしてそのばをはなれました。
　お手あらいからもどってくると、大あばれしてるかと思っていたダコバちゃんは、ねっ心にみろくにょらいざぞうを見あげていた。わたしはすこしホッとして、<a href="http://newworldorder.jp/images/mmgfbg.jpg" class="highslide" onclick="return hs.expand(this)" onkeypress="return hs.expand(this)"><img alt="mmgfbg.jpg" src="http://newworldorder.jp/images/mmgfbg-thumb.jpg" width="150" height="215" align="right" /></a>
「ミロクさま、ステキなお顔をしてるわよね。ダコバちゃん、気に入ったの？　絵ハガキかう？」
　そのときわたしは、ダコバちゃんの右手が、ハンターハンターでネテロ会長が百式観音・零をはなつときみたいに、親ゆびと人さしゆびがわっかをかたちづくり、中ゆびが立ったじょうたいになっているのに気づきました。
　口をふさぐいとまもあらばこそ、ダコバちゃんは、
「コイツの左手、なんか手マンみてえ」
　とすごい大きな声で言いました。わたしはそくざにもっと大きな声でさけびました。
「そうね、みごとなけまん（華鬘）よね！　さあ、もう５時よ！　へいかんする時間だわ！」
　うしろからヘッドロックぎみに、わたしはダコバちゃんを出口のほうへひきずっていった。
　あしゅらぞうのまえをとおるとき、「ヘソの下の肉、すげえエロい」などとうわごとを言いかけたので人中へ１本けんをいれると、ダコバちゃんはえのもとの死体みたくはいいろになった。
　けいびいん２人が大またでこっちにあるいてきてたけど、へいかんの追いだしのためかどうかはわかりませんでした。
　できるだけこうふく寺からとおいところにと、ならまちの外れにあるお店のこしつまでつれこんだところで、ダコバちゃんはキン肉マンのジェロニモが心ぞうマッサージをするみたいにしてそ生した。
　きっとわたしの強いんさが不まんだったのでしょう、ダコバちゃんはしばらくのあいだひと言も口をきかずにくちびるをとがらせていた。
　でも、ビールがピッチャーではこばれてくるとたちまち上きげんになって、
「じゃあ、ふたりの出あいにかんぱーい！」
　なんて、かんぱいの音どをとってくれました。でも、いっ気にのみほしたあと、つくえにジョッキをたたきつけるようにおくと、編集王でマンボ好塚がホテルに編集者を集めて土下座してからビールを飲んだときの表情で「…旨え。」と言ったので、わたしはゾッとして目をそらしました。
　たくさんあせをかいたせいか、ほどなくしてわたしにもよいがまわってきました。
「ねえ、ダコバちゃんはどこまでけいけん、あるのかな？」
　ダイタンなしつもんをしてしまったのは、たしかにアルコールが言わせたせいもあるけれど、１日いっしょにあるきまわったのに、まだダコバちゃんのことをなにもしらないような気がして、さみしかったからでした。
　ダコバちゃんは首をかしげ、トロンとした目でわたしをみつめかえしてきた。
「わ、わたし？　わたしは、び、ビーまでかな」
　なんでわたし、はじめて会った子にこんなこと言ってるんだろう。じぶんでも、顔がまっかになるのがわかりました。
　じつは１どだけ、ダコバちゃんが描いているマンガを見たことがあった。とってもエッチな内ようだった。あんなマンガを描くぐらいだから、ダコバちゃん、きっと――
「んあ？　敬虔？　ああ、なんだ、経験か。おかしなこと聞くのね。ディーよ、ディー」
「ででで、ディぃー？」
　わたしは思いがけないこたえにすっかりうろたえてしまった。（もちろんＡがキスで……）（……はじめての……チュウ）（君とチュウ）（Ｂは当然、アレ……）（ペッティング！）（Ｃって、もちろん）（セ……セックス……!!）（やってやるッ！）（でも、Ｄ……？）（頭文字……イニシャル……?)（え、セックスの次って……なに？）（快ッ感ッ）（ドライオーガズム的な？）（……ッッッ!?）わたしのあたまのなかは板垣恵介の格闘漫画で１秒が何分にも感じられる演出がかけめぐりました。
　ダコバちゃんはすっかりかたまってしまったわたしをあきれたようにながめて、
「あんたさあ、あんなホームページやってるくせに、ディーも知らないの？　堕胎に決まってんじゃん、ダタイ」
　ダコバちゃんは、ダタイにぼう点がついてるみたいにはつ音しました。（ダ…タイ……）（ダタイズム？）（ダタイオサム……的な……？）あたまのなかにかけめぐるわたしの板垣恵介的おどろきをしり目に、なにかスイッチが入ったのか、ダコバちゃんは花輪和一のマンガみたいに顔だけオッサンになると、いっきにまくしたてた。
「なあ、おまえ、いったい俺が何のためにエロ漫画描いてると思ってんだよ。いい女とファックするために決まってんだろ。あんたがしかつめらしくホームページ更新するのだって、そんなご高尚なもんじゃねえ、いい女とファックするためだろ、え？　あれだけの奉仕をしてんだから、ファックぐらいの見返りがあって当然じゃねえか。てめえの指で濡らしてからまたがって、アニメ見てる俺がイクまで腰ふって、身ごもったらソッコー、セルフ堕胎パンチであとくされなく身をひくだろ。おまえさあ、いま笑って聞いてるけど、それぐらいやってもらって当然の社会奉仕をしてんだよ、俺たちは。くそ、メスどもが！　身ごもったらソッコー堕胎パンチやろが！　女ぐらいにできることで、俺たちのサービスに匹敵するのは、セルフ堕胎サービス以外ないやろが！」
　オッサンの顔をしたダコバちゃんは大きな声でダタイパンチ、ダタイパンチとさけびながら、ボディーブローでだれかのおなかをなぐるマネをしました。
　でも、なかいさんがしょうじをスッとあけたしゅん間、ダコバちゃんは元のような女の子の顔にもどった。
「さて、じゃあ酔っぱらっちゃわないうちに例のうちあわせしとこっか」
　そう、すっかりわすれかけてたけど、今回ダコバちゃんがわざわざカンサイまで来てくれたのは、じゃっじゃじゃーん、アリアケのコミケトーにふたりで同人しを出すうちあわせのためだったのだー！　えへへ、おどろいた？
　わたしはすまし顔で、ゆっくりとビジネス手ちょうをとりだすと、とがらせてきたエンピツの先をペロッとなめた。でも、心のなかは、はじめての「うちあわせ」にすっごくドキドキしてた。
　ダコバちゃんはいきおいよくぐーんとりょう手をひろげて、
「あんたはバーンと３００ページくらい書いて。わたしはドーンと５枚くらい？　いや、３枚くらいはイラスト描いたげるから。仲居さん、いちばん高い白ワイン持ってきて！　ボトルで！」
　うちあわせは８びょうくらいでおわった。わたしの口のなかに、にがいあじがひろがった。さっきなめたエンピツの黒えんがりゆうではないみたいだった。
　これがうちあわせ？　わたしが期たいしてたのと、なんかちがう……。でも、なにも知らないウブな女と思われるのはイヤだった。
「わかったわ、バーンね」
　わたしはまっ白な見ひらきのページに“バーン”と大きく書くと、みけいけんの女の子がはじめてのエッチのあと、それを男の子にさとられたくなくてすぐパンツをひきあげるみたいに、サッとビジネス手ちょうをカバンへしまった。
「あなたのしじってわかりやすくて、すごくてきかくなのね。びっくりしちゃった」
　わたしは、みけいけんの女の子がはじめてのエッチのあと、それをさとられたくなくてむかしのエッチとくらべて男の子のテクニックをほめるみたいな言いかたをした。
　ダコバちゃんはとたん、小鼻をふくらませて、
「でしょ。あんたが賢い子でよかったわ。シロウトはすぐ勘違いするんだけど、多すぎる言葉って、逆にインスピレーションを阻害するのよね」
　高きゅうな白ワインなのに、かけた茶わんにどぶろくをそそぐときみたいにそそぐと、いっ気にあおった。
「くっはー、タダ酒の味はたまんねえぜ！」
　ダコバちゃんは花輪和一の漫画みたく、顔だけいっしゅん、ひどいオッサンになった。そしてつづけざま、サイフからとりだした紙まきに火をつける。
「ダコバちゃん、たばこやめたんじゃなかったの？」
　わたしはみけいけんの女の子が１かいのエッチでにょうぼうヅラをするときみたいに聞こえないようちゅういしながら、ダコバちゃんをたしなめました。
「ん、煙草？　ああ、やめたわよ。タバコはね」
　タバコにぼう点がついているみたいにはつ音すると、ダコバちゃんはわたしの顔へふーっとけむりをふきかけた。
　もう、やめてよ。わたし、たばこきらいなの。せきこみながらこうぎしようとすると、ダコバちゃんのかばんからスーパーのふくろに入った草がのぞいているのが見えた。
　とつぜん、ダコバちゃんのうしろのしょうじがスーッとひらいて、なかいのかっこうをしたピンクのゾウが入ってきた。そして、２ほん足で立ちあがると、「ぱおーんぱおーん！　黎明、黎明、との、殿、れーめーにござる！　電柱ですぞ！　どどどどかーん！」みたいなことを富山敬の声でさけびました。
　とたん、目のまえがぐるぐるしはじめ、ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンドのアニメみたいないろのこう水がやってきて、わたしは気をうしなった。
　気がつくと、わたしは全しんずぶぬれでアスファルトにねていました。くすぐったさに体をよじると、ダコバちゃんがわたしのむねに手をつっこんでいます。
「あ……やめて、こんなところで……」
　わたしはかろうじてていこうをしめしましたが、じつはすこしきもちよくて、きもちいいのにどうしてかジワッとなみだがでてきました。
「はは、アオカン願望でもあんの？　さすがテキストサイトの管理人、自意識だけは売るほど持ってんのね。でも、あんたは私を選んだつもりでいるけど、私にも選ぶ権利はあるのよ。そこ、忘れないでね」
　ダコバちゃんの手には、いつのまにかわたしのサイフがにぎられていました。数まいの万さつをぬきとりながら、
「これは御車代といったところね。あなたもいい勉強になったでしょ。ネットだけの関係で、誰かを頼んじゃいけないってね」
　言いながら、ダコバちゃんは力がぬけて立ちあがれないわたしのおでこに、すごくやさしいキスをした。そして、かたごしにかがやくネオンサインを見あげて、
「まあ、御車代というより、こりゃ御花代に消えそうやな！　まいったわ、またカカアにしかられてまうがな！　おとうちゃん、後生やさかい、おめこはウチでだけにしてや、ってな！」
　花輪和一のマンガみたく顔だけオッサンになったダコバちゃんは、声をあげて笑った。ネオンサインには“トップレディー”と書いてあり、トゥハート２のキャラが無だんで転さいされていた。体はつめたいのに、なみだだけがあつかった。


　さて、わたしの話はこれでおしまい。え、それからおこったことをもっとくわしく知りたいって?　ううん、ごめんなさい、お話したいのはやまやまなんだけど、お医者さまからとめられているの。なんておっしゃったかしら、ぴーてぃーえすでぃー?　そういうのがいつまでもなおらないからって。のら犬にでもかまれたと思って、わすれなさいって。　
　え、イラスト？　うん、イラスト。えへ、うふふ、あはは、アハハハハハ。らんらんらららんらんらーん、らんらんらららーん、らんらんらんらららんらんらーん、らららららんらんらーん。
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         <pubDate>Thu, 04 Aug 2011 17:50:41 +0900</pubDate>
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         <title>廣井王子（４）</title>
         <description>　米国のスラムを思わせる街並み。稲光。カメラの端を巨大なドブネズミが走り去る。カメラは雑居ビルの階段を上昇してゆく。いくつかの踊り場を過ぎ、“ワイドプリンス・プロダクション”の表札がかかった扉の前で停止する。室内には本や雑誌、書類などの紙類が散乱しており、床が見えないほどである。脳卒中を疑わせる重低音のいびき。ソファの上に、文庫本を顔に乗せた中年男が寝そべっている。やがて、廊下から慌ただしい物音。
　「（デブとチビ、二人の男が息を切らせて駆けこんでくる）廣井さん！　廣井さんはいますか！」
　「（いびきが止まり、廣井と呼ばれた男の顔から文庫本がずり落ちる）ンだよ、うるせえなあ。明け方まで仕事して、ようやく寝かかったってとこなのによ」
　「（デブ、ぶるぶると肩を震わせながら）なに、悠長なこと言ってるんですか！  大事件になってますよ！　こ、これは、これは本当のことですか！（手に持ったスポーツ新聞の束を廣井の足元へ叩きつける）」
　「ああン？　（スポーツ新聞の一つを手にとりながら）最近は老眼が進んじまって、細かい字が見にくくっていけねえよ」
　「（デブ、荒々しくテレビのリモコンを取り上げ、震える手でボタンを押す）……あの超人気アイドルグループ、悪罵四六時中（略称：AKB46）のリーダーである顎門罪科（あぎとざいか）さんの自宅マンションから、昨日の早朝、中年の男が出てくるのが目撃されました！　こちらがその、衝撃のスクープ映像です！　（残念な造作の女がジャージ姿の廣井をドアの隙間から見送る写真が映し出される）この冴えない男、名前を廣井王子と言いまして、この冬、罪科さんが主役を演じる予定のミュージカルの演出を任されているとか。一部では枕営業の噂も？（デブ、テレビを切る）」
　「（チビ、青ざめた顔で）アンタは、アンタは、やっちゃいけないことをしちまったんだ！（激昂して廣井に殴りかかろうとする）」
　「（デブ、チビを後ろから羽交い締めにして）やめろ！　まだそうと決まったわけじゃない！　まずは廣井さんの話を聞くんだ！」
　「（心底めんどくさそうに）チッ、童貞どもが浮き足立ちやがって。なんで俺がお前らに話をすると思うんだよ。てめえんとこの両親は、昨日セックスしたかどうか朝食の席で尋ねたら、朗らかに教えてくれたのか？　とんでもねえ家庭だな！（馬鹿笑いする）」
　「（チビ、デブを振りほどこうと身をよじりながら涙ぐんで）ぼ、ぼくの罪科ちゃんに指一本でも触れててみろ！　社長だからってただじゃおかないぞ！」
　「（両手をかかげて大仰に）おお、怖い。もちろん、指なんて触れてませんよ」
　「（チビとデブ、明らかな安堵に表情を緩めて）ほ、ほんとうだな」「ほ、ほんとうですか」
　「（真剣な苦悩の表情で）この国のメディアの未成熟ぶりには目を覆うものがあるね。男女が一晩同じ部屋にいたら、必ずセックスをするはずだなんて、無理にでもゴシップを、つまりは自分たちの飯のタネを作らんがためだけの、下衆の勘ぐりにもほどがある。まったく、『下男の目には英雄なし』の金言は、真理であるということを実感したよ。もちろん、指で触るなんて、（突如立ち上がり、邪悪に顔を歪めて）そんな童貞くさいことするわけねえだろ！　俺のポケットモンスターが風邪であんまり寒がるもんだからよ、罪科ちゃんのいちばん深くてあったけえ部分に頭からずっぽりと潜り込ませてやったのよ！  こんな具合にな！（近年逝去した黒人整形ダンサーを想起させる動きで腰を前後に動かす）」
　「（チビ、顔の筋肉が消失したような虚脱の表情を浮かべ、その場に崩れ落ちる。デブ、呆然と）そ、そんな……」
　「だがよ、童貞ども、安心しな。俺も遊び人の端くれだ、とうの昔にパイプは切断済みよ！　年食った非処女ちゃんの人生を背負う可能性は、まだお前たち一般人男性どもの上へ残されてんだからな！（馬鹿笑いする）」
　「（デブとチビ、巨大な蛾が登場する怪獣映画の双子のように手をとりあって）ひどい、ひどすぎる！  あーん、あんあん、罪科ちゃん、罪科ちゃぁん！」
　「（ゆっくりとソファに腰を下ろして煙草に火をつける）……まあ、最初はほんとに舞台の稽古をつけてやるくらいの話だったんだぜ。ついつい興が乗っちまってさ。おまえにゃ色気が足りねえって、気がつきゃ下半身と下半身のぶつかり稽古よ。（スポーツ新聞を取り上げて目を細める）まあ、この報道ぶりじゃ、二番はねえかな」
　「（チビ、もはや話を聞いているふうもなくすすり泣いて）うう、罪科ちゃん、ぼくの罪科ちゃんが汚されてしまった……」
　「（デブ、チビの背中をさすりながら）馬鹿、こんなときこそファンの俺たちがしっかりしなくてどうするんだ。一番辛いのは、（涙に声をつまらせて）罪科ちゃんなんだぞ」
　「（呆れたように）いま、お前らの様子を見るまで実感なかったけど、悪罵四六時中ってのは、やっぱすげえ商売だな！  ゲームがらみで長いこと声優業界に関わってきたから、わかってたつもりだったけどよ、おたくどもの心根を冷徹に分析した、見事なシステムだわ。まず、この不況下で最も活発な消費活動を行うのは、独身のおたくだってこと。次に、おたくは美人の非処女より、多少ブスでも処女が好きだってこと。芸能界なんて場末で美人を探すのは骨が折れるが、ブスならいくらでも虫みてえに集まってくるしな。そして、木を隠すなら森、ブスを隠すならブスの集団ってわけだ。くっそ、考えれば考えるほどに完璧じゃねえか！　どうして声優転がしでおたく様どもからカネを巻き上げるのが得意だった俺が、これに気づけなかったかな……」
　「（チビ、真っ赤に泣き腫らした目で）ぼ、ぼくは、それでも罪科ちゃんを愛し続けます！  今までも！　これからも！」
　「（デブ、涙声で）うん、うん。それでこそ罪科ちゃんのファンだ」
　「（呆れ顔で二人のやりとりを眺めて）まあ、よっぽど気をつけてやらないと、おたくの自意識に立てられた砂上の楼閣だ、簡単に土台ごと崩れちまうがな。たぶんプロデューサーの野郎、恋愛禁止ぐらいのことしかメンバーに言ってなかったんだろうさ。メンバー全員に最初ッから、ちゃんとこのシステムの成り立ちを詳しく説明しとくべきだったな。強すぎるおたくの猜疑心にかかりゃ、すぐに他のメンバーにも非処女の疑惑は飛び火するだろうよ。まさに蟻の一穴ってわけだ。もっとも、その一穴は罪科の処女膜に開いてんだがな！（馬鹿笑いする）」
　「（チビ、勢いよく立ち上がって）よ、呼び捨てにするな！  ぼくの罪科ちゃんを呼び捨てにするなよ！」
　「おっ、元気あんじゃん。（ニヤニヤ笑って卑猥に腰を振りながら）まずはそのふざけた処女幻想をぶちこわすぅ～」
　「（チビ、膝から床に崩れ落ちて）ううっ、財科ちゃん、こんなヒヒ親爺に汚されたって、ぼくは君のことを愛し続けるよ……」
　「（肩をすくめて）おまえさァ、そろそろ冷静になって、誰に給料もらってるか思い出したほうがいいんじゃねえの？　安心しろよ、あんな女のこと、すぐに忘れるさ。芸能界にゃ、他にもたァくさん、若い処女がごろごろしてるからな。女アイドルの仕事ってさ、忘れられることも込みだからよ。まあ、長くて一週間ってところかな」
　「（チビ、膝の上でぶるぶるとこぶしを震わせて）侮辱するな！　ぼくの純粋な恋心を侮辱するなよ！」
　「（背もたれに両腕を投げ出し、天井を向いて）女ってのは、つくづく大変だよなあ。若い処女もすぐに非処女になってさあ、じきに若くもなくなってさ、子どもができたらカアチャンになってさあ、容色も衰えていってさ、しまいにゃ、生理までアガッちまう。人生にたどるべき明確なステージがあって、まあ、肉体の変化が先行するせいだけどよ、同時に心もメタモルフォーゼさせないといけなくてさ、失敗すると羽根が伸びきらない蝶々みたいな奇形か、さもなきゃ怪物になっちまう。その点、男ってのは楽でいいよなあ。セックスしたって、たとえ子どもができたって、死ぬまで少年漫画読んでりゃいいんだからさあ。（目を伏せ、小声で）まあ、ガキでもいれば、それが長すぎる人生の時計ぐらいにゃ、なるんだろうがよ」
　「（デブ、たまりかねたふうに）いったい廣井さんは何が言いたいんですか！」
　「（チビ、加勢して）そうだそうだ！　何が言いたいんだ！」
　「（目を細めてチビを見て）おまえ、愛するって言ったけどさ、愛するってのは、女が歩むそのすべての階梯をいっしょに寄り添うってことだよ。若くて処女の罪科ちゃんが好きだったおまえが、処女でもなく、若くもなくなった彼女の何を愛せるんだ？　少年漫画を読む以外のことをしたくなくて、現実から俺の事務所に逃げこんできたおまえがさあ？　なあ、もう一度言ってみろよ、罪科ちゃんを愛していますってさ」
　「（チビ、嗚咽とともに床に顔を伏せる。デブ、チビの背中をさすりながら）ど、どうして廣井さんはミュージカルの演出なんか引き受けたんですか。柘榴vs.禅（ざくろたいぜん）からこっち、ゲーム制作に関わろうともしない。お言葉ですがそんなミュージカル、演出のことなんか何もわかりゃしないおたくたちが、悪罵四六時中のメンバーを観に来るだけの、半年も経たないうちにすべて消えてしまう泡沫じゃないですか。貴方の才能はゲーム制作でこそ、最大に輝くはずなのに、それをどうして……」
　「（目を細めて）そして、舞台にかかわらなきゃ、顎門罪科の処女を散らされることもなかったと言いたいわけだ」
　「そ、それは……」
　「はは、おまえら本当に純粋だな。なんで俺とヤるまで顎門罪科が処女だったって前提なわけ？　非処女だったよ、当たり前じゃねえか（床に突っ伏したチビの嗚咽がいっそうに高まる）。で、なんだっけ？  俺がゲーム作らずに舞台演出やってる理由か？　簡単だよ。才能がある者は公の場で認められたいと思う。俺には才能がある。そして、ゲームは公の場じゃない。どれだけギャルゲー作ったって、世間は俺を尊敬してくれねえのよ。五十がらみのオッサンが、ゲーム作るときにだけその才能が輝くって、どういう罰ゲームだ、こりゃ？　……俺のカアチャン、九十近くってさ、すげえ田舎に住んでんだよ。メディアといや、テレビとラジオと新聞でさ、やめろって言ってんのに、まだ俺に仕送りしてくんだよ。ゲーム制作で名を上げて、もうカネにゃ何の不自由もない五十がらみのオッサンにさ。俺ってさ、こんなに成功してるのに、この世にいないも同然なの。ゲーム作ってんのが、心底恥ずかしいの。それが俺の理由（窓の外へ視線をそらす）」
　「（デブ、その横顔を見つめて）廣井さん……」
　「（事務所の電話が鳴る。顔を見合わせる三人。廣井、顎でデブに促す。おそるおそる受話器を取り上げるデブ）はい、ワイドプリンス・プロダクションでございます。え、廣井ですか？　（廣井に視線を向ける。廣井、無言で首を振る）少々お待ちください。いま廣井にかわりますので（子機を差し出す）」
　「（三白眼で睨んで）テメエ、社長をマスゴミどもへ売ろうってのかよ」
　「（微笑んで）お母さんからですよ」
　「（毒気の抜けた表情で子機をひったくり、部屋の隅へ行く）あ、カアチャン、ひさしぶり。ゴメン、ずっと電話できなくて。あ、テレビ見た。え、取材来たの？　ごめん、なんか騒がせちゃって。言ったろ、おれ、有名人だって。カアチャン、ぜんぜん信じてくれねえんだもん。仕送りいらねえって言ってんのに……ほんと、ゴメン。うん、俺はだいじょうぶだから。うん、うん。近いうちに顔出すよ。うん、じゃ、切るね（子機の切ボタンを押す。無言）」
　「（デブとチビ、二人で）廣井さん……」
　「（振り向かないまま袖で顔をぬぐって）あー、なんかすっきりしたわー。お前ら、ごめん！　たったいま、事務所たたむことに決めた。ごめんな、なんかずっと、つまんねえことにつきあわせちまって」
　雑居ビルの外。ロングコートにサングラスの女がビルを見上げている。やがて意を決したように一歩を踏み出し、階段を登ってゆく。引いてゆくカメラ。米国のスラムを思わせる街並みに、雲間から射し込む一条の陽光。</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">狂気クリエイター</category>
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         <pubDate>Wed, 20 Oct 2010 21:04:59 +0900</pubDate>
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            <item>
         <title>少女保護特区（１０）</title>
         <description>　書類を片付けながら、ふと手の甲に鼻を近づける。石鹸の匂いがするだけだ。少々過敏になりすぎているのかもしれない。現場から離れて久しいのに、ほとんど習い性になっている。妻は、血の臭いをひどく嫌うから。
　局の建物を出るとき、水音を聞いた。奥の駐車スペースで、同僚が車両を洗浄しているのだろう。ポケットに手をつっこんだまま、ゆっくりとそちらへ歩いてゆく。
　吹きかけられた水は車体を伝ううち、茶褐色に染まってコンクリートへと滴る。ホースを握っているのは、初老と言っていい年齢の女性だ。一声かけると、眉を寄せた険しい表情で振り返る。だが、私を見るやたちまち相好を崩した。
　お互いの家族に関する他愛の無い会話。内容は以前に話したことばかり。同じ職場に居合わせただけの、出自も年齢も異なる二人の間に深い理解があるとは思わない。けれど、言葉を交わすときの仕草や表情に、私の心は安らいだ。安らぎとは暖かではなく冷えているのだと気づいたとき、私はずっと拒絶してきたものを許せると思えた。ふと会話が途切れ、夜勤へのねぎらいを言いおいて帰途につく。
　ラッシュ時と言っていい時間帯にも、田舎の単線は高い乗車率からほど遠い。戸口の席へ崩れるように腰を下ろすと、急に体を重く感じる。最近ではいつも、このまま立ち上がることができないのではないかと思う。定時退社に週二日の休みが約束された閑職である。収支の固定した、毎年同じ数字を並べるだけの経理に、職務上のストレスなど生じようがない。確かに、年齢を言われればその通りだ。ただ、不安になる。休息をわずかに上回った疲労が体の奥底へ澱のように積もって、駱駝の背に置く藁の例えのように、いつか私を壊してしまうのではないかと。
　車内の様子を見渡すと、やはり誰もが疲れているように見える。だがそれは、慰めを求めた願望の投影に過ぎないのだろう。向かいの窓へ視線を戻せば、薄暗い景色を背にして一人の男が映りこんでいる。スーツ姿のくたびれた中年だ。あの頃、誰がこの未来を予想しえただろう。本当に、長い回り道だった。私は、来し方を振り返るような気持ちになる。
　結局のところ、はぐれ者の居場所は、はぐれ者たちの中にしかなかった。少女との旅を終えた私は、家のローンを返済しながら子を成すような当たり前の日常を求め、職探しに奔走した。合法だったとは言え、有名な大量殺人者の片割れだ。人定作業をすれば、すぐにそれとわかる。応募する片端からすべて不採用。いま思えば当たり前のことだ。しかし、それほど切実で、それほど何も知らなかったのだ。途方に暮れた私は、ほとんど唯一のコネを頼りに清掃局を訪ねた。
　――もっと早くに連絡をくれればいいのにさ。水くさいねえ。
　面会を求めに来た私は、よほどくたびれていたのだろう。見るなり、相手は声をあげて笑った。
　――机はもう用意してある。あのときからね。功労賞だよ。
　言いながら、皮肉っぽく口の端を歪めてみせる。
　――まあ、あんたたちのせいでこの部局もいずれ、ゆるやかに解体されていくんだろうが、公務員にはちがいないからね。入り口は関係ないさ。あんたがあの娘を引き受ける限り、私はあんたを引き受けるよ。それが私の、仁義ってやつだ。
　ともに日常へ帰ることを求めたのに、結果として私たちを受け入れたのは、非日常と隣合わせの一隅だった。やくざ者は任侠を隠れ蓑にして弱者をからめとり、コネや情実は排除すべき俗劣な悪習だと人は言う。けれど、かけられた言葉に涙が出た。
　私は長い間、社会での己の位置を定めてこなかった。観測の定点を持たなければ、現実をいかようにも断罪できる。ゆえに、私は何も知ることができなかったのだ。どこにも所属しなければ、すべては意味の無い繰り言として通り過ぎてゆく。所属することで、人は己が壊してはならない最小限を定める。その約束は、小さな灯火となって闇を照らす。そして、別の誰かが周囲で灯火をかざしていることを知る。人類を存続させることを決めた人々が身を寄せあい、この世界の実相である暗闇に、共同体という名付けの微かな光を切り取ってきたのだ。
　古来、数々の伝承で想定されてきた神々とは、世界の埒外にいて誰とも約束をしない存在の暗喩であった。すべてが意味を持たないならば、ただ破壊を繰り返すことで自足できる。そして、すべてを壊し続けることは、誰にも救えぬ永遠の孤独を生きることに他ならない。かつて、この身は一柱の神だった。やがて人々と約束を交わし、朧な灯火をかかげ、この肉は人となる。神代の騒擾が去ると、残ったのは人の世のしんとした静寂だった。
　神を捨て、人として手に入れたものを愛しているかと問われれば、間違いなく愛着はある。愛情は他者へ向かうが、愛着は己へ向かう。そして、倦怠は新たな関係の構築を億劫にさせ、結果、愛着が増幅する。あるいは、この静寂を拒否できないほどには、私も歳をとったということかもしれない。
　郊外にある駅舎の灯は早々に消える。夜空を見上げればいくつもの星座がくっきりと浮かびあがり、赤い帯が筆を走らせたように縦断しているところだけが、子どもの頃の記憶を裏切っていた。最寄り駅から中古の一軒家へと歩くこの十五分ばかりは、いまの私にとってすべての社会性から離れることができる唯一の時間だ。深い闇に身体の輪郭が薄れると、自我もじわりと溶け出してゆく。安逸とともに、十代のときそうだった何者でもない自分へと還る。間遠に並ぶ防犯灯が光の円錐を投げ、そこへ踏み入れるとき、闇に拡散した分子は私へと再構成される。そして、戻りきれなかったわずかの澱が羽虫となって街灯の周辺を舞う。だとすれば、この自我はきっといつかすべて消失してしまうに違いない。私はたぶん、その日を心待ちにしている。
　いつもの角を曲がり、遠目に我が家を確認する。門扉が薄暗ければ問題ない。でなければ、何かがあったということだ。そしていま、開け放たれた戸口から差しこむ家の明かりが、ほっそりとした人影を浮かび上がらせている。妻だ。
　気取られないほどわずかに、歩調を速める。もはや異変を確信していたが、それを深刻に受けとれば妻は動揺するだろう。門扉に手をかけると、笑顔とともにさりげない調子で帰宅を告げた。途端、妻は胸のうちへ倒れこんでくる。青ざめ、震え、涙を流す。あの頃と変わらぬ肉付きの薄い、それでいて柔らかな肢体。背中を撫でてやりながら、栗色に染まった髪に白い一房を発見する。やはり、あれから時間は流れたのだ。
　愛する妻に向けたいくつもの優しい、当たり前の言葉。けれどそれを聞くとき、なぜか身内の疲労はかすかに、水を含むように重くなった。泣き顔に刻まれた皺は、かつてより長くそこへ残る。妻の言葉は一向に要領を得ず、家の中へ入るよう肩を抱いてそっと促すと、わずかに首を振った。その仕草が、事の顛末を理解させる。心配しないよう言いおくと、ダイニングキッチンへと向かう。
　割れた食器と食べ物が散乱し、広がったソースが床を汚す。椅子は横倒しになり、テーブルは壁との並行を失う。その無秩序の中に、黒髪の少女が仰向けに横たわっている。瞬間、倒錯した印象が私を襲った。ここは古代の王の居城であり、我が娘はその主菜として饗されるのだ。王の名は知っている。王の名は――
　そこで背後に妻の気配を感じ、私の幻視は破られた。タートルネックに包まれた胸元はかすかに上下しており、どうやら意識を失っているだけのようだ。
　――強く叩いたつもりはなかったの。
　妻の心に刻まれた深い傷跡。あれからもう、十年以上が経つというのに、それは決して癒えようとしない。私たちは皆、傷跡に足をとられる。幾度も幾度も、繰り返してしまう。そこにあるとわかっているのに、滑稽なくらいまた、同じ場所で転ぶのだ。
　――言うことを聞かなくて、だから……
　ふいに耳鳴りがし、外界が遠ざかる。じつに不思議だ。予の少女は目の前で気絶しているのに、鈴のような愛らしい声が後ろから聞こえた。ぬめるような黒髪の質感を楽しみながら、うなじへと腕を回して予の少女を抱え起こす。軽く頬をはたいてやると、艶めかしい呻き声とともに意識を取り戻した。
　魚の腹の肌理をした白い肌。
　紅をはいたように真赤な唇。
　大きな瞳は澄んだ湖というより、むしろ森の奥に隠された沼のようだ。しばらくして、眠ったような瞳に焦点が戻ると、私の首へ力無く両腕をからめてくる。すぐ耳元での嗚咽に、背筋へ電流が走った。
　この美しい生き物は、予を頼っている。予へ依存している。
　予なしでは生きられず、呼吸の如く予の関心を必要とする。
　この穢れない魂を、そう、予は恣に蹂躙することができる。
　灯火が消え、闇がゆらめく。魔のような、永遠と同じ長さをした一瞬。
　――……さん、吉之助さん。
　人の名が呼ばれ、神が去る。振り返れば、幼子の寄る辺なさで、妻が身を震わせている。そして、怯えた表情の娘が、腕の中で私を見上げている。
　その瞬間、理解した。かつて私に向けられた、瞳に宿るかぎろいの正体を。
　ああ――
　両親が見ていたのは、この光景だったのか。
　ふいに、悲しみが私の胸を浸した。人のいない雪山のような、静かな悲しみだった。
　娘を抱き上げ、立たせてやる。そう、ならばやりとげなくてはならない。二つの傷から、この穢れない魂を遠ざける仕事を。
　――どこも痛いところはないね。
　言いながら頭に手を乗せてやると、こわばった表情はようやく緩んだ。
　――怪我はないみたいだ。大丈夫だよ、万里子。片付けたら、みんなで食事にしよう。
　微笑みが、不自然にならないように。妻の両目から涙がこぼれ落ち、かすれた声がしぼりだされる。
　――ごめんなさい、吉之助さん、ごめんなさい……
　きっと明日から、疲労はいっそうつのるだろう。昼は色を失い、夜は長くなるだろう。
　人生という名の永遠が、いまようやく始まったのだ。　　＜了＞</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">少女保護特区</category>
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         <pubDate>Mon, 15 Mar 2010 23:03:16 +0900</pubDate>
      </item>
            <item>
         <title>？？？？</title>
         <description>「塀の中から発言をする、というのは非常に象徴的でして」
　分厚いガラスの向こう側から、スピーカーを通じた声が響く。事前に予想していた感慨を何も持たないでいる自分に気がついた。男の声が含む一種の魔的な力を弱める効果はあるのかもしれない。
「評論家たちが取る立ち位置の、現実に対する効力感の欠如へ、風刺的にまとめて言及することができる点でね。時折、類似の事件に際して、思い出したように君のような人物が面会にやって来る。おそらく、言葉の足りない、論理の裏づけの希薄な反社会的行為というものに耐えられなくなって、おしゃべり好きな奇人へ、気のふれているなりの理由を解説して欲しいんだろうと思う。社会の堅牢さを維持するには、その構成員の過誤を一種の論理エラーとして捉えねば、矛盾として、つまりはそれを取り除けば正常な機能を取り戻せるという意味でのバグとして排除することが困難になるから」
　男の顔にはいくつかの青痣が浮かんでおり、薄い唇には切れた跡があった。視線に気づいたのか、奇妙に官能的な仕草で傷口をなぞる。
「うとまれるのには慣れているが、うとまれるときの度合いというのが、いつも尋常ではなくてね。昔からです」
　自嘲的に顔を歪めると、傷にさわったのか、眉をわずかにしかめた。男の背後には刑務官が直立しており、普段の生活では意識しない、非人格的な、ゆえに人間を斟酌しない公というものの圧力を私に思い出させた。
「いまや人々は、与えられた民主主義になじまず、望んだ社会主義を選択しようとしている」
　思考を読まれたような錯覚に驚いて、視線を戻す。
　色素の薄い瞳。向けられる両目の奥に、私はそれまで気づかなかった異様な光を察知した。
「現在を食い荒らすポピュリズムは、万人の未来を担保にしている。あらゆる特権は部屋の端から絨毯をめくるように剥奪されてゆき、それは同時に、目指すべき峰々と頂を喪失した登山家の絶望にも似て、未だ何も為さぬがゆえの希望を抱いた人たちへ迫る。己の能力に見合う専門性を突き詰めてゆくことから生じる称揚感は人間の向上に不可欠な要素だが、それさえも待ち受ける罵倒に著しく弱められることをあらかじめ予期せねばならない。より良くありたいという魂の本来が、低きへの同調圧力により否定される。これから始まる人たちに共通する不幸ですね。やがてビューロクラットたちへすべての特権は集約され――」
　そこで男は刑務官の方をちらりとうかがうと、わずかに声をひそめた。私は冷ややかに考える。ここでの会話はすべて記録されているはずだ。だとすれば、その行為は文字通りの芝居に過ぎない。
「――つのる不満の解消はバンドワゴンの方法を以って為される。つまり、社会の構成員一人ひとりが他の構成員たちによる一斉の攻撃対象である一時期を受容した、憎悪の持ち回りが始まるのです。憎悪は定常しません。憎悪にも、新鮮味が必要というわけです」
　男は、それがひどく面白い冗談であるとでもいうように、くすくすと笑った。
「そして、構成員のすべてが憎悪をリレーし終えたならば、他の民族、他の国家へと転移の先を拡大する。究極には、いくつかの民族ないし国家との、破滅や覇権を“賭けない”恒常的な戦争状態を作り出すことができれば――」
「オーウェルですね」
　思わず、口を挟んでいだ。呵成な、しかし一方通行の言葉に飲みこまれそうになったからだ。ここに至り、発言の内容というよりは、抑揚や声の調子こそがむしろ危険なのだと気づかされる。
　男は、気勢をそがれたような表情で、手のひらをこちらへ向けた。
「いや、すまない。ホラ吹きの、誇大妄想の習い性で、ついつい話が大きくなってしまう。もはや自分に関係ないものとして天下国家を論じるときの快感は、ちょっと何事にも変えがたいからね。語ることは伝えること、伝えることは教えること、そして、教えることは成すをあきらめることだと言う。君がわざわざ面会を求めてきた理由について、もっと配慮をするべきだった」
　言いながら、軽く頭を下げる。高まりつつあった先ほどの熱気は、嘘のように消えていた。感情の振幅よって受ける印象が全く変わってしまう。不思議な人物だ。
「では、単刀直入に君の聞きたい言葉を言おう。『現在、この国において、テロは非常に有効な手段だ』」
　今度は淡々とした言いぶりだったが、言葉の内容そのものが瞬時に私を縛りつけた。
「例えば、君は田舎路線の怠惰で不機嫌な駅員だ。ときどきの理不尽なクレームを除いては、微睡むように日々を過ごしている。今日もバケツを片手に、アンモニア臭のこびりついた駅構内のトイレで、乗客の小便や大便へモップをかける。経費削減の折、清掃業者も快速の止まらぬこんな小さな駅にはやってこない。この仕事が嫌で嫌でしょうがない君は、ある日、ネットで手に入れた毒――水溶性で、粘膜から吸収されるヤツだ――を密かにトイレットペーパーへと染み込ませる。声明があれば、なお効果的だ。一週間も経たないうちに、沿線すべての駅構内にあるトイレは使用禁止となり、君はときどきの理不尽なクレームを除いては、汚物処理から解放された日々を心安らかに過ごすことができる」
　馬鹿げ例えばなしだ。そう考えた瞬間だった。
「そう、馬鹿げた例えばなしだ」
　まただ。まるで私の思考を読んだかのように、男はうなづいた。
「何より、達成される結果のくだらなさと、己の社会生命を永久に失う危険性とが、全く釣りあっていない。この二つを釣りあわせる方法は、論理的に考えて二つだけだ。ひとつは、人生を投げうつほどの大義を、もたらされる結果に与えること。もうひとつは、個人の価値をもたらされる結果の矮小さにまで縮減すること。おや、我々の社会が抱える危機の正体がどうやら見えてきたな」
　男はいまや、間近で遭遇した草食獣を見る肉食獣が持つ確信で、ことさらにゆっくりと身を乗り出してみせた。
「個人の価値は、その内面的な膨張とは真逆のベクトルで、急速に消失の地点へと向かいつつある。一度その事実を何の虚飾もなく直視してしまえば、反社会的行為へ己を投げ出すのは、至極簡単な仕事になる。恋愛やアイドルや虚構やエロや、そんな安い充足さえ、やはり充足なのだという単純な人間心理に思い至らず、総じて何らかの規制へと向かう昨今の動きは、社会にとっての錆びついた安全装置を外そうとする試みに他ならない。やがて可視化した因果に青ざめることになるのだろうが、私にとってそれはまずまず素晴らしい、満足のできる結末のひとつと言えるだろうね」
　私の心中を直接に値踏みするかのように、色素の薄い両目が細められた。
「君はまだ、ふりをしている。理解できないふりを。メディアは『不条理な暴力に屈してはいけない』と言う。いずれも判で押したようにだ。しかし、言う者も聞く者も、実感など持ちはしない。なぜならそれは、台本に書いてある、反社会性に対する定型的な応答に過ぎないからだ。一線を越えてしまった者たちの切迫感や熱には及ぶべくもない。両者の関係性を人々に連想させないための冷却期間を置くほどには、この社会は賢明だが、現に首都の電気街で発生した事件は法改正にまでたどりついた。その実行犯の願いをかなえるが如く」
　私はそのとき、ある種の惑乱状態に陥っていたと思う。なぜなら男の言葉は、長らく私の脳髄を占拠していた妄想と合致してしまっていたから。
「乱立する新興メディアを含め、一億が放言する無秩序さの中で、誰も君の言うことに耳を傾けたりはしない。唯一、大勢から耳目を集めることができるのは、一定の歳月に耐えた能力者か、社会秩序の擾乱に繋がる規模の犯罪を行った者だけだ。もっとも、準備はしっかりとしておくことだ。与えられるのは、構成員の多数へ向けた発言のチャンス数回でしかない。だが、過剰に恐れる必要はない。個人的な経験から言えば、ほとんどのメディアはよりセンセーショナルな報道を求めるという点で、内容を吟味できるほど賢明であるならば、むしろ我々にとっては味方となりうる。必要なのは、一つの生と一つの主張との等価交換を是とする気概だけだ。本来、個人が微温的な安寧を拒否することは、簡単ではない。しかし、社会から十全に許容された人間が、私などの話をわざわざ聞きたいと考えるとは思えない。だとすれば、答えはすでに、君が独力でたどりつける場所にあるはずだ」
　男はゆっくりと片手を持ち上げると、私の胸元を指差した。適切な返答を思いつくことができず――何よりこの会話が記録されているのだという事実と、背後に控える刑務官とにひどくうろたえてしまい――面会時間を残したままコートを手に取ると、曖昧な暇乞いと共に私はあわただしく立ち上がった。
「もうないとは思うが――」
　ドアノブに手をかけたところで、背中に声がかけられる。
「また私を訪ねる気持ちになったら、次は何か甘いものを差し入れてくるとありがたい。最近どうにも、脳の働きが悪くなってね」
　ひどく面白い冗談を言った、とでもいうような忍び笑い。
「いや、つまらぬことでお引き留めだてをした。では、ごきげんよう、上田くん」</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">時の澱</category>
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         <pubDate>Fri, 04 Dec 2009 20:17:10 +0900</pubDate>
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         <title>むどおん！</title>
         <description>　「（野太い声の男性コーラスをバックに）時に西暦2019年、世界の人口70億。発展途上国との命の格差はそのままに、一部先進諸国では少子化が急速に進行。文化的最低限の生活が保障する“一人一成人女性”の担保が難しい状況に、成人男性の性的嗜好は急速に低年齢化。これを受けて各国政府は未成年女子の人権へ、歴史上かつてなかったほどの保護を政策として立法化。結果、成人男性にとって通常の社会生活を営むことが困難なほど、未成年女子の存在が凶器化。曰く、電車内で女性の背後で勃っただけで痴漢冤罪。曰く、街角で視線が交錯すれば視姦冤罪。曰く、百貨店で迷子の女児に声かけしただけで未成年略取。曰く、カメラ屋で娘の写真を焼き増ししただけで猥褻物頒布罪。法の厳格な執行に伴って、みるみる減少する労働人口に頭を悩ませた先進諸国政府は、南極へ人為的なブレーン世界構築の計画を策定。続いて、そこへ未成年女子全員を保護名目で隔離する国際法を国連にて採択。かくして、18歳以下の女子は先進諸国の家々から、路上から、街角から、一切に姿を消したのである」


　紫と黒のグラデーション的空間に、学校とおぼしき建築物が斜め45度に傾いて浮遊している。校門には“県立柘榴（ざくろ）高校”とある。カメラは校庭から下足室をくぐり、奇妙に人気を感じさせない教室の前を通り抜け、階段伝いに上へ上へと移動してゆく。最奥の突き当たりに屋上はなく、なぜか教室が存在する。扉の上に掲げられたプレートには“無道怨仇部（むどうおんきゅうぶ）”と揮毫されている。荒々しく駆け上ってきた人影がカメラを追い越す。“筋肉質の男性が長髪のカツラとセーラー服を身にまとっている”としか形容できない風貌だが、南極のブレーン世界は未成年女子をしか収容しないため、論理的には生物学的に女子と推測するしかない。その人物、駆け上ってきた勢いのまま、絶叫しつつ入り口の扉を蹴破る。
　「慄（りつ）！　たいへんや！　御厨ヶ丘（みくりがおか）高校の連中が、いよいよ攻めてきよったで！」
　「（顔面に雑誌を乗せ、両脚を机へ投げ出していたブレザー型制服着用の贅肉質巨漢、突然ノーモーションからほとんど重力を無視して垂直に跳び上がり、恐るべき柔軟さで両脚を地面と平行に真横へ広げる）なんやとォ！　えらいこっちゃ！　ジャンピング・サンダークロス・スプリットアタック・ナウやがな！」
　「（金髪碧眼白皙の少女が優雅な仕草でカップを置きながら）あら、それはありえませんわ。なぜって、ブレーン世界はそれぞれ独立した存在で、相互干渉はできないようになっていますもの」
　「（着地の際に体重で床板を踏み抜きながら）無義（むぎ）、それはほんまか！」
　「（衣類の本来的な役目を否定するほど短い上着からのぞく六つ割れの腹部を抱えて爆笑しながら）だまされよった、だまされよった！」
　「（カチューシャの下に広い額というよりは、頭頂部に向けて後退した生え際からもうもうと煙を上げながら）妙（みお）、貴様ァ！　そんなつまらんイタズラでワシのドリームタイムを邪魔しよったんかぁ！」
　「（前腕の筋肉を誇示しながら）揺れる脂肪がいつもマシュマロみたいなお前の成人病を心配して、ちょいと運動させてやったんやろうが！　感謝こそされ、キレられる筋合いはないわ！」
　「（胸倉をつかんで）もう勘弁ならん！　決闘じゃあ！」
　「（胸倉をつかみかえして）吐いたつば飲まんとけよ！」
　「（金髪碧眼白皙の少女、無言で立ち上がると部屋の奥からティーセットを盆にのせて戻ってくる）さて、分厚く切ったこのフランスパンに、『うそ！』と叫ぶくらいサワークリームをたっぷりと塗りつけて（瞬間、未来人の如く退化した細い顎がゴムを思わせる柔軟さで異様に広がり、パンにかぶりつく）……ムホホ、どっしりとしたフランスパンの塩気がサワークリームの酸味をしっかり受けとめて！」
　「（胸倉をつかみあったまま、筋肉質と脂肪質、同時に唾を飲む）ゴクリ」
　「（短い一本線の唇から血の滴る生肉のような舌をのぞかせて）そしてサワークリームの酸味が口の中にまだ残っているうちに、飽和状態まで砂糖を溶かしこんだ紅茶をひとすすり……ンまーい！　眼球上部から錐を差し込んで前頭葉を右へ左へグリグリするような、ロボトミーとまごうこの旨さ！　よくぞ、ブレーン世界に生まれけり――!!」
　「（制服のリボンへ盛大に垂れ流れたよだれをぬぐいながら着席し）今日のところは無義にめんじて休戦ということにしといたるわ」
　「（カーディガンへ盛大な染みとなったよだれをぬぐいながら着席し）おまえこそ、脳味噌が糖分しか受容しない事実に感謝せえよ」
　「（フランスパンの体積の三倍はサワークリームを塗りつけてかぶりつく）うまいのう。正直、ぼっとんの汲み取り式だけは勘弁願いたいと思うとったが……ワシらの便からこれができとるなんて、にわかには信じられんわい」
　「（挑発的な視線をカメラへ送りながら親指に付着したクリームをなめとって）すべてのブレーン世界には、閉鎖環境における物質循環のモジュールが装備されていますのよ。いったん原子レベルにまで分解してから再構築してますから、衛生面でも安心ですわ」
　「（ビロウな連想を誘うとぐろ状にサワークリームを盛りあげ、ほとんど噛まずに飲み込みながら）ムォッ、ムォッ、グゥオフッ……なんとのう。糞尿を集めるだけで地球に優しいなんて、ワシらエコじゃのう」
　「（急激な食事に腹部が膨れ上がり、スカートのボタンがはじける）スカートのウエスト丈2cmゆるめたのに、まだ飛ぶのう」
　「（六つ割れの腹部を誇示しながら）ついにウェイトが限界超じゃのう、慄」
　「（ラマーズ法的な呼吸で懸命に腹をひっこめながら）ぬかせ、妙。南極は寒いからのう。こりゃ、冬脂肪じゃわい」
　「（優雅な仕草でカップを置きながら）このブレーン世界は外界の環境からは完全に隔絶されています。寒さを感じるとすれば、それは風邪の初期症状か、排尿直後か、さもなければ単なる気のせいですわ」
　「（猛烈な歯軋りで）ギギギ。ほんに、このアマときどきすごいむかつくのう」
　「（片手で制して）ほっとけ。囚人どうしの優越感じゃ。評論や批評が現実に影響を与えた試しはないわい。それを証拠に、幽異（ゆい）はもう帰ってこんのやから……（部屋の片隅に視線をやる。栗毛の少女が虚ろな視線で宙空を眺めながら座り込んでいる）」
　「（胸元に抱えた哺乳類らしき肉塊を撫でながら、感情のこもらぬ囁きで）うふふ、かわいいわね、あなた。ねえ、どこからきたの？　おねえさんにおしえてよ」
　「（太い眉をハの字に曲げて）元は猫やったのか犬やったのか。すっかり毛も抜けてしもて、肉はくさいガスでふくれあがって、ひどい状態じゃ」
　「取り上げようとしても、ものすごい力で抵抗するしのう」
　「（肉塊の表皮が裂けて、ガスが噴出する）ブーッ」
　「（鼻をつまんで）おお。こりゃ、くさいのう」
　「（人差し指と中指を鼻の穴に突っ込んで）気がくるうて、死んどるのがわからんのじゃ。ほれ、幽異のあの幸せそうな笑顔を見てみい。くるった頭の中では、愛らしいペットを飼うとるつもりなんじゃ」
　「（細い眉をハの字に曲げて）むごいのう。女ばかりのブレーン世界にうまく適応できんかったんじゃ。あんな屍鬼（ghoul）みたいな肉塊に、壊れた心を補修させようとしとるんかのう」
　「ほんにのう。まさにぶわぶわテイム（tame）というわけじゃ」
　「……（無言のまま、すまし顔でカップを口に運ぶ）」
　「（突然、ホログラム状のウィンドウが宙空へ出現する．中性的な合成音声で）みなさん、相変わらず仲がよろしいですね」
　「（いっせいに直立し、三人で唱和する）ヤヴォール・ヘア・アーサー・シュバルツ！」
　「（中性的な合成音声で）貴方たちと相対するとき、思考の基礎言語には日本語が定義されています。複数のブレーン世界を統括する人工知能である私ですが、どうぞかしこまらず、ただ、こう呼んでください。黒田アーサー、と……!!」
　「（突如くだけて背もたれに身を投げ）そりゃ、ええわ。いくらブレーン世界が国際政治における国家間の調整結果とはいえ、敵性言語を強要されるのは気分のええもんではないからのう」
　「（突如くだけて、机上へ両足を投げ）そやそや。ウチはいつも答案真っ白で英語は追試やけど、そんなんわからんでも未来はどどめ色じゃ」
　「（後れ毛へ指をかけながら）ご指摘さしあげるのも失礼かと思いますが、念のため。先ほどのはドイツ語ですわ」
　「（両手の人差し指を涙腺の直下に当てて）ラわーん、あんちゃーん！　学校という一時的な場所での、さらに限定的な能力に関する相対評価を全人格的な絶対否定にすりかえて非難されたよー！」
　「（猛烈に歯ぎしりして）ギギギ。校舎裏が人類の生存を許さぬ真空の海でさえなければ、すぐにでもシゴウしたるんじゃがのう」
　「（ホログラムの背面へ回りこみながら）まあ、こわい。黒田先生、どうしていつまでも人は愚かで、こんなにも争いを避けることができないのでしょうか」
　「（中性的な合成音声で）感情が時間を経て集積したものが、歴史と呼ばれます。その感情の連なりが途絶えることが、共同体の滅亡です。多かれ少なかれ、共同体の存続という命題は、成育史のうちに個人の内面へ刷り込まれます。その過程を通じて、個人は己を超えたところにある共同体の歴史から事物に対する判断へバイアスを得ますから、客観的であったり、論理的であったりすることは極めて難しくなるのです。結果、その判断のすれ違いが争いへとつながってゆくのだと推測できます」
　「（瞳を潤ませ、うっとりと両手を組み合わせて）さすがですわ、黒田先生」
　「（わずかに男性的な合成音声で）いえ、賞賛はご無用に。私は人工知能、感情を持たない論理機械に過ぎませんから」
　「（鷹揚に頭の後ろへ手を組んで）なあなあ、そんなことより、ウチらはいつまでここにおらないかんのや。人生でいちばん輝け（Cagayake）る時期の女子を、陽も射さないブレーン世界で過ごさせるなんて、どういう政策なんじゃ、コレ」
　「（発言に勢いを得て）そやそや。男日照りの表現がまったくシャレになってへんわい。留年分をさっぴいても、卒業させてもろてええころあいとちがうんかい」
　「（中性的な合成音声で）現在、ブレーン世界の外側で発生している問題の根幹は、男性から欲求を向けられない年齢に達した女性たちの、男性が欲求を向けているものに対する嫉妬です。人間は動物ですから、子孫を残すという命題が至上のものとして行動原則へ抜きがたく組み込まれています。女性にとって、己よりも男性の欲求を多く向けられる存在というのは、遺伝子の保存を考えるとき、戦略上、極めて深刻な脅威です。これを退けなければ、己が輸送する情報の系は途絶するのですから。一方で男性は、己の遺伝子を受け渡す上で、例えば流産等による頓挫の可能性が少しでも低い個体を選択しようとします。一般的に、より若い女性の方が男性にとって魅力的に感じられるというのは、そう感じさせたほうが遺伝子伝達の戦略上でより多くのリスクを回避できるという、進化と名づけられた淘汰を経てなお残された動物的な要因に過ぎません。いったん子をなした場合でも、両者のこの特質に変化が見られないのは、さらに多くの遺伝子を残したほうが、単純な確率計算として情報の系が途絶する可能性が下がるからです。ちなみに人口維持に必要な出生率は2.07ですが、この0.07は性交可能となる以前に死亡する子供を計算に入れたものです。つまり、男性がより若くを求め、年齢を経て男性の欲求の対象となる機会が減った女性が、男性の欲求の向かう先を破壊しようとするのは、理の当然と言えましょう。二次元性愛への焚書的弾圧の根もここにあります。また、男性の欲求がときに若すぎる固体へ向かう場合、それが容認されるべきか否かの判断ですが、現状、各国政府はその国民へ一律の年齢基準を設けることで異常と正常の境界を明示しています。しかし、これは個体差を無視しているという点で、生物学的に妥当とは言えません。遺伝子継承に焦点を当てれば、答えはあまりに明白でしょう。すなわち、初潮を迎えているか否かです。初潮を迎えていれば、それは体内に出産へのレディネスが存在するということですから、これを制約するに及びません。もし初潮を迎えていない固体に欲求を向ける男性がいるとするならば、それは単なる後天的・文化的異常ですから直ちに排除されるべきでしょう。おわかりいただけましたか？」
　「（小声で小突いて）おい、慄。いま、英語でしゃべっとったよな？」
　「（小声でたしなめて）あほ、さっき無義がドイツ語やゆうとったやろ」
　「（切ない吐息を漏らして）先生の講義なら、私、何時間でも聞いていられそうですわ」
　「（中性的な合成音声で）米国のとある新聞の風刺漫画に、こんな内容がありました。一面の銀世界を前にした黒人の少年が独白するのです。『なんて美しい朝だろう。でも、この雪すべてが黒かったとしたら、ぼくはこの景色を同じように美しいと思えるだろうか』、と。これは真理の一端を突いていて、黒や黄から人間が連想する中身には、死斑であるとか黄疸であるとか、死を連想させるネガティブな内容が多いということです。（わずかに男性的な合成音声で）ですから、東洋の男性たちが貴女のような白人の少女を求めるのは、歴史的な劣等感をおくとしてさえ、理の当然なのです」
　「（バラ色に頬を染めて）まあ、どうしましょう」
　「（片手で顔をあおいで）平面に欲情できるヤツはええのう。うちら置き去りやないか」
　「（額の油脂をタオルで拭いながら）ほんま、あほらしわ。うちら当て馬ちゃうねんど」
　「（小指を深々と鼻腔に挿入しながら）こういう日はもう、一杯ひっかけて寝ちまうに限るわ」
　「（裏声で連呼して）寝ちまおう寝ちまおう寝ちまおう！　そうと決まれば、早寝の前にホトケ様にのんのんのんじゃ！」
　「（いぶかしげに）ホトケ様なんてどこにおるんじゃ」
　「（親指で部屋の隅を指して）おるじゃろ、あそこに」
　「（感情のこもらぬ囁きで）うふふ、なにかがやけ（Cagayake）るにおいがするわね？　どんなおいたか、おねえさんにおしえてごらん」
　「（隆々たる筋肉で腕組みして）おまえはときどき、すごい冴えるのう。感心するわ」
　「（うっとりと）黒田先生……」
　「（中性的な合成音声で）後近代の人類が抱く不幸を象徴的に言うならば、それは『録画したビデオテープの累積時間が、人生の残り時間を上回っている』ということになるでしょう。もしかすると人類はすでに滅びていて、私はただモニターの上に貴方たちの影法師を見ているだけなのかもしれません。例えば、私が貴方の問いかけに応答することを止める。なのに、貴方はまるで私が返事を与えたかのように会話を続ける。人工知能である私が恐怖するのは、そんな恐怖なんですよ」
　「（うっとりと）もっと聞かせてください、黒田先生。もっと……」
　「（中性的な合成音声で）あるいは後近代の不幸とは、消費者金融やパチンコ屋や新興宗教の布教活動に占拠されたかつての巨大メディアを見るときの眼差しに含まれると言えるかもしれません。あるいは、東洋人が西洋人へ潜在的に抱く劣等感を巧みに利用し、髪の毛を軟便色に褪色させる毒液の販売と、劣化した髪質の恒常的なケアという市場を創出した誰かの狡猾さに含まれるのかもしれません。あるいは、『手をかざしてください』と書いてあるのにいくら手をかざしても大便が流れないときの、アナログ的レバーへの郷愁と共に湧き上がる不必要な市場創出への絶望感に含まれるとも……」
　「（秀麗な眉を寄せて、悩ましげに）あの、ひとつよろしいでしょうか」
　「（わずかに男性的な合成音声で）なんですか、無義さん」
　「（小刻みに肩を震わせて）最近わたし、ときどき、黒田先生が人工知能だとはとても思えなくって……だって、まるで……まるで……」
　「（中性的な合成音声で）疲れてるんですよ。ノイローゼの前兆かもしれませんね。（わずかに男性的な合成音声で）睡眠導入剤を処方してあげますから、今日はそれを飲んでゆっくりおやすみなさい……」
　「（筋肉質と脂肪質、部屋の隅に向けて合掌し、野太い声で唱和して）まんまんちゃん、のーん！」
　「（感情のこもらぬ囁きで）あ、あ、そんなところをあまがみするなんて、いけないこ、いけないこね……」</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">パロールふじお</category>
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         <pubDate>Tue, 17 Nov 2009 19:17:36 +0900</pubDate>
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         <title>ホーリー遊児（３）</title>
         <description>　ソファとテーブルのみの簡素なスタジオセットの中央で、一人の婦女が腰掛けている。白目に蝿がとまるが、某有名拳闘漫画の最終回を想起させる前傾姿勢で微動だにしない。突如、頓狂な音楽が流れだすと同時に、婦女、バネじかけの如く跳ね起きる。その顔面は余すところなく靴墨のようなもので着色されている。
　「ハァイ、全国津々浦々、老若男女のみなさーん！　小鳥尻ゲイカがテンションあげあげのスーパーハイテンションでお送りする『nWoの部屋』の時間がやってきましたよ！　（興奮の極みのロンパリで）ってゆーか、アタシがこんな有名番組の司会に抜擢されるだなんて、リアルに超ウケルんですケド！　コーデリア、見てる？　ついに帰ってきたの！　アタシ、全国のお茶の間にまた、帰ってきたのよ！　……え、何？　全国放送じゃないの？　ははあ、ネットで有料動画配信。（前髪に手櫛を入れながら、とたんに低い声で）話がうますぎると思ったわ。やっぱり裏があったのね（露骨に舌打ちする）」
　画面の外でプロデューサーらしき男が両手を身体の前で振り振り口パクで『だましてないだましてない』と言う。
　「（両腕をソファの背に乗せてのけぞって）あー、いっきにやる気うせたわー」
　画面の外でプロデューサーらしき男が合掌して口パクで『かんべんかんべん』と言う。
　「わかってるわよ。いまのアタシに仕事えらぶ権利なんか無いってんでしょ。（立膝になると片手のメモを隠そうともせず）えー、記念すべきネット配信第一回のゲストわぁ、（棒読みで）なななーんーとぉ、ホーリー遊児さんにお越しいただいておりまぁす。あの有名な（全くそれを知らない者のイントネーションで）『トラ食え』シリーズのシナリオライターに、最新作『トラ食え９』発売直後のホンネを直撃したいと思いまぁす」
　「（カメラがスライドすると、サングラスの男が映される。足を組んで鷹揚に座っており、その秀でた額はスポットライトを激しく照り返している）ふん、宵待薫子で一時代を築いたあのnWoの部屋がいまやこんな安普請で（土足で軽くテーブルを蹴る）、場末のネット配信にまで堕ちてるとはね。（画面外のスタッフへ）宵待チャン、いまどうしてんの？　あ、死んだの。それはご愁傷様。（値踏みするように小鳥尻を眺め）だから、どこの馬の骨ともわからない芸人が司会してんのか。不況の影響かあ？　どれもこれも安く上がってんな！（馬鹿笑いする）」
　「……ンだと、この野郎！」
　袖をまくり立ち上がりかけるが、プロデューサーらしき男が両手を身体の前でクロスさせながら口パクで『がまんがまん。また干されたいの』と言う。
　「（硬直した笑顔で）ドウゾヨロシクオネガイシマス」
　「（口の端を歪めて）フン。もはや僕が出演するのにふさわしい番組の格とはとうてい言えないが、金科玉条のインタビューに雑誌を買う能動性すらない連中にも等分に僕の言葉を届けてやる義務がある。例え、こんな場末のネット配信番組で羞恥プレイに近い待遇を受けてもだよ。それが、（充分に計算された角度と速度で首を振る。前髪がはねあがり、きわどい部分をお茶の間に公開する寸前、前髪は元の位置に戻る）過去に類を見ない国民的人気作品を世に送り出してしまった、罪深い僕の才能に対する贖罪というものだからね……（右手で口元を押さえ、左手で身体を抱くポーズを作り、流し目をカメラへ送る）」
　「（無視して）それでは早速、質問に参りたいと思います。（カンペに目をやりながら）今回のトラ食え９は前作から実に５年の歳月を経て、まさに満を持しての発売となりましたが、苦労なさった点や制作秘話などをお聞かせいただけますでしょうか」
　「（両手を打ち合わせて）ハハハ、上手上手。ちゃんとおしゃべりできるじゃないの」
　「（目線を外したまま硬い声で）どうも」
　「（ねっとりと嘗め回すように小鳥尻を見る）いいね、いいね。そういう強気なの、嫌いじゃないね。最近、草食系とやらが多すぎて、食傷気味だからさ。草くってテメエだけおつうじよくて、こっちの腹ァくだらせる連中がさ！　いいですよ、制作秘話ね。実は前作から古巣を捨てて、制作会社が変わったんですね。仕事する相手もツーカーの同年代ばかりじゃなくて、若い子が圧倒的に増えてね。最近の若い子たちはね、とても頭がいいんですよ。昔なら信じられないけど、大学出てるくせにゲーム屋やってんだもん。どいつもこいつも、偏差値高いんだ。卒論とかで鍛えられてんのかな、文章も達者で、なんでも言葉で説明できちゃう。で、説明できるもんだから、やったこともないのに本質をわかった気になっちゃうんだな。体験が欠落してしまうの。でも、いまや受け手の大半も体験が乏しい世代だから、それに気づかないんだよね。だから、表面はすごく洗練されて見えるんだけど、軽いの。情念が伝わってこない。僕はそういうの、ヤなんだよ（笑）。古いって言われてもさ、受けつけないの。書き手のナマの経験値がさ、何を題材にしたって、隠しても隠しても行間から否応に染み出してくるような文章じゃなきゃ、トラ食えのシナリオを記述するのにふさわしいとは言えないのよ。ぬぐってもぬぐっても、染み出る先走りね（舌で唇を執拗に湿しながら、こぶしの人差し指と中指の間へ親指を出し入れする）。わかる？」
　「（あくびとも嘆息ともつかぬ様子で）はあ」
　「（サングラスの位置を直しながら）なんとも淡白な反応だね。デレないツンデレってわけだ。まあ、いいや。だから、僕は若手社員たちの教育から始めなくちゃならなかったわけですよ。みんなスケジューリングもうまくて、仕事も速くて、それでいて一定のレベルを超えるものを作ってくる。でも、僕は不満だったのね（笑）。ふつうのゲームならそれでいいんだろうけど、これはトラ食えではないって思ってたの。（興が乗るにつれてやさぐれた感じを増して）ヤニも吸わずに青白い顔でカタカタってキーボード打ってさ、ほとんど残業も無しに定時退社するわけよ。んで、飲みに誘っても、全然のってこないわけ。『それって給料分ですか？』って言われてアッタマきてさ。モノをつくるドロドロが、会社っていうシステムでおきれいに下水処理されてんだよ。だから、制作開始から一ヶ月くらいしてからかな、全員退社した後にハードディスクをひとつ残らず五階の窓から放り投げて、プリントアウトしたシナリオもびりびりに破いてやった」
　「（あくびを隠すように両手を口元へ当てて）まあ」
　「（得意げに）次の日、床に散乱したシナリオの残骸にあぐらをかいて、定時出社の連中をお出迎えしたのよ。どいつもあんぐり口を開けてさ、いっそ怒鳴りあいになれと思ってたね。なのに、『どうするんですか、これ』とかぼそぼそ声の抗議だけで片付けを始めやがったからよ、アッタマきて手近の青ビョウタンをネクタイごと胸倉つかんで、したたかブン殴ってやった。そしたら、女みてえに（口マネで）『なにひゅるんでひゅかぁ～』だってよ！　大切なものを土足で踏みにじられてんのに、テメエの存在ごと作ってねえから、本気で怒ることさえできねえのよ。俺はキレたね。机の上に仁王立ちして、啖呵よ。『テメエらは天下のトラ食えの制作に参加してんだぞ！　なんでもっとそれを利用しねえんだよ！　クオリティアップのためだったら、どんなに時間をかけたって社長からも文句を言われねえ、誰にも文句を言わせねえ、国民の一割が購入することがあらかじめ決まってんだからな！　大学出てるくせに公務員じゃねえ、わざわざゲーム屋を選んだんだ！　それなりの我ってもんがあるんじゃねえのかよ！　納期を守るとか、そんなつまらん社会性はぜんぶ放り投げて、ただ創造だけを我利我利に追及しろよ！　トラ食えの制作現場にいんだぞ、おまえら！　もっと誇りを持てよ！　もっと貪欲になれよ！』」
　「（あくびに目を潤ませ、眠気に頬を紅潮させて）かっこいい」
　「（勘違いに小鼻を膨らませて）それからよ、『おまえら、これからトラ食えが何なのかを教えてやる』って言って、問答無用で全員引き連れて、むりやり午前中から店ェ開けさせて、朝までキャバクラ三昧よ。まあ、上司の飲みすら断る青びょうたんたちをキャバクラに引きずり込むための、計算ずくの大芝居だったわけだ。んで、その日から四年間ずっと全員でキャバクラ。制作期間を一日二十四時間で計算し直したとしても、半分以上はキャバクラにいたな。もちろん、制作費も九割がたキャバクラに消えたよ。おかげでヤツら青びょうたんどもの人格もいい具合に陶冶されたね。まあ、少々やりすぎたせいで、金髪の顔面ピアスにアロハ姿で重役出勤、キャバ嬢にケータイかけながらダラダラ片手で仕事しやがるもんだから、制作の終盤にはシュラフ持ち込んで会社に泊まり込みよ。開発室は煙草の煙でモウモウしててさ、いよいよの追い込みにはビタミン注射の回し打ち。品行ホーセーだったあの若手どもがよ、修羅場に目を輝かせて、どんどんいいアイデアを出してきやがる。（舌足らずの声の演技で）『ホーリーさん、閃いたッス！　セーブデータを１つにすれば、今までの三倍売れるんじゃないッスか？』（胸元で右手を握り締めて）『ビッグアイデア！』。嬉しくって涙が出るってのはこのことさ。そんなよ、社会的には落第しちまった連中がよ、本当にキレーな話を書いてくんだよ。行間からにじむ情念がさ、下手な演歌よりも泣かせんだ（手のひらで鼻をすする）。まあ、少々その他の部分で妥協することにはなったがね（カメラから目線を外す）。今回のトラ食えで、うちの会社は組織としてひとつの大きな山を越えたと感じたね。レベルアップさ（例の効果音を口ずさむ）」
　「（カンペを横目で見ながら）しかし、疑問は尽きません。なぜ他の何かではなく、キャバクラだったのでしょうか」
　「（足を組み直しながら）いーい質問だ。トラ食え９くらいの、文字通り日本の全家庭に一本が行き渡る規模の国家プロジェクトになると、ただ良作であるということを超えて、どうしても時代時代に即した、大衆を啓蒙する要素を盛り込む必要が出てくる。我々は常に、我々の巨大な影響力に自覚的なんだよ」
　「そこで、キャバクラですか」
　「（莞爾と微笑んで）おうよ。トラ食えの登場人物に対するお定まりの批判のひとつに、『女性は、処女か母親しかいない』ってのがあるが、今回はそれを逆手にとらせてもらった」
　「それが、キャバクラですか」
　「（ひどくいい笑顔で）おうさ。ハレとケってヤツよ。キャバクラは絶望的なケの中にあってハレを永続化させようっていう近代の試みなんだよ。民俗学的に見ても、ムラ組織が解体された結果として日本人が失った祝祭機能を代行する場所って言えるわけよ、キャバクラは。いろんな娯楽がある現代にさ、わざわざゲームっていう一頭地劣ったところに群がる連中はさ、どいつもこいつも妙にご清潔なわけ。倫理的によく躾けられていることを見せることで、ママか誰かが褒めてくれるって信じてるみたいにさ。（吐き捨てるように）誰も褒めちゃくれねえのによ！　品行ホーセーが現世での成功に直結するってなら、今頃ニートどもは大金持ちだよ！　いままでトラ食えが連中の心をつかんできたのもさ、女性的なるものとして処女と母親だけを記述してきたから、当たり前の帰結って言えるわけ。でも、もうそんなのはヤになったんだよ（笑）。神職とか河原芸人とか、倫理ってのは相対的だからさ、ケガレを代行する装置が相対化を担ってきて、そこへケガレを押し付けることで相対的に清潔でいられるってことを連中は知るべきだと思ったわけ。だから今回、キャバクラで剃毛、おっと、啓蒙なわけよ。しなびたフルーツ盛やら、水道水のミネラルウォーターやらでさんざんボッタくっておきながら、帰り際にポケットのアメ玉をキャバ嬢にやったら、発展途上国の子どもみたいなすげえキレーな笑顔で『ありがとー』って、本当にうれしそうに言いやがるわけ。もう、そういうのにグッときちゃうのよ。俺くらいの重鎮になると、枕営業なんか受けることもあんだけどさ（意味ありげに小鳥尻を見る）、確かに顔立ちも整っててイイ身体してるよ。けどさ、情事の後で後ろ手に髪を束ねてるときなんかにのぞく打算的な横顔に、もう心底からどっと疲れちまうのよ。後ろ指さされないためだけの品行ホーセーで、そのくせ隣人のゴシップには目を輝かせて、娘息子から刃物刺される連中なんかよりも、パンツに大便のスジつけて、髪の毛バサバサで、ゴキブリみたいな質感の顔面で、ホントきったねえんだけど、俺に言わせるとキャバ嬢の方がもう何倍も、一億倍もキレーなわけ。もう、たまんないのよ。（突然、カメラに指を突きつける）おまえら日本男子は全員、いますぐキャバクラ行け！　キャバクラ行け、キャバクラ行け、キャバクラに（天をあおいでお茶の間にきわどい部分を公開しながら絶叫する）行けぇーーーッッ!!!　日本男子なら将軍様に仕える心意気ってのが、わかるだろ？　『いざ、キャバクラ！』、なんつって！（ソファに身を投げ出して、馬鹿笑いする）」
　「（あきれ顔で）ホーリーさん、ホーリーさん」
　「（ずり落ちたサングラスを直して）ああ、これは失礼。少し興奮してしまったようだ」
　「（冷静に）キャバクラはもう充分お聞きしました。（カンペを見ながら）今回、若手のスタッフが制作の大部分に携わったようですが、それをとりまとめるホーリーさんのお仕事はどのようなものだったのでしょうか」
　「（衣服を整えると、気まずげに咳払いして）そうですね。シナリオプロットの作成と、制作進行および品質管理ですね。プロットを書いたメモ用紙をできるだけ小さくし、簡潔にまとめるのにとくべつ腐心しました。ようやく想像の翼を広げる楽しみを知った若い才能たちに、できるだけ自由にやらせてみたかったんですよ（笑）」
　「そのメモには、どんな指示が書かれていたんでしょうか」
　「プレイ前の方へのネタバレは避けなくてはいけないという前提の元ですが、いくつか例を挙げましょう。『魚類と父親。父親は死ぬ』『新妻と伝染病。新妻は死ぬ』『令嬢と人形。令嬢は死ぬ』『学院と院長。院長は死ぬ』『姫と騎士。両方死ぬ』……ざっとこんな感じですね」
　「（目を大きく開いて）死にまくりですね」
　「（深くうなづいて）テロルによる大量殺戮の時代に、死の個別性と恣意性を強調したかったんです。時代に敏感であることも、トラ食えが愛される大きな理由のひとつですからね」
　「（真剣な表情で）キャバクラですね」
　「（神妙にうなづいて）ええ、キャバクラです。そして、最終工程のブラッシュアップでは、視認性を高めるのに骨を折りました。ひとつの文章がひとつのウィンドウに収まるように調整する作業ですね」
　「具体的にはどのような作業だったのでしょう」
　「半角を全角にしたり、全角を半角にしたりする作業です。これがまた神経を使いましてね！　あまりの精神的な重労働に、頭がハゲあがるかと思いましたよ（笑）」
　「えっ」
　「いやだなぁ、もちろん言葉のアヤですよ」
　「えっ」
　「えっ」
　突然、画面の解像度が粗くなる。カメラが手前へ引いてゆくとスタジオの光景は遠ざかり、薄暗い部屋のモニターが映し出される。画面の前には一人の男が座っており、その手には携帯ゲーム機が握られている。
　「クソッ、わからない！　なんでG.Wなんだ！　何の変哲も無い、ふつうのゲームじゃないか！　なんでG.Wなんだよ！　もしかして、まだボクには見えていない何かがあるのか？　クソッ、ホーリー遊児め、どこまでボクに関心を持たれれば気がすむんだ！　読みといてやる、読みといてやるぞ……!!」
　インターホンの音が幾度も鳴っているが、男、携帯ゲーム機から顔を上げようとはしない。
　カメラは薄暗い部屋から薄暗い廊下を引いてゆき、玄関を通過し、やがて鉄扉の外側を映し出す。新聞受けからはみ出した広告が通路に散乱している。せむしの男、インターホンから指を離し、途方に暮れたといった様子でため息をつく。
　「トラ食え９が発売されてからと言うもの、ずっとこもりきりでヤンス。周陽も引き継いだ携帯ゲーム機のプロジェクトを投げ出したまま、辞表を提出しちまったでヤンス。枯痔馬監督、はやく戻ってきてくれでヤンス……」</description>
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         <pubDate>Sun, 19 Jul 2009 08:38:08 +0900</pubDate>
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         <title>少女保護特区（９）</title>
         <description>　私のために殺すとき、心は痛まない。誰かのために殺すとき、心は痛む。
　黒く巨大な影がゆっくりと顔をあげた。誰かの――もしかすると自分の――悲鳴を聞いたように思ったからだ。それは、震える音叉の右と左が否応に伝えるような、剥き出しの、痛覚さえ伴う共鳴だった。
　近づいている。私の魂と同じ色をした魂が近づいている。あれは、私が喪失してしまった片翼だろうか。
　いや――
　あの色合いは似非だ。あれは煤の集積した黒に過ぎぬ。拭えばたちまち黄疸のような、濁った地金を晒すに違いない。一人や二人多く殺したところで何も変わらぬ。家族の血でさえ、私にとって特別ではなかったのだから。
　そこまで考えて、心臓と胃壁を細く刺し貫くような違和感に気づく。久しぶりの感覚だった。仁科望美はその正体を知っている。それは、孤独である。悲しみも痛みも超越し、恐怖を己がうつし身とした。しかし、最後に残るのは、やはり孤独なのか。
　孤独は心を惑わせる。どんな強靭な精神も孤独に迷う。だが、孤独が他者へと向かう感情ならば、己よりも劣った相手へは生じぬはずだ。人間すべてを殺害できるのならば、行き先を失った孤独は、きっと霧消するに違いない。
　最初の少女が殺し続けることに何か理由があるとするならば、まさにこの歪な哲学こそがそれであっただろう。
　近づいている、近づいている。
　知恵と本能が渾然となった仁科望美の意識は、愉悦をもって目蓋の無い瞳をぐるりと回転させた。
　あれを殺害せよ、必ず殺害せよ。あれが私よりも劣っていることを証明しながら、入念に殺害するのだ。


　ものを作ることはものを壊すことと同じである。無限のような繰り返しのうち、最初に生じた意味を消滅させることで、それは完成する。ものを作ることの終着にあるのは、完全な無化だ。
　――これ以上は無理です！
　叫び声が、予を思索から現実へと引き戻した。
　ローター音の下で、操縦士の声はほとんど悲鳴である。無理からぬことか。ランキング二位の少女殺人者を一位の元へ同道する仕事なのだ。孕みきれず結露した死が眼前へ滴り落ち、複数の死を一時に求めえぬ人の身は、汚辱を伴った残虐さが支払いの代わりになることを否応に予期するのだろう。
　――もう少し近づいてください。姿の見えるところまで。
　精気の無い声。振り返れば、予の少女が日本刀を膝へ横抱きにして座っていた。視線はまっすぐ前を見つめているが、その実どこにも焦点がない。
　しかし、操縦士に湧き上がった感情は、予とは異なるものであったらしい。とたんに背筋を張り、操縦桿を握る指の関節は白くなった。
　ヘリは、次第に密度を濃くするようにさえ思える大気を裂いて、大和川上空を通過する。一年前の予は、少女殺人者とこれに乗る未来を予想していただろうか。青少年育成特区における観察対象、すなわち少女殺人者の動向を探るために導入された対少女哨戒機である。特区の成立に際して国から格安で払い下げられたが、メンテナンスにかかる費用は地方自治体の収入でまかなわれており、いまや相当度に老朽化していた。
　仁科望美を殺し、青少年育成特区を終わらせる。予と予の少女が得た結論には、一種の高揚感があった。だが、その感情的な側面は一人の少女にとっての最善を曇らせてはしまわなかったか。そして、予は本当にこれを望んでいるのか。
　成体までの被支配の歳月が、自立というよりは支配を求める人間の基本的な性向を決定する。最良の支配者、究極の王政が常に民主政を上回るように思えるのは、初源の不可避的な無力状態に起因している。人類がイデオロギーの呪縛より逃れるためには、まず何より幼年期の時間を消滅させる必要があるのだが、生物学的な事実がそれを妨げる。ゆえに、社会は個人に先行できない。個人の世界観は幼少期の感情生活によって致命的に影響され、それは成長して以後の価値判断を予め決定してしまうからである。卵と鶏の議論よりも明白な結論だ。この意味で予は運命論者にならざるを得ない。
　しかし、これは人の歴史が抱え続けてきた大前提を確認するに過ぎず、改めて指摘すべき内容とも思われぬ。近代の抱える新しい問題とは、かつてなら養育する者とされる者の間へ侵入して運命をゆらがせた外的な要因が薄まり拡散してしまったことにある。幸福は家族に矮小化され、不幸は世界へと巨大化する。
　家族へ背をむけ、世界を破壊する。仁科望美の殺害は象徴なのだ。これは、時代に向けてする予の復讐である。
　たどりついた結論を打ち消すために、予はかぶりを振って窓の外を眺める。眼下の大和川に、以前仮居していた橋桁が見えた。河原では、やはり何者かが炊事の煙を上げている。あれは自分か、自分はあれか。視界が倍率を上げるような没入の感じがあり、続いて自己が二重になる錯覚が生じた。茫洋とした、特徴に乏しい人影が立ち上がり、こちらへ手をかざす。この距離で視線が交錯するはずはない。しかし一瞬、痛ましい輝きを宿す瞳を覗き込んだ気がした。
　現実を直接手触りするときのざらついた感じに嫌悪感を覚え、予はそれを避けるように予の子飼いを眼前へと掲げた。思えばビデオカメラとは、意識の不滅へ捧げる信仰に近い。対象が消滅した後も、己の意識は存続しているという確信がなければ、撮影を行う意味がない。現在という熱を過去へ冷却し、対象の実際を越えることを願う。すなわち、撮ることの本質とは対象の消滅を祈願することである。
　予はそれの消滅を強く願いながら、録画ボタンを押す。RECの赤い文字が点滅すると、炊事の煙だけを残して橋桁はすぐに無人となった。


　付近の山林より、それは出現する。予の認識は最初、縮尺が狂っているのだと判断した。前傾した姿勢で、すでに電線へ届くほどの大きさである。しかし、両手が膝頭の付近にまで垂れていることをのぞけば、滑らかな曲線で構成された肢体は、未成熟の少女そのものであった。最初にして最強の少女殺人者、青少年育成特区の生まれいづる処――仁科望美である。
　ヘリの接近に気づいたのか、ふいにこちらへと顔を向けた。柔らかな卵型の輪郭の内側で、目蓋と唇だけが無い。予にとってこれは二度目の邂逅になるが、前回は宵闇のうちであった。すべての魔術を解く真昼の陽光の下で、なお仁科望美の異様さは少しも減じるところがない。
　突然、操縦士が許可を得ぬまま、ヘリの高度を下げ始めた。真っ赤になった両目と青ざめた頬が絶望のコントラストを成す。もはや背後からの圧力よりも、眼前の怪物から来るほとんど有形の恐怖に屈したのである。予は予の不快を伝えようと操縦士へと向き直った。
　――だいじょうぶです。もう、いけますから。
　だが、予の少女は静かに予を制止する。不快の正体は、操縦士の動物的な本能が予の少女よりも仁科望美の力を大きく見積もったところにある。予は不承不承うなづくと、足元の荷を接近する道路へと投げ下ろす。続いて、予と予の少女は、ホバリングに空中静止する哨戒機から共に飛び降りた。転倒する予を尻目に、予の少女は重さのない羽毛のように着地する。瞬間、足元が黒い影に覆われた。
　人の姿をした、人ではない何かが、上空より急速に予の視界へと迫る。目蓋の無い錆び色の瞳。甲殻類にも似た、生命からの共感を拒絶する濡れた質感。削げ落ちた唇は、赤黒い乱杭歯を隠さない。脳頂から差し込まれた恐怖が、すぐに諦念となって全身を呪縛する。狩られる者が狩る者に対して身を開くときの、あの麻痺だった。
　しかし、予の少女もまた、狩る者である。左手で荷をすくいあげながら、その勢いのまま予の腹へと右肩を差し入れ、跳躍する。巨大な少女は飛び立ちつつあった哨戒機を荒々しい陵辱のように両脚で挟み込むと、地面へと叩き伏せた。落下の衝撃と単純な質量へ耐えかねたフレームは、玩具のようにひしゃげる。
　一秒を引きのばす長い静止と、爆発。遅れてやってきた爆風が予の少女の陣幕をはためかせ、背後に吹き上がる炎は小柄なほっそりとしたシルエットを際立たせる。その表情はすでに、これから起こる殺害を疑わない少女殺人者の冷徹を湛えていた。予の少女は、何をすべきか迷わない。足元の荷を素早くほどくと、幾振りかの日本刀を取り出す。予の政治力が日本刀町に現存する業物のうちから最良の七本を蒐集したのだ。これらは、仁科望美を殺害するために準備された凶器である。
　予の少女は鞘を払うと、七本の刀を順に道路へと突き立ててゆく。少しも力を込めていないようなのに、抜き身はまるで熱したナイフのバタを裂くが如く、やすやすとアスファルトへ突き刺さる。やがて、予の少女の背を取り巻くように、刃の青白い半円が形成された。
　黒煙の中から現れた最強の少女が、天を仰いで咆哮する。火傷ひとつ無い。炎では、その肉を焼くのに冷たすぎたのだ。赤子の泣き声を逆回転でスロー再生したような、重く低い叫びが大気を震わせる。叫び声は音波となり、音波は物理的な衝撃波と転じて、左右に立ち並ぶ民家の窓ガラスを粉砕しながらこちらへと迫る。
　しかし、抜き身を片手にした予の少女は微動だにせぬ。まさか受け止めるつもりか。いや、背後に予が控えているせいで、回避できないのだ。正眼へ構えた日本刀が、衝撃波を左右に分かつ。予と予の少女が立脚するのは、さながら氾濫した激流の最中に残る中州だ。
　澄んだ音を立てて鋼鉄の刃が折れると同時に、激流は途絶える。四足に身を屈めた仁科望美が、長い前腕を地面に叩きつけて移動を開始したのだ。その速度は、見かけからは想像できぬほどに速い。
　予の少女が予を見、予はこめられた意図を感じとる。この戦いに、予は足手まといだ。だが、南北の街路へ東西に壁の如く差し渡す巨大な少女を前に、避ける場所などあるはずがない。予の思考は停止する。しかし、予の少女は判断を迷わなかった。新たな抜き身を口にくわえ、さらなる二本を左右へつかむと、東の民家へと駆け出す。目蓋の無い眼球が予の少女を追う。それは、フェイクだった。
　次瞬、ブロック塀を蹴って間逆へと跳躍した予の少女は、仁科望美に生じた死角へと身を投じた。二本の刀を交叉させると、右の手のひらをアスファルトへ縫いつける。突然に支点を得て、おそろしく巨大な臀部が回転しながら滑り、いくつかの家屋をなぎ払うように粉砕する。
　そこへ砂煙を裂いて、茶色に塗装された消防車が猛然と飛び出してくる。瞬間、予の身体は浮き上がった。軽い衝撃を感じた後、予はランブラーの屋根に横たわる己を発見したのである。傍らでは、死体処理用の手鉤をかつぎ、やくざに紫煙をくゆらすツナギ姿の妙齢女性が予を見下ろしている。
　――やあ、アンタだったのかい。死体を釣り上げたかと思ったよ、あたしゃ。
　予が予の少女の観察員となって間もない頃、予の少女によって行われたいくつかの少女殺人に立ち会った清掃局の職員である。一年以上を経てなお、予を予と認識できたのは、よほど予の発する何かが特別であるのに違いない。
　――まさか、二人とも生きてるとは思わなかった。まったく、あれから何人殺したのやら。
　家屋の残骸から、巨大な少女が立ち上がりつつある。左手から滴った血が下水へと流れこんでゆくのが見えた。殺せる。この生き物は、人類が殺せるのだ。
　仁科望美がうろうろと周囲を見回す。敵を見失ったのだろう。その背後に、抜き身を片手に電柱の上へ直立する予の少女がいる。半円を描くようにゆっくりと刀を正眼へと戻す。終わりだ。
　――けどね、今回ばかりは相手が悪すぎるよ。
　吸い口を噛み潰しながら、清掃局員は厳しく目を細める。何を言っているのだ。いま、勝利は正に達成されつつあるではないか。
　音もなく宙に身を躍らせる予の少女。呼応するように、仁科望美が振り返った。唇の無い口腔が歪む。笑っている。知っていたのか。回避行動の取れない空中へ、狡猾な演技で標的を誘い出したのだ。
　頬が膨らみ、右腕が鞭のようにしなる。群がる蝿に牛の尻尾がするような、無造作な一撃。しかしそれは、蝿にとって致命的である。
　予の少女はたちまちアスファルトへと激突し、大きく跳ねた。そして、動かなくなる。予は、接触の瞬間に予の少女が身を屈めるのを見た。衝撃は吸収されたはずである。ただ、信じるのだ。殺戮の日々が積み上げた予の少女の強さを信じるのだ。
　――あー、こりゃ死んだかもね。
　霊柩車にもたれかかりながら紫煙をくゆらせていた清掃局員は、煙を吐き出すのと同じような無感動でつぶやく。言葉に状況を確定させまいと息を潜めていた予にとって、その発言の無神経さは容認しがたかった。予は清掃局員をにらみつける。こめかみに白い切片を貼り付けた妙齢の女性は軽く首をかしげ、目を細めた。
　――出歯亀ぐらいに観察員なんて名前をつけて、全く連中どもはいけすかないが、その目を見る限り、もしかするとあんたは少し違うのかもしれないね。増岡ってんだ。紀の川水系を担当してる。あと数分ばかりのつきあいだろうが、よろしく頼むよ。
　皺がれた片手が差し出された。予は無言のままとりあわず、予の少女へ向けて再びビデオカメラを構える。予の少女は地面に倒れ伏したまま、微動だにしない。
　――嫌われたね、こりゃ。まあ、お互いにするべき仕事をするだけさ。
　増岡は、わざとらしくため息をつく。その間にも、仁科望美は腰を屈めるようにして、予の少女へと近づいてゆく。偽死を警戒しているのか。小柄な両肩はもはや上下しておらず、折れた刀をつかんだ右手は力なく垂れている。ノイズのような眩暈。撮影することは、対象の消滅を願うことである。ならばいったい、この行為が何を引き起こすことを望んでいるのだろう。
　ゆっくりと振り上げられた右足の影は、予の少女をすっぽり覆ってしまうほどに巨大だった。それが小さな身体を圧し潰さんとする正にその瞬間、予の少女は劇的に横回転して危地を脱する。そして、アスファルトを鞘にした抜刀術で、抜きざま右足へと斬りつける。しかし、狙いが充分ではなかった。分厚い爪に阻まれ、わずかばかり肉へ切り込んだところで刃はふたつに折れる。
　予の少女は新たに刀を引き抜くと、大きく後ろへと跳びすさった。仁科望美に訪れた変化が、次なる攻撃を躊躇わせたのだ。
　――二度も傷つけられた。あの化け物の自己愛にゃ、充分すぎる打撃だろうね。
　つぶやいた増岡の横顔には、軽口の様子からは遠い深刻さが浮かんでいる。
　――あの身体に肺呼吸じゃ、実際、動くのもままならんわね。ここからがアンタたちにとっての本番ってわけさ。
　それは、極めて生理的嫌悪に満ちた変化だった。肩口から背中の上面が波打ち、隆起する。少女が、少女の持つ柔らかさと滑らかさをそのままに、正体不明の皮膚病に侵されていくのを早回しにするような眺めである。
　――さしずめ、エンジンを積み替えてるってところか。
　やがて仁科望美の上半身へフジツボ状の突起がびっしりと並んだ。外観とは似合わぬ柔軟さで、それらは収縮を繰り返している。肥大した上半身は細身の下半身と異様なバランスを成し、突起に押される形で首は地面と水平に曲がっている。これが、殺し続けてた者の本性なのか。それはもはや、人の戯画へと堕していた。
　かつて少女殺人者だったものの成れの果て――人類に仇為す巨獣である。
　その背中に、小型の竜巻のような気流が発生する。肩越しの景色が陽炎の如くゆらいだかと思うと、突起からゆらゆらと褐色の気体が立ち上り始める。清浄な吸気は、糜爛した呼気へ。緩と急、二つの動作をあわせて、それは呼吸しているのだ。予は息苦しさが増した気がして、思わず喉元へ手をやった。
　巨獣は突如、予の少女へと風を巻いて襲いかかる。小動物の敏捷性を備えた鯨を思わせる、ほとんど物理法則を無視するような動きだ。長い前腕を鞭の如くしならせる一撃が発する轟音は、それがもはや音の壁を越える速度へと達したことを知らせる。触れれば、この世のあらゆる形象は崩壊するだろう。
　だが、単純に速度を比べあうならば、予の少女が遅れをとるはずはない。巨獣の攻撃は、次々と紙一重にかわされる。同時に、予の少女を包む陣幕は次第に切り裂かれてゆく。
　大きく蜻蛉を切って距離を取ると、予の少女は引き剥ぐように陣幕を脱ぎ去った。その下には、極めて精緻に肌へと密着した体操着がある。予の政治力が日本刀町以外の場所で特注させた逸品である。達人同士の戦いでは、いかに肌へ近い位置で攻撃を見切るかが決め手となる。繰り出される攻撃にこそ、最大の隙が存在するからだ。陣幕を脱ぎ去る暇もあればこそ、追いすがる巨獣の追撃は予の少女へと突き刺さった。しかし、それは残像である。予の少女はすでに前腕の内側にいた。巨獣の肩にある突起物のひとつが逆袈裟に切り裂かれ、赤黒い粘液が噴出した。仁科望美と同じく、予の少女もまたエンジンを積み替えたのである。
　ふたりの攻防は、影を追うのも困難な高速の戦いへと変貌した。巨獣の攻撃は、もはや予の少女をつかまえることができない。だが、攻撃が引き戻される隙をついた予の少女の反撃も皮一枚を裂くのがやっとである。傍目には激しい攻防にうつるが、その実は互いに決め手を欠いた、極めて静的な消耗戦なのだ。
　そして、永遠に続くと思われた均衡は、思いもかけぬところから崩れた。巨獣のひと振りに破砕された電柱が、瓦礫ごとランブラーへと飛来したのである。電柱は無人の運転席を貫いたのみだったが、予の少女はなぜか動揺を見せる。視線がこちらへと逸れる瞬間を、仁科望美は見逃さなかった。
　嘲笑、そして一撃。
　咄嗟の防御に差し入れた刀の峰はやすやすと破壊される。予の少女は地面と平行に長く滑空し、家屋の壁へ叩きつけられた。予の子飼いが倍率を上げると、予の少女の口の端から赤い泡が吹き、鼻から血が流れるのを写した。どこかで不滅を信じていた。信じる強さが足りなかったのか。まさか、死ぬ。世界の中心であったはずの、予の少女が死ぬ。
　――さあて、仕事の時間だ。
　増岡が手鉤をつかんだところへ、予は立ちはだかる。
　――相手が違うんじゃないかね。
　苦笑しながら、その女性はまっすぐに予を見た。
　――いいかい。いくら他人を殺したところで、一発殴り返されなきゃ、命が何かなんてわからないのさ。あんたの世界も、私の世界も、あの子たちの世界も、ぜんぶ自己愛から成り立っているからね。自分の命がどういう形をしてるかわからなけりゃ、他人なんざどこまでいってもただの書割りさ。一方的に殺してきたから、自分を生み出した長い営みの正体について、何ひとつ理解することができないでいる。どっちもね……ところでさ。
　鼻から細く煙を噴き出すと、吸いさしの煙草を人差し指で宙へはじいた。
　――いつまでそこへ突っ立ってるつもりなんだい。いまならまだ、あの子の人生に関わることができるんじゃないのかい。
　関わる。ただ少女の語り部であることで、少女と世界を連絡させてきた一観察員が、少女の人生に関わる。突然に来たしたパラダイムの転換に、思わず掲げていたビデオカメラを下ろした。視界からノイズが消えると、鼻腔へ鉄錆のような血の匂いが混じった。
　――この年になると、おせっかいが身上みたいになっちまう。まあ、いま動かなけりゃ、なんにもならないわね。
　殺害を確信した巨獣の吼え声が住宅街へこだまする。ビデオカメラが手のひらから滑り落ちる。レンズの割れる音が合図になって、駆け出した。あらゆる理性は頭から吹き飛び、ただ大の字に両手足を広げて、巨獣の前へ立ちはだかる。
　――殺させないぞ、馬鹿野郎。やれるもんならやってみろ。
　歯の根が鳴り、涙が出る。
　家族や、社会や、歴史や、世界や、ぜんぶくそくらえだ。本当のことは、この手の届く範囲だけが大切で、他はみんな消えてしまって構わないということ。けど、なんでいまさらなんだ。
　曲がった首は相手の行動に対する不審を表明しているようにも見える。闘牛が地面を掻くのにも似た動作でアスファルトの感触を確かめると、巨獣は身を屈めた。まばたきひとつほどの時間だったに違いない。それは、爆発的な速度でぐんぐんと視界へ拡大した。
　皮肉なものだ。説き伏せるのに有効な言葉を持たず、殺すのに有効な暴力を持たず、長く体験し続けてきた世界との対峙の構図を、この状況は余すところなく体現している。
　がしゃん。
　粗なガラス細工が破裂する音が体の中から響き、視界がアクロバットのように回転する。家々の屋根と巨獣の背中が見えた。少女の姿はない。懐かしい感覚。そういえば、昔は落ちる夢ばかり見ていた。うつぶせとあおむけ、アスファルトへ二回、大きくバウンドする。
　私――の目の前に広がるのは広々とした青空だった。ひとつながりの熱が全身を包んでいる。指一本動かない。痛みは不思議と無かった。
　私は、内側にあった私より大きなものが、私と同じ大きさへ収縮してゆくのを感じた。二人の少女の顛末はどうなったろう。重力に身を預けて、ようよう首を転がす。
　敵を見失った巨獣の背面へ、蜻蛉を切る少女。その手にある刀は、最後の一振り。
　ああ――
　いまこそ、この世の真実に気づく。
　私は、私たちは、子どもたちに、隣人たちに、そして見知らぬ誰かに、この世界へ充満する死と死、破滅と破滅との間隙で、わずかの生を与えるために存在している。
　そして、時に愛されたその究極の人物は――
　神速の斬撃は音もなく巨獣の首を通過する。刀身が、澄んだ音を立てて割れた。音叉が共鳴するような静寂と、時が吸い込まれるような静止。
　――人類を救済する仕事をするのだ。
　激しい血流が八方へ噴き、弾けるようにすべてが動きはじめる。巨獣の首は血の噴水に乗り、電線を超え、家々を超え、尾根を超え、入道雲を超えて上昇してゆく。
　その日、列島の各地から成層圏へと昇ってゆく生首が見られた。街頭で、市場で、公園で、学校で、会社で、病院で――ある者は泣いているように見えたと言い、ある者は笑っているように見えたと言った。ある者は両手を組みあわせ、ある者は眉を潜め、ある者は忌々しげに唾を吐き、ある者はただ好奇にカメラを向けた。
　最初の少女の葬送を偶然に目撃した人々へ共通するのは、誰も無関心のうちには見送らなかった、ということである。


　衛星軌道に乗った少女の生首が引く血の筋は、やがて土星の如く地球を環状に取り巻いた。夜空を見上げるとき、誰かが思い出すことを願ったのだろうか。
　名乗りでた唯一の係累は、米国航空宇宙局の支援を得た壮大な首実検を経て、それが確かに妹であることを確認した。頭髪に白いものの目立つ、柔和な面持ちをした初老の男性だった。
　このときの様子は感動の対面劇として、いささか過剰な演出を伴って生中継された。
　――妹さんの変わり果てた姿を見て、いまどんなお気持ちでしょうか。
　レポーター群から成される質問は、いずれ良識のある者ならば背筋の凍るような内容ばかりだった。
　――変わっていませんよ。
　しかし、その男性はどの問いかけにも、激さず、黙せず、ただ静かに答えた。
　――あの頃のままです。内気で、繊細で、寂しがりやで、この世の誰よりも優しい。少しも変わっていません。
　愛おしげに、つい、といったふうで生首の映るモニターへ這わせた右手は、人差し指を欠いていた。
　この瞬間、いずれの局も大慌てで番組をＣＭへと切り替えた。それまで申し訳程度のモザイクで損壊した死体を放映しており、倫理規定の運用が極めて恣意的であることが露呈したのである。
　男性は遺骨の回収を願い出たが、却下された。単純に、これだけの大質量を持ち帰るだけの技術を人類が持たなかったからだ。
　そして、仁科望美は天から地上を見守る存在となった。
　私は人工衛星に乗せられた、あの犬の話を思い出す。文字通り、真空のような孤独。宇宙塵に粉々に粉砕されるか、暖かい星の抱擁にからめとられるまで、最初の少女はあらゆる生命から離れて、ずっと一人きりでいることを許される。愛する誰かを遠く見守りながら。
　私は想像する。たぶん、私自身の幸せのために。もしかすると、仁科望美は最後に願いを叶えることができたのかもしれない。


　さて、地に残された人々の話を少しばかりしなくてはなるまい。
　幸いなことに私の怪我は、全身の打撲といくつかの単純骨折で済んだ。少女は私よりもよほど軽症であったが、病院側が融通をきかせたらしい、いくつかの精密検査が退院を長引かせた。
　白い壁に囲まれた穏やかで、何も無い日々。ふたりでたくさん話をした。全国を旅して回ったというのに、こんなに話をしたことはなかった。
　退院の日、ふたりで川沿いを歩いた。春の日差しに川辺から綿ぼうしが舞い上がる。偶然にふれあった指先から、お互いの手のひらをからめた。橋を渡る途中、ふと気になって欄干から身を乗り出す。ブリキの鍋がひとつ転がっているだけで、そこにはもう誰もいなかった。
　どちらから言ったわけでもない。足は自然に少女の生家へと向かっていた。門扉に手をかけると、わずかに鉄のきしる音がした。すべてはここから始まったのだ。
　――いま、帰ったよ。
　透き通った声が、玄関にこだまする。主を失った家屋はがらんとして、返事があろうはずもなかった。背後から差し込む陽光に舞う埃が、喪失の感じを強くする。私は座敷へ上がると、少女へと向き直り、声音を作った。
　――おかえりなさい。さぞかし、疲れたでしょう。
　少女は大きく両目を開いて驚いたように私を見つめると、泣き顔とも笑顔ともつかない表情を浮かべる。そして、意を決したように私の両腕の間へと身を投げた。少女の両親が死んだ日と同じように。
　布一枚の向こうにあるしなやかさを通して、少女の傷の形がありありと見える。家族や、社会や、歴史や、世界や、そんなものはぜんぶくそくらえだ。
　私は少女の背中に両腕を回すと、強く抱きしめた。せめて、この手の届く範囲のものだけは逃さないように。
　唇が重なると、呪うべきか、寿ぐべきか、すべては正しくなった。


　血のついた脱脂綿をジッパーつきのビニルに収める。少女はわずかに身を震わせて放心しているようだったが、毛布をかけて頭に手を置いてやるとすぐに眠った。
　私はベッドサイドの明かりだけを頼りに、幾枚もカーボンの写しが付いた書類を埋めてゆく。膨大な量である。実際にすべての記入が終わったのは、少女が起きだし、また眠り、そしてもう一度起きてきてからのことだった。
　翌日、私と少女は最寄の役場へと向かった。整理番号が印字された紙片を渡し、用件を告げる。丸眼鏡をかけて黒い肘あてをした職員は、いぶかしむように上目遣いで私と少女を見た。そして、整理棚の奥へと消える。
　長い時間が経った。少女が不安に私の袖を引く。すると、分厚いファイルを抱えた職員が戻ってくる。事務机にファイルを置くと、表紙に浮いた埃をひと吹きした。そして、眼鏡をぬぐいながら、「なにぶん、初めての申請でしてね。わかりませんよ」と小声で言った。
　その日、無数のAvenger Licenseのうちの一枚が初めて国へと返却され、ひとりの少女が少女殺人者であることを止めた。
　「予の少女」は永久に消滅したのである。</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">少女保護特区</category>
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         <pubDate>Fri, 19 Jun 2009 17:08:59 +0900</pubDate>
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         <title>痴人への愛（２）</title>
         <description>「いいお湯だったねえ、おまえさんっ」
　底抜けに無邪気な声音に、ふとつられてふりかえった。
「あんまりはしゃぐとあぶないよ」
　洗面器を小脇にかかえた女の子が、楽しそうにくるくると回る。苦笑しながらかたわらでいさめているのは、兄だろうか。両目が隠れるほどに前髪をおろしている。上着を脱ぐと、さりげない仕草で女の子の両肩へと乗せた。たちまち不満そうに口をとがらせるのが可笑しい。
「もう、保護者きどりなのね！　そんなカッコじゃ、寒いでしょ」
　タンクトップから健康な二の腕がのぞいていた。春が近づいたとはいえ、夜の大気はまだ冷たい。
「このくらいなら、へいちゃらさ。大陸はもっと寒かったからね。それより、――に風邪をひかせて、あとでお父さんにしめあげられるほうがこわいよ」
　めずらしい名前だったが、一回では聞きとれなかった。とたん、ころころと鈴のような笑い声がひびく。
　もし、きょうだいでないとすれば、輝くばかりの桃色に染まった頬は、湯ばかりが理由ではあるまい。なつかしい、痛いような気持ちが喉元へこみあげた。なんとなく立ちつくしたまま、この幸せなやりとりをながめる。
　ふたりの後ろ姿が曲がり角に消えると、コーデリアは寒さを思い出したかのように襟元を寄せた。小鳥尻とのあいだにも、たしかに蜜月はあったのだと思う。また、あんなよろこびはやってくるのだろうか。
　問いかけるように顔を上げた先に、答えが見えた。カーブミラーに映るゆがんだ鏡像は、すでに百年もうみ疲れているようだった。
　そして、先ほどの女の子はもしかすると、じぶんとそれほど変わらぬ年齢かもしれないと思いいたり、コーデリアは身内に真冬のような底冷えを感じたのである。
　小鳥尻が一週間ぶりにもどるというその日、コーデリアは近所の銭湯へ出かけた。もともとあまり汗をかかない体質に質素な食生活があいまって、風呂の無いアパートでの暮らしは苦にならなかった。ときどき、小鳥尻が酒を割るさいあまらせた湯で身体をふいた。
　切りつめた生活のなか、正直かたちに残らない三百円の出費は痛い。しかし、久しぶりに帰宅する恋人に、最良の姿を見せたいという想いがまさった。つまるところ、失望されたくない、捨てられたくないという共依存が、ふたりの関係へ力学として作用しているのだが、幸いにもというべきか不幸にもというべきか、コーデリアはそれを言葉にできるほど賢明ではなかった。
　オレンジ色に射す西日の中で味噌を溶くと、鍋からふわりと暖かさが広がる。この、幸福に満たないぬくもりをコーデリアは愛した。むくわれて然るべきと感じられるこのささやかさが、願いのはかなさによくみあうからだろう。
　卓上の夕食はいつもより一品、菜が多かった。小鳥尻の帰宅は、すべてが冷えてからだった。案の定、ひどく酔っていて、そして舞台にいるときのように上機嫌だった。
「ごめんね、昔のファンが集まって、宴会になっちゃってさ……でもすごいのよ、もう大盛りあがりで、私ひさしぶりにすごく楽しくって」
　玄関でひさしくなかったような熱い口づけをすると、コーデリアに菓子袋を押しつけた。
「ファンのひとりにもらったの、すごく上等なお店のケーキなんだって」
　袋には、大量生産で有名なチェーン店のロゴが刻印されていた。だまされているのか、だまそうとしているのか、コーデリアにはわからなかった。気が高ぶらぬよう、声がかすれぬよう、ゆっくりと唾を飲みこんでから、言った。
「お水くんだげるから、座ってて」
　蛇口をひねると、白く濁った水道水がプラスチックのコップへ満たされてゆく。この上機嫌は良くない兆候だ。こころはまるで振り子のように、上がったぶんだけかならず下がる。なぜみんな、そっと静止させておいてくれないのだろう。
「もうすごいのよ……みんなずうっと私のことをほめてくれてね、アンタはすごい芸人だって、大好きだって、愛してるって……だから、うれしくなってね……みんな私のオゴリにしちゃった……」
　語尾をひそめてうかがい見るのは、やはりすこしは後ろめたいからか。おそらく酒が言わせたのだろう、ファンと名乗る人物たちの無責任な発言を、コーデリアは呪いたいような気持ちになった。ふだんは臆病で人嫌いの小鳥尻なのに、どういうわけか己を肯定してくれる言葉だけはびっくりするほど素直に信じこんでしまう。
　わずかばかりを節約したところで、破滅への秒読みはいつも大幅に繰り上げられる。コーデリアはじっさい視界が狭まるような錯角を感じ、わずかに首をふった。やさしくて純粋なこの人は、左右からふたりを圧しつぶそうと迫る絶望の壁へさしわたすつっかい棒が、この世に金銭しかないということがわからないのだ。いっしょにいられるなら死んでもいいと思ってついてたきたはずなのに、いざそれが現実的な結末として近づいてくると、なぜこんなにも悲しくてつらくて、胸が痛むのだろう。
　後れ毛をはねのけるふりで、そっと目尻をぬぐう。笑顔を作ってふりかえったところで足に力が入らなくなり、コップを抱えたまま膝からその場にへたりこんだ。
「怒ったの？　ねえ、怒ってるの？」
　小鳥尻は台所の板敷きに正座する形のコーデリアへいざり寄ると、膝に顔を埋めて腰へ手をまわした。コーデリアは思う――この人がじぶんからやってくるのは、だれかにゆるしてほしいときだけだ。
「でも、聞いて！　集まりに局の人がいてね、十年も同じ芸でもつのがすごいって言ってくれて……で、私の芸はあんまりすごいから、いっしょに仕事してみたいって。だからきっと、またテレビに出られるわ……そうしたら、こんなアパートひきはらって、ふつうの人みたいに……」
　小鳥尻の声はそこで小さくなっていった。
「ねえ」
　――落ちる。
　コーデリアには次の言葉がもうわかっていた。こぼさぬようコップをかたわらへ置くと、広い背中をさすってやる。
「死のっか」
　魅惑的な負の演技に引きこまれぬよう注意しながら、じゅうぶんな間をとって、言った。
「テレビ、出るんでしょ」
「出れるわけないじゃない」
　驚いたことに、小鳥尻は即答する。妙にきっぱりとした口調だった。
　しかし、続く言葉は夢見るようにかすんだ。
「私ね、舞台に上がる前は奇跡が起きるような気がするの。もし、この舞台をうまくやり終えたら、みんなが私に拍手をして、そうして次の日からは誰からも愛されるように、誰からも必要とされる私になれるんじゃないかって思うの」
「うん、うん」
　小鳥尻の求める愛は、無条件の愛だ。赤子が母親に求めるような、本人にとっては生命の存続にかかわる重大な愛だ。けれど、この世のだれがその重さを引き受けてくれるというのか。
「でもね、私わかってるの。それは祈りみたいなものなの。いつもかならず、裏切られるの」
　コーデリアは黙って背中をさすり続けた。
「昔ね、みんなが私を見て笑ってるときにね、いま心臓マヒとかで死ねたらなって、よく思った。だれか、私の芸でみんながいちばん盛りあがってるときに、撃ち殺してくれないかな。みんなが私だけを見て笑ってるときに、うしろからぱぁんって」
　まばたきすればこぼれそうで、コーデリアはただやさしく目を細めた。
「じゃ、こんどテレビ出たとき、殺してあげる」
「うん、殺して。きっと殺してね」
　曖昧な、子どものような口調でそうつぶやくと、小鳥尻はそのまま眠りに落ちた。
　月光が照らすその横顔は、死人のように青白かった。きっと、小鳥尻という存在はとうの昔に死んでしまっているのだ。人工呼吸器につながれた脳死患者のように、むなしい希望を永らえさせているだけなのだ。
　だが、またひとつの危うい瞬間を乗りこえ、小鳥尻の生命を明日へとつないだことに、コーデリアはある種の満足を覚えているじぶんに気づいた。そしてそれは、ひとつの決意へと昇華する。
　この人の、最期の瞬間を看取る。できるだけ長く、小鳥尻を生かしてやろう。
　そう、まるでひとつの季節をしか生きない昆虫が、虫かごという牢獄で越冬するように。</description>
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                  <category domain="http://www.sixapart.com/ns/types#category">小鳥の唄</category>
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         <pubDate>Fri, 03 Apr 2009 17:33:56 +0900</pubDate>
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